第12話 地下退避はスタッフ通路――家賃200万の要塞5LDKに当日入居した
数分後。
俺はスタッフ用エレベーターで地下へ降ろされ、地下駐車場に出た。
警備員さん付き。
状況が状況すぎて、逆に変な冷静さが出る。
「……俺、魔石売っただけなのに……」
山崎店長が最後に言う。
「高セキュリティ物件、紹介できます。家具付き、即入居可能。今日、入れます」
「今日……?」
「今日です」
現実のスピードが速すぎる。
「……まあ……なんとかなるか……」
自分で言って、自分で震えた。
地下駐車場の出口から、ビルの外周に人影が見えた。
カメラ。スマホ。三脚。
スーツの人もいる。派手な服の人もいる。
「うわ、ほんとだ……」
中には、見覚えのある顔までいた。
「あれ……高校の同級生に似てる……いや、似てるだけだよな……」
似てるだけだと思いたい。
俺はパーカーを深くかぶって、車に乗り込んだ。
山崎店長の手配したタクシー。
「行き先、こちらで共有済みです」
「……ありがとうございます……」
頭を下げると、山崎店長は最後に低い声で言った。
「“楽しい”は守ってください。……シンゴさんの人生は、まだ始まったばかりです」
その言葉だけが、やけに胸に残った。
着いた物件は、想像以上だった。
オートロック、じゃない。
顔認証。二重ゲート。
エレベーターにも鍵。
フロアに一室。廊下がない。
「……要塞?」
内見担当の人が、にこやかに言う。
「安全性は国内トップクラスです。間取りは5LDKになります」
広い。というか、広すぎる。
俺ひとりで、絶対に持て余す。
そして、さらっと追い打ちが来た。
「家賃は月額、二百万円です」
「……に、にひゃく」
二十万じゃない。二百。
「二百……万?」
担当の人が頷く。
俺は、心の中で電卓を叩いた。
さっき入ったお金。税金。生活費。
……いける。いや、いけるけど。
「……昨日の俺に見せたら気絶しますね」
担当の人が笑った。
「本日すぐご入居も可能です」
俺は迷った。
迷ったけど――外の人影を思い出した。
「……決めます。ここで」
自分でも驚くくらい、声が落ち着いていた。
「夢のまま、行けるとこまで行こう」
その夜。
“全部おまかせ”の引っ越し業者が来た。
時間は深夜。
目立たないように、裏口から。
段ボール数個程しか詰めるほど物がないのが救いだった。
俺の生活、薄い。
運ぶより、数えるほうが早い。
必要最低限の作業が終わって、新居のドアが閉まる。
静かだ。
外の音が、消える。
玄関で靴を脱いだ瞬間、どっと疲れが押し寄せた。
「……はぁ……」
ソファに沈む。
背中の力が抜ける。
タオルに包まれた鎧と剣。
――さっきまで“千億超え”って言われてたやつ。
取り出して、台に置いてみる。
銀色が、部屋の照明を返して淡く光る。
「……似合わねぇな」
思わず笑って、でもすぐ真顔になる。
怖い。
けど――今日ここまで来たのは、これを手放すためじゃない。
俺は一息ついて、鎧をもう一度タオルで包み直した。
スマホを見る。
通知はまだ止まってない。
登録者が増えました。
メンション。
DM。
まとめサイト。
“シンゴの正体”考察。
「……こわ」
でも、不思議と嫌じゃなかった。
怖いのに、どこかワクワクしてる。
俺は天井を見上げて、小さく笑う。
「……人生リセットって、こういうことかよ」
目を閉じて、息を吐く。
「なんとかなるか」
そして、心の奥で決めた。
明日も――ダンジョン潜ろう
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