第11話 「これ、値段つけたら危険です」――鑑定室が凍った“神話級装備”、推定は千億超え
「はい……これも、お願いします」
俺はリュックから、タオルでぐるぐる巻きにした銀色の鎧と、剣をそっと取り出した。
応接室の空気が、また一段だけ変わる。
山崎店長が、目線だけでスタッフに合図した。
「……こちらは、奥の鑑定室で行います。失礼ですが――霧島様にも同席いただけますか」
「え、あ、はい」
連れて行かれたのは、さっきの応接室よりさらに“検査室”っぽい部屋だった。
白い台、透明なケース、金属の箱みたいな機械。
一般人が入っちゃいけない雰囲気がする。
「うわ……俺、何のイベント踏んでるんだ……」
山崎店長は苦笑しつつ、すぐ真面目に戻る。
「安全のためです。……失礼しますね」
まず鎧。
胸当てを台に置いた瞬間、スタッフが息を止めたのが分かった。
機械が、ピッ、ピッ、と反応して――すぐ止まる。
画面が一瞬だけ文字を出して、消えた。
【測定不能】
【範囲外】
「……え?」
山崎店長が、別の機械に切り替える。
今度は時間が長い。
低い駆動音が続き、やがて。
表示が出た。
【分類:未登録】
【等級:神話級(推定)】
【銘:キングはぐれミスリルスライムの鎧】
防御+255
敏捷+255
魔法軽減90%
ブレス軽減90%
状態異常無効
HP自動回復(特大)
「……」
俺は、声が出なかった。
「霧島様」
山崎店長の顔から“接客”が消えていた。
仕事の真顔だ。
「協会アプリが“鑑定不能”になるのも当然です。これは……一般流通に出ていないクラスです」
「……そんなの、俺が着てたんですか」
「はい。数値も性能も、桁が違います」
桁が違う。
昨日まで契約社員の俺に、似合う単語じゃない。
次、剣。
タオルを解いた瞬間、部屋の照明が反射して刃が淡く光った。
スタッフが半歩、距離を取る。
「……こっちも?」
山崎店長は頷く。
機械にかける。
数秒で止まる。
画面が一瞬だけ文字を出して、消えた。
【測定不能】
【範囲外】
別の機械。
しばらくして――表示。
【分類:未登録】
【等級:神話級(推定)】
【銘:キングはぐれミスリルドラゴンの剣】
攻撃+255
器用+255
防御50%貫通
結界特効
投擲時防御無効
自動帰還
「……自動帰還って何」
思わず言うと、山崎店長が淡々と答えた。
「投げても戻ってきます。……武器の概念が変わりますね」
「やめてください怖い」
自分の声が乾いているのが分かった。
山崎店長は一度、深く息を吐いてから、はっきり言った。
「霧島様。率直にお伝えします」
「……はい」
「この二点――市場価格を付けること自体が危険です」
「……危険?」
「“売れない”ではありません。値段が出た瞬間に、人も組織も動きます。強奪・脅迫・誘拐――現実になります」
「誘拐……」
喉の奥が、ひゅっと狭くなる。
山崎店長が続ける。
「当店の推定では――それぞれ、千億円を超えます」
「……せん……おく?」
さっき億でフリーズしたのに、次は千億。
頭が追いつかない。
山崎店長は机の上に名刺を置いた。
「こちら、私の直通の電話です。今後、何かあれば必ず連絡してください」
名刺の角が、妙に鋭く見えた。
「……で、どうすれば……」
俺が弱く聞くと、山崎店長は二択を提示した。
「一つ。政府管轄の収蔵機関に預け、保全してもらう。安全性は上がります」
「……預ける」
「二つ。持ち主であるシンゴさんが使い続ける前提で、能力の“詳細”を外に出さない。つまり、情報管理を徹底する」
俺は剣を見た。
軽いのに、怖い。
でも――今日ここまで来たのは、これを“手放す”ためじゃない。
人生をリセットするために、俺はダンジョン配信を始めたんだ。
逃げじゃない。やり直しだ。
そのための“武器”なら――手放す理由がない。
「……俺、これ……使います」
自分でも驚くくらい、はっきり言えた。
「ただ……今のまま表に出たら、絶対に面倒になる。だから、装備の性能は誰にも言わない。配信でも悟られないようにする。俺が管理して、俺が使う」
山崎店長が、ゆっくり頷いた。
「はい。それが現実的です。“使う”ために、“漏らさない”。順番を間違えないことです」
「……分かりました」
山崎店長は、さらにもう一つ言った。
「住居です。今のまま帰宅すると、特定されます。今日は特に危険です」
「え?」
山崎店長がタブレットを見せる。
そこには、俺の切り抜き。
そして――店舗ビル前のライブみたいな投稿。
『銀座でシンゴ見た』
『今あのビル入った』
『追うぞ』
「……うわ」
胃が、キュッと縮む。
山崎店長が淡々と言った。
「すでに人が集まり始めています。……映画みたいですが、裏のスタッフ通路から地下へ抜けましょう」
「映画?」
「そうです。安全のために」
俺は名刺を握り直し、リュックの口をきつく閉めた。
背中に回すと、鎧と剣の重みが、さっきより現実的にのしかかる。
――外に出た瞬間、何が起きる?
喉が鳴る。
「……行きましょう」
山崎店長が一度だけ頷いた。
「こちらへ」
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