表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/111

第103話 猫人族メイド――初めての居場所

ダンジョンを後にした頃には、すっかり日が傾いていた。

俺たちはいつものようにタクシーでマンションへ戻る。


セリナは窓の外を静かに眺めていた。


流れる街並み。

夜でも明るい道路。

高層ビルの光。


表情は変わらない。


けれど。


尻尾だけは正直だった。


ぶわっ。


猫が驚いた時みたいに太く膨らんでいる。


「シンゴ様」


「ん?」


「先ほどから道沿いに光っているものは何でしょうか」


「街灯だな」


「街灯……」


真面目に頷く。


数分後。


マンションへ到着した。


入口へ近づく。


天井のカメラがこちらを向いた。


ピロン♪


【顔認証:OK】


自動ドアが開く。


「シンゴ様、これは?」


「顔認証」


「なるほど」


頷く。


だが尻尾はさらに膨らむ。


エントランスへ入る。


「お帰りなさいませ」


機械音声が響く。


「シンゴ様、これは?」


「音声案内」


「なるほど」


頷く。


だが尻尾はもっと膨らむ。


エレベーターへ乗る。


「15階へ参ります」


「シンゴ様、これは?」


「エレベーター」


「なるほど」


頷く。


尻尾は完全にモフモフだった。


「ふふふっ……」


ノエルが肩を震わせる。


「尻尾が正直すぎるのよ」


「にひひ♪」


クロエも笑う。


「驚いてる。驚いてる」


「そのようなことはございません」


即答するセリナ。


だが尻尾だけは嘘をつかなかった。



部屋へ戻る。


最後に空いていた部屋の扉を開いた。


「ここだ」


ベッド。


机。


収納。


十分な広さがある。


「ここはセリナの部屋だから好きに使ってくれ」


セリナが固まった。


「……え」


珍しく反応が遅い。


「わたくしに部屋を?」


「そうだけど」


「そのようなお気遣いは不要でございます」


即答だった。


「大部屋の隅ででも寝させていただければ十分です」


思わず笑いそうになる。


ノエルなんて初日に勝手に一番広い部屋へ入り、


『ここ私の部屋!』


と言い切ったのだから。


真逆である。


「ここではみんな自分の部屋を持ってる」


俺は言った。


「ノエルも」


「当然!」


「フィーネも」


「……はい」


「クロエも」


「もちろん♪」


セリナを見る。


「だからセリナも同じだ」


少し沈黙があった。


セリナは部屋を見渡す。


窓を見る。


ベッドを見る。


そして小さく頭を下げた。


「……このような立派なお部屋までご用意いただき、感謝の言葉もございません」


少しだけ声が震えていた。


「大切に使わせていただきます」


尻尾だけが、嬉しそうに揺れていた。



夕食の時間になった。


例によって冷凍食品だ。


レンジへハンバーグを入れる。


ピッ。


スタート。


一分後。


チーン。


完成。


セリナが固まった。


「シンゴ様」


「ん?」


「これは……魔法でしょうか」


「現代の魔法、冷凍食品だな」


「れいとう食品……」


さらにチャーハンを温める。


チーン。


完成。


「これは保存食でしょうか?」


「そうだな。家でないと調理できないが保存食だ」


セリナは真剣な顔でチャーハンを見つめていた。



食卓へ並べる。


俺とノエルはビール。


クロエは赤ワイン。


フィーネは麦茶。


セリナは遠慮がちに言った。


「わたくしは水で十分でございます」


するとフィーネが小さく手を挙げる。


「……セリナさん」


「はい」


「わたしと同じ麦茶はどうでしょうか……美味しいですよ」


ナイスだフィーネ。


「では……頂いてみます」


コップへ注ぐ。


そして乾杯。


「それじゃあ新しい仲間に」


「かんぱーい!」


セリナも少し遅れて、


「か、かんぱい……でございます」


皆で笑った。


そして食事。


セリナがハンバーグを一口食べる。


固まった。


チャーハンを食べる。


また固まった。


「……保存食で、ここまで美味しい物が作れるのですか」


本気で驚いている。


だが次の瞬間。


その瞳に火が灯った。


「負けていられません」


「ん?」


「シンゴ様!」


急に身を乗り出す。


「わたくし、以前のパーティでは料理担当として鍛えられておりました!」


「へぇ」


「ぜひ一度、お召し上がりくださいませ!」


俺は笑う。


「それは楽しみだな」


「食べたーい!」


ノエルが即答。


「クロエもー!」


クロエも手を挙げる。


セリナは少し照れながらも嬉しそうだった。



翌日。


俺たちはダンジョン協会へ向かった。


目的はセリナの保護申請だ。


自動扉を抜けた瞬間。


空気がざわついた。


「おいおい……またシンゴか」


「次は獣人のメイドだぞ」


「どうなってるんだあのパーティ」


「可愛すぎるだろ」


まあ、そうなる。


天使。


エルフ。


ダークエルフ。


そこへ猫人族メイドだ。


目立たない方がおかしい。


クロエはそんな視線を受けても楽しそうだった。


「セリナ♪みんなセリナをみてるよ!いいな!いいな」と言って、にひひと笑う


「そんな……何かの間違いでは」


セリナは首を傾げる。


「先ほどからシンゴ様のお名前ばかり聞こえておりますので」


自分じゃなくて俺が見られていると思っているらしい。


「さすがはシンゴ様。ご高名でいらっしゃいます」


ノエルが肩を組んできた。


「ふふん♪」


そのままセリナの肩にも腕を回す。


「なんだかんだ良いパーティに来たと思うわよ」


「毎日が楽しく過ぎていくわ」


「そうね♪幸運だと思うわ!クロエたち♪」


セリナは小さく微笑んだ。


少し照れくさい。



番号札を取る。


呼ばれる。

個室へ入る。


予想はしていた。

やっぱり同じ担当だった。


ノエルの時。

フィーネの時。

クロエの時。

そして今回も。


担当女性が苦笑する。


「また異世界人の保護申請でお間違いないでしょうか」


「はい……すいません」


「もう顔なじみよねね」


ノエルが楽しそうに笑う。


手続きは滞りなく終わった。


そして。

セリナの保護登録が完了した。


「これで保護申請は終わりだ」


俺は言う。


「セリナは正式にうちにいて問題ない」


そして小さく続けた。


「……よろしくな」


セリナは胸の前で両手を重ねる。


静かに一歩下がる。


そして深く頭を下げた。


「身に余るご厚意を賜り、心より感謝申し上げます」


顔を上げる。

いつもの落ち着いた表情。


だが尻尾だけは隠せない。


ゆっくり。

左右へ揺れていた。


「固い!」


ノエルが叫ぶ。


「硬すぎるわ!」


そしてセリナの肩を抱く。


「ここでは誰もが自分を大事にしていいの!」


お前はもう少し遠慮して欲しいんだが。。。



保護申請を終えた帰り道。


セリナは何度も、首から胸元へ手を当てていた。


もう首輪はない。


命令も聞こえない。


「防げ」


「止めろ」


「前へ出ろ」


そんな声も聞こえない。


代わりに聞こえるのは――


「今日のセリナの晩ご飯楽しみ!」


「……わたしもです」


「セリナも一緒に呑もう♪」


騒がしい仲間たちの声だった。


セリナは少しだけ目を細める。


そして、小さく呟いた。


「……賑やかでございますね」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


けれど、その尻尾は嬉しそうにゆっくり揺れていた。


もう奴隷ではない。

もう命令だけで動く盾でもない。


猫人族の守護盾セリナ・フェリス。

新しい仲間の生活が、今日から始まるのだった。

【フォローで更新通知が届きます】

★評価・ハート・ブックマークで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ