表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/110

第102話 奴隷卒業――猫人族の守護盾が仲間になった

ノエルのおかげで、何とか足がくっついた。

まだ少し違和感は残る。


だが、立てる。

歩ける。

それだけで十分だった。


「……シンゴさん、良かったです……!」


フィーネが半分泣きながら、俺の手をぎゅっと握ってくる。

耳もぺたんと寝ていた。

本気で心配してくれていたらしい。


「お兄ちゃん! 良かったね♪」


今度はクロエが勢いよく飛びついてきた。

どーん、と胸からぶつかってくる。


「ぐえっ」


「生きてる生きてる♪」


「今くっついたばかりなんだが!?」


クロエがけらけら笑う。


その横で、ノエルが腕組みした。


「ふふん。この天才天使に感謝しなさいよ」


「してるしてる」


「感謝の証は大吟醸でいいわね」


「分かった。分かった」


「よろしい」


いつもの調子だった。


さっきまで死にかけていたのに。

こういう空気に戻れるのは、正直ありがたい。


そんなやり取りを見ていたセリナが、静かに前へ出てきた。


そして。


俺の前で膝をついた。


深々と頭を下げる。


「シンゴ様」


その声は真剣だった。


「どうか、わたくしの主人になっていただけないでしょうか」


「……ん?」


思考が止まった。


主人?



セリナは顔を上げないまま続ける。


「先ほど、壁へ叩きつけられそうになったわたくしを、自らのお身体を盾として受け止めてくださいました」


静かな声だった。


「さらに、わたくしのような者へ『ありがとう』というお言葉まで賜りました」


肩が小さく震える。


「そのようなお言葉を頂いたこと、生涯一度もございません」


俺たちは黙って聞いていた。


「身命を賭してお救いいただき、心までも救っていただきました」


セリナは頭をさらに下げる。


「どうか、このセリナ・フェリスに、生涯の忠誠を捧げさせてくださいませ」


何というか。

献身的というか。

不遇というか。

そんな言葉しか浮かばなかった。


俺はセリナの前にしゃがみ込む。

目線を合わせる。


「主人は勘弁してくれ」


セリナが固まった。


「でも、仲間なら喜んで」


そして笑う。


「むしろ、こっちからお願いしたい」


「……なかま?」


信じられないものを見る顔だった。


「でも、わたくし獣人ですよ?」


「関係ありません」


「物心ついた時から、ずっと奴隷でした」


「これからは違います」


俺は首を振る。


「たぶん、あの首輪で縛られていたんですよね」


「……」


「その首輪はもうない」


セリナは首元を押さえた。


「今のあなたは自由だ」


俺ははっきり言う。


「奴隷じゃない」


「しかし……」


言葉が続かない。


その時だった。


「もー! 硬い硬い硬い!」


ノエルが後ろから飛びついた。


「ひゃっ!?」


セリナが悲鳴を上げる。


「硬すぎるのよ! そんなの気にしなくていいの!」


ノエルは肩を組む。


「そのシンゴさん、こう見えて結構お金持ってるんだから♪」


「余計な情報を足すな」


「事実でしょ?」


まあ事実だが。


クロエも笑いながら近づいてくる。


「いいじゃん♪」


ぽんぽんとセリナの肩を叩く。


「魔法使いとしては、タンクが仲間になるの超嬉しいし」


フィーネもこくこく頷いた。


「……いいと思います」


セリナが困ったように周囲を見渡す。

こんな風に受け入れられるとは思っていなかったのだろう。


その時だった。


「セリナ」


低い声が響く。

全員の空気が変わった。


勇者レオンだった。


「帰るぞ」


その言葉だけで、セリナの身体がびくりと震えた。


俺は一歩前へ出る。


「少し待ってください」


レオンが眉をひそめる。


「セリナさんは、俺たちの仲間になりたいと言っています」


「仲間?」


レオンが鼻で笑う。


「そいつはこの勇者レオンの奴隷だ。俺の言うとおりにするんだ!」


空気が冷えた。


「勝手なことを言うな!」


俺は肩をすくめる。


「ここの世界には奴隷はいません。誰もが自分で何をするのかを決める自由があります」


「何だと」


レオンの顔が変わった。


「セリナさんも同じです」


俺は続ける。


「この世界に来た時点で、セリナさんも一人の個人として自由を手に入れています。誰もそれを邪魔することも阻害することもでないのです」


「しかし……!」


「先ほどまで魔法の首輪で無理やり従属させていた様子です。そんなことはこの世界では許されません。しかも、その首輪も先の戦闘で無くなった様子です。もう誰も彼女を縛ることはできませんし、させません」


俺はセリナを見る。


レオンの拳が震えた。


「セリナにはいくら使ったと思っている!」


「関係ありません」


即答した。


「彼女は自由です」


「貴様……!」


「しかも本人は仲間になりたいと言ってくれている」


俺は言い切る。


「当然、歓迎します」


レオンの顔がみるみる赤くなっていく。


「誰であろうと、仲間に危害を加えるものを俺は容赦しません。全力で守ります」


「きさま!」


「それに」


俺は少し首を傾げた。


「それにあなたは、セント・リバイス王国にて、光の加護を受けし勇者だそうですね」


レオンが胸を張る。


「そうだ!俺は勇者だ!誰もが俺に敬服する!」


「そのような勇者が、国ではなく、一人の少女を幸せにできないはずはないと思います」


レオンの表情が固まった。


「勇者なんですから」


言い返せない。

そんな顔だった。


悔しそうに歯を食いしばる。

拳が震える。


だが、反論の言葉は出てこない。


「セリナ!」


最後に叫ぶ。


「後悔することになるぞ! 光の勇者から離れれば加護も失う!」


セリナは静かに首を傾げた。


「加護を受けた記憶はございません」


レオンの顔が引きつる。


「ですが」


セリナは俺を見る。


「生涯を懸けたいと思える方と出会えたことこそ、最大の加護かもしれません」


「忠誠じゃなくて仲間な」


俺は訂正した。


セリナが少し困った顔をする。


レオンは黙り込んだ。

本気で迷っているようだった。


ここで強引に連れ帰れば、こちらと戦うことになる。

だが、セリナはもう従わない。


しばらくして。


「……よかろう」


レオンが吐き捨てる。


「あの獣人は好きにしろ!」


振り返る。


「ヴィオラ! カゲツ!」


賢者と忍者が近づく。


二人はこちらをちらりと見た。

ヴィオラは何か言いたそうだった。

カゲツは無言だった。


「帰るぞ」


レオンは吐き捨てる。


「こんな忌々しい場所はこりごりだ」


三人は白い亀裂へ向かう。


光の裂け目。

異世界へ続く門。


そして、その中へ消えていった。


最後に光が揺れる。


白い亀裂が細くなっていく。

やがて一本の線になり――


静かに閉じた。

完全な沈黙が訪れる。


勇者パーティは去った。



セリナの目から流れる涙は、しばらく止まらなかった。


ノエルは慌てる。

クロエは困ったように笑う。

フィーネはそっとハンカチを差し出した。


そして俺は、そんな仲間たちを見て思う。

気が付けば、また一人増えていた。


天使がいて。

エルフがいて。

ダークエルフがいて。


そして今度は、猫人族の守護盾だ。


「……賑やかになりそうだな」


そう呟くと、セリナは涙を拭いながら小さく笑った。


その笑顔は、きっとこれまでで一番自由な笑顔だった。

【フォローで更新通知が届きます】

★評価・ハート・ブックマークで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ