EP 9
村人たちの畏敬。「あの人、伝説の『お掃除勇者』じゃ…?」
「パンッ! パンッ!」
「ダニの野郎ォ! 俺たちの手で一匹残らず叩き出してやるゥゥッ!」
「うおおおおッ! お日様の匂いが最高だぜェェェッ!」
ポポロ村の広場に、屈強な男たちの野太い叫び声と、リズミカルな布団叩きの音が響き渡っていた。
ルナミス帝国の最精鋭・飛竜騎士団。
彼らは今、全員が眩しい『白ブリーフ一丁』という姿で、涙と汗を流しながら村人の布団を全力で叩き続けていた。彼らの相棒である飛竜たちも、ツルツルに洗い上げられたピカピカの体で、大人しく物干し竿の支柱代わりにされている。
「うん、その調子だ! 裏面も忘れるなよ!」
俺は腕を組み、現場監督のように頷いた。
その横では、リリスが「九条さん! 飛竜さんの背中、ツルツルで滑り台みたいですぅ!」と遊び、リーザが「わたくしめの芋ジャージも、帝国のエリートに叩いてもらえるなんて……」と感涙している。
そんな平和(?)な光景を、広場の隅から冷や汗を流しながら見つめる三つの影があった。
ポポロ村村長のキャルル(月兎族)、村の宰相兼執事のリバロン(人狼族)、そして財務担当の商人ニャングル(猫耳族)である。
「……信じられません。帝国最強と謳われる『黒雲の飛竜騎士団』が、あんな……あんな姿に……」
キャルルは、震えるウサ耳を両手で押さえながら呆然と呟いた。
元・獣人王国の近衛騎士隊長候補であった彼女だからこそ、あの部隊の恐ろしさは骨の髄まで知っている。小国なら半日で灰にする彼らが、たった一人の男の「霧吹き(重曹水)」一発で墜落させられたのだ。
「フフッ……素晴らしい。実に素晴らしい『蹂躙』ですな」
隣に立つ執事のリバロンが、モノクルを押し上げながら低く笑った。その瞳には、恐怖を通り越した『狂気的なまでの敬意』が宿っている。
「ただ命を奪うのは三流の暴力。しかしあの御方は、帝国兵の『鎧』という名の誇りを一瞬で削り落とし、あえて生かしたまま『布団叩き(労働)』を強制している。武力と精神の両方を完全に支配する、究極の統治術……! あの男こそ、真の王に相応しい怪物だ」
いや、ただ「布団を汚されたから洗い直し(叩き直し)させてる」だけなのだが、リバロンの『執事哲学(マキアヴェッリ的解釈)』のフィルターを通すと、それは恐るべき帝王学へと変換されていた。
「せやせや、リバロンはんの言う通りや。あの兄ちゃん、ただモンやないで」
商人のニャングルが、キセルをふかしながらニヤリと笑った。
彼の「神眼の動体視力」は、広場の隅にうず高く積まれた『ゴミの山』を捉えていた。
「見ぃや、あの『部品の山』を。ルナミス帝国の最新鋭魔導アーマーとライフルが、ネジ一本、魔石一個に至るまで完璧に『無傷で分解』されとる。普通に破壊したら魔石は爆発するんやで? それをあんな、プラモデルばらすみたいに……」
ニャングルは算盤を弾き、ゴクリと喉を鳴らした。
「あの『鉄クズ(不燃ゴミ)』と『飛竜の剥がれた装甲(燃えるゴミ)』だけで、金貨一万枚……いや、三万枚の価値がある! あの兄ちゃん、歩く金脈……いや、歩く『大金塊』や!!」
三者三様の視点で湊の異常性を分析し、彼らの心の中に「九条湊」という存在の神格化が急速に進んでいく。
「リバロン、ニャングル……。私、古い文献で読んだことがあります。世界が混沌(カビや瘴気)に覆われた時、日用品を片手に、世界のあらゆる汚れ(悪意)を拭き取る救世主が現れると……」
キャルルが、ゴクリと息を飲んで言った。
「あの人は……伝説の『お掃除勇者』なのかもしれません……!」
――そんな、壮大な勘違い(アンジャッシュ)が爆発していることなど露知らず。
俺は、広場の隅に積まれた「部品の山」を見てため息をついていた。
「おい、そこの猫耳の商人」
「ヒィッ!? は、はいッ! なんでっしゃろ、お掃除勇……いや、九条の旦那!」
俺が声をかけると、ニャングルがビクッとして揉み手で近づいてきた。
「あんた商人だろ? 悪いんだけど、この『不燃ゴミ(兵器の残骸)』、どっかの処分場に持っていってくれないか? こんなの村に置いといたら景観が悪いし、子供が触ったら危ない」
「し、処分……!? これをでっか!?」
ニャングルが目玉を飛び出させる。
「ああ。処分費用(リサイクル料)が要るなら俺が払うからさ。引き取ってくれないか?」
「はァ!? ひ、引き取るだけでええんですか!? むしろこっちが金貨を――」
「えっ? なんだ、金貨がいるのか? チッ、粗大ゴミのシールって高いんだな。じゃあいいや、霧吹き(重曹水)で丸ごと『溶解(除菌)』して消し飛ばすから」
「アカンアカンアカンアカン!! ワシが! ワシが無料で! いやむしろワシが掃除代として金貨百枚払って処分させてもらいまっさァァァッ!!」
ニャングルは慌てて金属の山にダイブし、俺の足元に土下座した。
ゴミを持っていってくれる上に、なぜか金貨までくれるらしい。異世界の不用品回収業者はサービスがいいな。
「そうか? まぁ、広場が綺麗になるなら助かるよ」
俺がニコリと笑うと、背後でキャルルとリバロンが「なんと慈悲深き御方……」「莫大な富すらも『ゴミ』として他者に与えるというのか……」と、またしても涙を流して震え上がっていた。
こうして、ルナミス帝国の軍事力を「ゴミ掃除」のついでに壊滅させた俺は、ポポロ村の幹部たちから『絶対的なアルファ(最強のお掃除勇者)』として、完全な忠誠を誓われることとなったのである。




