EP 10
『株式会社・九条清掃 アナステシア出張所』、爆誕!
「よし、これで広場の掃除も、布団干しも全部完了だ。……ん? どうした猫耳の商人、そんなに震えて」
ポポロ村の広場。
俺が100均のハンディモップを片付けていると、商人のニャングルが揉み手で近づいてきて、ずっしりと重い皮袋を差し出してきた。
「九条の旦那ァ……! これ、あの『不燃ゴミ(帝国軍の魔導兵器の残骸)』の処分代、金貨百枚でっさ! ほんまに、ほんまにええんですか!? こんな『破格』で引き取らせてもろうて……!」
ニャングルはなぜか感涙にむせび泣いている。
「ああ、助かるよ。粗大ゴミのシール代(処分費)って高いんだな。それにしても金貨百枚か……こっちの相場は分からないけど、ありがたく受け取っておく」
俺は皮袋を受け取った。
(後で村長のキャルルに聞いたら、金貨一枚で日本円にして約一万円の価値があるらしい。つまり、あの不燃ゴミの引き取りで『百万円』も貰ってしまったことになる。……異世界の不用品回収業者、どんだけ羽振りがいいんだ?)
「なぁ、キャルル村長。このお金を使って、村の空き家を一つ借りられないか? できれば、少し広めのやつを」
「えっ!? 九条様が、この村に住んでくださるのですか!?」
キャルルが、ウサ耳をピーンと立てて歓喜の声を上げた。
「あ、ああ。この世界、どうも『汚れ(マナー違反の連中や不衛生な魔物)』が多すぎる気がしてな。元の世界に帰る方法が見つかるまで、ここで『本業』を再開しようと思ってさ」
「も、もちろんです! 空き家なんて言わず、私の村長宅を……いや、村の迎賓館をお使いください! お家賃など、頂くわけにはいきません!」
「いや、ちゃんと払うって。仕事の拠点にするんだから、ケジメはつけないとな」
俺はキャルルに案内され、村の広場に面した、長年使われていないという立派な木造の空き家を金貨で借り上げた。
――そして、数時間後。
俺は『解体』の魔力を込めたモップと雑巾をフル稼働させ、何年分ものホコリと黒ずみがこびりついていた空き家を、新築同様のピカピカに磨き上げていた。
「ふぅ……よし! これで完璧だ!」
入り口の扉の上に、俺がマジックで手書きした立派な『木の看板』を打ち付ける。
『株式会社・九条清掃 アナステシア出張所』
ここに、異世界最強の清掃業者が爆誕した瞬間であった。
「わぁぁっ! 九条さん、おめでとうございますぅ! 床がツルツルで、顔が映ってますよ!」
「素晴らしいですわ……! この建物の空気、まるで高級リゾートホテルのロビーのようです!」
入り口から、桃色ジャージのリリスと、同じく芋ジャージのリーザが顔を覗かせた。
「お前らもちょうど良かった。この出張所を立ち上げたはいいが、俺一人じゃ事務作業やチラシ配りが追いつかない。……どうだ、ここでアルバイトしないか?」
「えっ!? 私たちがですか!?」
俺は腕を組み、二人の顔を交互に見つめた。
「給料は、歩合制で応相談だ。ただし……」
俺は、ダンジョンで拾ったS級魔獣の肉(エビマヨ風)や、ポポロ村の畑で採れた新鮮な野菜を思い浮かべる。
「福利厚生として、『1日3食のまかない』と『3時のおやつ』を保証する。もちろん、その辺の雑草やパンの耳じゃなく、俺がちゃんと栄養バランスを考えて作ってやる」
「「「…………ッ!!!」」」
その瞬間。
腹ペコ女神リリスと、極貧アイドル人魚リーザの瞳が、これ以上ないほどカッ!と見開かれた。
「さ、さんしょく……おやつ付き……! やりますぅ! 私、死ぬ気で働きますぅぅぅ!!」
「マヨネーズ抜きの……本物のご飯が……毎日!? 一生! わたくしめは一生、社長についていきますわァァァッ!!」
二人は涙と鼻水を撒き散らしながら、俺の足元にスライディング土下座を決めた。
……まぁ、これで賑やかになりそうだ。
「フフッ。新たな『秩序』の城が、ここに築かれましたな」
少し離れた場所から、執事のリバロンが深く一礼をしている。
「よし! それじゃあ、株式会社・九条清掃アナステシア出張所、今日から営業開始だ!」
俺はピカピカになった窓枠から、ポポロ村の美しい夕日を見下ろした。
「ゴミのポイ捨て、不衛生なダンジョン、おまけにマナーの悪い帝国軍や魔物ども……。この世界の『汚れ』は、俺がまとめて綺麗(解体)にしてやる!!」
俺のオカン的宣言が、夕暮れの空に高らかに響き渡る。
だが、俺はまだ知らなかった。
この『出張所』の設立宣言が、ルナミス帝国、レオンハート王国、アバロン魔皇国の三大国家の中枢に「謎の超常組織が蜂起した」として伝わり、世界を根底から震え上がらせる一大事件となることを――。
かくして、100均の掃除道具と『解体』スキルだけを武器にした清掃員の、世界を綺麗にする(ついでに無自覚に救ってしまう)異世界大掃除無双が、いよいよ本格的に幕を開けたのであった!




