EP 8
報復の飛竜部隊。「布団干してるのに砂埃たてるな!」
「パンッ! パンッ! よし、いい音だ!」
ルナミス帝国軍の地上部隊を「白ブリーフのゴミ拾いボランティア」に強制ジョブチェンジさせた翌日の昼下がり。
ポポロ村は雲一つない快晴に恵まれていた。絶好の洗濯日和、そして布団干し日和である。
「九条さーん! 私の布団もふっかふかにお願いしますぅ!」
「わたくしめの人魚のウロコ(※ただの芋ジャージ)も、天日干しで殺菌してくだされー!」
村の広場に張ったロープには、リリスやリーザ、そしてキャルルから預かった布団が一面に干されている。俺は布団叩き(※そこら辺の木の枝を加工したもの)をリズミカルに振るい、ダニやホコリを徹底的に叩き出していた。
太陽の熱と光をたっぷり吸い込んだ布団からは、お日様の匂いという名の最高に平和な香りが漂っている。
「ふぅ……完璧だ。あとはこのまま一時間干せば、今夜は極上の睡眠が約束されるぞ」
俺が額の汗を拭い、達成感に浸っていた、その時だった。
――ギャオォォォォォォッ!!!
バサァッ! バサァァァッ!!
突如として、太陽の光を遮る巨大な影が村の広場を覆った。
上空を見上げると、そこには巨大なコウモリの翼と恐竜の体を持つ、十数頭の『飛竜』が滞空していた。
その背中には、全身を装甲で固めた帝国軍の飛竜騎士たちが跨っている。昨日パンツ一丁で泣いて逃げ帰った地上部隊からの報告を受け、即座に派遣された報復の空挺部隊だ。
「ヒィィッ! 飛竜部隊ですわ!」
「た、大変です! あんなのが空から炎を吐いたら、村が丸焦げになっちゃいますぅ!」
キャルルたちが顔面蒼白で空を見上げる。
上空の飛竜騎士の一人が、拡声魔法を使って傲慢な声を響かせた。
『下等な村人どもめ! 我がルナミス帝国軍に逆らった罪、万死に値する! モップを持った男を差し出さねば、この村を上空から火の海に――』
騎士がイキり散らしている間も、ワイバーンたちは空中でホバリングするために、その巨大な翼をバサバサと羽ばたかせ続けていた。
ゴォォォォォォォッ!!
巨大な翼が巻き起こす突風が、真下にあるポポロ村の広場に吹き荒れる。
そして、地面の乾いた土や落ち葉が、猛烈な砂埃となって舞い上がり……。
バフッ。
俺がたった今、魂を込めてホコリを叩き出し、太陽の光でふかふかに仕上げたばかりの『布団』たちに、べっとりと真っ黒な砂埃が降り注いだのだ。
「「「…………アッ」」」
それを見たキャルル、リリス、リーザの三人が、飛竜への恐怖を忘れ、全く別の絶望で息を呑んだ。
「ああっ……! 九条さんがせっかく干してくれた布団が……真っ黒に……!」
「おわりましたわ……。空飛ぶトカゲさんたち、命日が確定しましたわ……」
『フハハハ! どうした、恐怖で声も出ないか! さあ、炎に焼かれたくなければ――』
「…………てめぇら」
突風の中。
俺の口から、地獄の底から響くような、ドス黒い殺意の入り交じった声が漏れた。
『……あン? なんだあの男は』
「せっかくダニを叩き出して……ふかふかに干した布団の真上で……!!」
俺は、腰のホルダー(エプロンのポケット)に差していた『100均の重曹水スプレー』をゆっくりと引き抜いた。
そして、ノズルの先端を「霧」から、「直射」へとカチッと回す。
「砂埃を!! 撒き散らしてんじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!!」
対象:洗濯物の真上で泥と砂埃を巻き起こす、極めて迷惑な『空飛ぶ巨大な害鳥(ワイバーン部隊)』。
処理:スプレーのノズルを直射モードに絞り、極限まで圧縮した重曹水に『解体』の魔力を乗せ、上空の不浄を超水圧で洗い流す(撃墜する)。
「もう一回洗い直しだろうがァァッ!! ――『解体』!!」
俺がスプレーのレバーを強く握り込んだ瞬間。
――ピシャアァァァァァァァァァァァンッ!!!!
100均のプラスチック製スプレーの先端から、成層圏すら貫きそうな『純白の超高圧水流』が、レーザービームのように真っ直ぐ天空へと撃ち出された。
『なっ……!? 水鉄砲だと……!? ぐわあああああああっ!?』
俺がスプレーを持った腕を、空に水を撒くように横へ薙ぎ払う。
純白のウォーターカッターが、上空を飛ぶ十数頭のワイバーンと騎士たちの群れを、一瞬にして横一文字に薙ぎ払った。
ズバアァァァァァァァッ!!!
『ギャアアアアッ!? 装甲が! 俺たちの竜騎士の鎧がペリペリ剥がされていくゥゥッ!』
『グオォォォッ!?(なんだこの気持ちいい水圧はァァッ!?)』
ウォーターカッターの直撃を受けた飛竜たちは、血の一滴も流すことなく、体表にこびりついていた汚れ(と、ついでに背中の鞍や騎士の鎧)を完璧に『洗浄』された。
ピカピカのツルツルに磨き上げられ、摩擦係数を完全に失ったワイバーンたちは、もはや空を飛ぶ空力制御ができず、キュルキュルとスピンしながら広場へと次々に墜落していった。
ドサァァァッ! ボテッ!
「……ふぅ。これで砂埃も収まったな」
俺がスプレーのレバーから指を離すと、上空は再び美しい青空を取り戻していた。
広場には、ツルツルのピカピカになって「キュウゥゥ……」と目を回している綺麗な飛竜たちと。
その横で、鎧や服を「汚れ」として完全に吹き飛ばされ、またしても『白ブリーフ一丁』になった竜騎士たちが、ずぶ濡れになって震えていた。
「ヒィィィッ……! 俺たちの最強の飛竜部隊が……霧吹き一発で……!」
俺は、ずぶ濡れの白ブリーフ男たちに向かって、持っていた布団叩きをビシッと突きつけた。
「おい、そこのパンツ一丁の連中! お前らのせいで布団が汚れたんだ! 罰として、お前らが全員で布団を叩き直せ! ホコリ一つでも残ってたら、お前らのその飛竜を『丸洗い』して干物にすっからな!」
「「「はいぃぃぃぃぃっ!! 喜んで布団を叩かせていただきますゥゥゥッ!!」」」
かくして、ルナミス帝国が誇る最精鋭の竜騎士たちは、白ブリーフ姿で一列に並び、涙を流しながらポポロ村の布団を「パンッ! パンッ!」と一生懸命に叩き続ける羽目になったのであった。




