EP 7
最新鋭・魔導アーマーの強制除染。パンツ一丁の帝国兵たち
ズゴォォォォンッ! ズゴォォォォンッ!
ルナミス帝国軍が誇る最新鋭兵器、『対獣人族用・重装甲魔導アーマー』。
全高3メートルに及ぶその鋼鉄の巨体は、一歩踏み出すごとにポポロ村の広場に地響きを発生させていた。
「フハハハ! 見ろ、この圧倒的な質量と装甲を!」
隊長が勝ち誇ったように叫ぶ。
「数億ゴールドの国家予算を注ぎ込んだ、帝国の最高傑作だ! いかなる獣人の闘気も、エルフの魔法も、この『絶対防御装甲』の前には無意味! さあ、あのモップの狂人を、その小汚い村ごとペシャンコに――」
「おい」
隊長のイキり台詞を、俺の地を這うような低い声が遮った。
「あァ? なんだ、命乞い――」
「さっきから、人が掃き清めた広場を……泥だらけのデカい靴で、ドカドカ歩き回ってんじゃねぇ!!!」
俺の目は、魔導アーマーの恐ろしい巨大な両腕でも、胸部の魔砲口でもなく。
アーマーの足元からボロボロとこぼれ落ちる『乾いた泥』と、綺麗だった広場に深く刻み込まれた『真っ黒なタイヤ痕(キャタピラ痕)』に完全に釘付けになっていた。
「せっかく落ち葉を片付けて、砂埃が立たないように水撒きまでしたのに! 泥を落としてから歩くって常識がないのか!!」
「……は?」
隊長と、アーマーを操縦している重装兵の思考が一瞬停止する。
「お前のそのデカい鉄クズはな、強さ以前に『不衛生』なんだよ! 油と泥にまみれやがって! そのしつこい汚れ、俺が丸ごと『除染』してやる!」
俺は左手の霧吹きをシャカシャカと振り、アーマーに向かって勢いよく『重曹水』を噴射した。
シュッシュッシュッ!
「なっ……水鉄砲!? 馬鹿か貴様、そんなものでこの絶対防御装甲が――」
「洗剤を染み込ませたら、後は汚れを削り落とすだけだ!!」
対象:泥と油を撒き散らす『極めて不衛生な巨大な鉄の塊(重装甲魔導アーマー)』。
処理:重曹水のアルカリ成分で油汚れ(魔力コーティング)を浮かせ、モップの摩擦と『解体』の魔力で、対象の外殻を「しつこい汚れ」として分子レベルで削り落とす。
「――『解体』!!!」
俺は、重曹水がパシャッと掛かった魔導アーマーの分厚い胸部装甲に、100均のハンディモップを全力で叩きつけ、ゴシゴシと擦り上げた。
キュッ……ペリペリペリペリッ!!!
「……エッ?」
アーマーを操縦していた兵士の視界が、突如として開けた。
俺がモップで「ゴシゴシ」と擦った瞬間。
数億ゴールドの国家予算で作られた、いかなる魔法も弾くはずの『絶対防御装甲』が。
まるで「古いシール」か「車の水垢」でも剥がされるかのように、ペリペリと綺麗に剥がれ落ちてしまったのだ。
「あ、あれ……? 装甲が……装甲が消えた……!?」
「まだまだ! 足回りの泥汚れがガンコなんだよ!」
ゴシゴシゴシゴシッ! ペリペリペリペリッ!
「ぎゃああああああああっ!? コックピットが! 装甲板が『汚れ』として拭き取られていくゥゥッ!!」
俺がモップを滑らせるたびに、鋼鉄のアーマーが「垢」のようにポロポロと剥がれ落ち、空中で綺麗な『鉄クズの山』として分別されていく。
そして数秒後。
モップを振り終えた俺の前には。
「……ふぅ。これでスッキリしたな」
「…………ア、アアッ……」
全高3メートルの巨大なアーマーはチリ一つ残さず消滅し。
そこには、操縦席に座っていた姿勢のまま、空中でプルプルと震えている『白ブリーフ一丁の男』が、ポツンと取り残されていた。
ご丁寧に、着ていた軍服やインナーすらも「汗染みなどの汚れ」と判定され、完璧に『除染』されてしまったのだ。
「お、俺の……俺のアーマーが……!!」
白ブリーフの兵士が、両手で股間を隠しながら泣き崩れた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「ま、魔導アーマーがモップで削り落とされたァァァッ!?」
それを見ていた隊長と数十人の兵士たちは、ついに恐慌状態に陥り、泡を吹いてその場にへたり込んだ。
「ジーザス……」
キャルルは、白目を剥きそうになりながら、その圧倒的すぎる分別の暴力を震えるウサ耳で見つめていた。
リリスとリーザに至っては、「わぁ、九条さんのマジックショーですぅ!」「お見事ですわー!」と呑気に拍手喝采である。
「おい、そこのお前ら」
俺はモップを肩に担ぎ、へたり込んでいる帝国兵たちを見下ろした。
俺から放たれるオカンの威圧感に、彼らは「ヒッ!」と肩をすくませる。
「罰として、お前らも全員『除染(パンツ一丁)』だ。服にこびりついた豚神アブラ飯のニオイが臭すぎるからな」
「や、やめてくれェェッ! 帝国軍の誇りがァァッ!!」
数分後。
「はい、そこの空き缶拾って! タバコの吸い殻はちゃんと火が消えてるか確認しろよ!」
「「「はいぃぃぃぃっ!! 申し訳ありませんでしたァァァッ!!」」」
ポポロ村の広場では、ルナミス帝国が誇る精鋭部隊の男たちが、全員『白ブリーフ一丁』という屈辱的な姿で、涙と鼻水を流しながら、自分たちがポイ捨てしたゴミを一生懸命に拾い集めるという、世にもシュールなボランティア活動が展開されていた。
「まったく……。最初からマナーを守ってりゃ、こんなことにはならないのにな」
俺は重曹水スプレーで広場のタイヤ痕を消しながら、呆れたようにため息をついたのであった。




