EP 6
「ゴミは持ち帰れェェッ!!」 オカンの逆鱗と、分別の暴力
「燃えないゴミと吸い殻を!! ポイ捨てしてんじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!!」
広場に響き渡った俺の怒号。
だが、ルナミス帝国軍の兵士たちは、ただの「便所掃除のオッサン」が狂ったようにわめいているとしか思わなかった。
「チッ、うるせぇゴミが。撃ち殺せ!」
隊長の冷酷な命令が下る。
数十人の兵士たちが構えた『九九式魔導ライフル』の銃口が、一斉に俺に向けられた。
ルナミス帝国の工業力と魔法科学の結晶。引き金を引けば、圧縮された魔力の弾丸が時速数百キロで放たれ、巨岩すら貫通する。
ドドドドドドドドォォォォォンッ!!!
無数の銃口から、殺傷力の高い魔力弾の雨が俺に向かって撃ち出された。
後ろでキャルルやリリスが「危ない!」と悲鳴を上げる。
しかし。
俺のオカン的視覚は、迫り来る致死の魔力弾を、全く別のモノとして認識していた。
「……人の顔に向けて、危ない『火の粉』を飛ばしてんじゃねぇ!」
俺は、右手の100均ハンディモップを、ハエを叩き落とすような無造作な軌道で横に薙ぎ払った。
――スパーーーーーーーンッ!!!
「「「……は?」」」
帝国兵たちの動きが、ピタリと止まった。
俺に命中し、肉体を穴だらけにするはずだった数十発の魔力弾が。
俺のモップが触れた瞬間、パチンッと弾けるように消滅――いや、『空気中の魔力(見えないゴミ)』として綺麗に拭き取られてしまったのだ。
「な、なんだと……!? 今、あのモップで魔力弾を弾いたのか……!?」
隊長が驚愕で目を見開く中、俺はズンズンと彼らに向かって歩き出した。
「お前ら、分別のルールも知らないのか!? そんな火を吹く危険な鉄パイプ(ライフル)はな、そのまま『不燃ゴミ』に出しちゃダメなんだよ!」
対象:マナーを守らず火の粉を散らす『危険な不燃ゴミ(魔導ライフル)』。
処理:モップの繊維に解体の魔力を浸透させ、対象の構造的結合を分子レベルで解除(分別)する。
「粗大ゴミは! 細かく『分解』してから捨てるのが常識だろうがァァッ!!」
――『解体』!!!
俺がモップの柄で、先頭の兵士が持っていたライフルの銃身を「カンッ」と軽く叩いた。
次の瞬間。
カチャ……ペリペリッ。
ガチャンッ! パラパラパラパラパラパラッ!!!
「……え?」
先頭の兵士が間抜けな声を漏らした。
彼が両手で構えていたはずの最新鋭の九九式魔導ライフルが。
一瞬にして、撃鉄、銃身、引き金、魔石バッテリー、そして百本以上の微小なネジやボルトに至るまで、完全に『部品単位』へとバラバラに分解されてしまったのだ。
しかも、俺の『解体(分別)』スキルは完璧だ。
パラパラと地面に落ちた部品は、瞬時に「鉄くずの山」「木材の山」「魔石(危険物)の山」と、綺麗に分別されて等間隔に積み上げられた。
「な、なんだこれはァァッ!? 俺の愛銃が……一瞬でネジの山に……!?」
「よそ見してんじゃねぇ! 次!」
俺は歩みを止めず、モップを流れるように振るい続けた。
カンッ! パラパラパラッ!
カンッ! カチャカチャカチャッ!
「ひぃぃぃッ!? 俺の銃も!」
「ああっ! 俺の対物バズーカが、ただの塩ビパイプと導火線にィィッ!?」
帝国が誇る完全武装の兵士たちが、まるで手品でも見せられているかのように、次々と武器を『部品』に変えられていく。
彼らは両手に「ただの木切れ」や「外れた引き金」を握りしめたまま、完全に戦意を喪失してガクガクと震え始めた。
「ほら、鉄くず(不燃ゴミ)はしっかりまとめておけ! 魔石は別袋だ! ちゃんと分別しないから広場が散らかるんだろうが!」
俺は説教しながら、完全に丸腰になった兵士たちをギロリと睨みつけた。
「ひっ……! ば、化け物……!」
「武器を持たない丸腰の相手を、こんな容赦なく……!」
いや、そもそも武器じゃなくて「捨て方の悪いゴミ」なんだけどな。
「……え、ええええええええええっ!?」
背後で、キャルルがウサ耳を限界まで伸ばして絶叫していた。
ルナミス帝国の軍事力の象徴である魔導ライフル部隊が、たった一人の清掃員によって、発砲からわずか数十秒で「部品の仕分け作業員」に成り下がったのだ。
リリスに至っては、「さっすが九条さん! 私もネジ集めるの手伝いますぅ!」と呑気に拾い始めている。
「チィィィッ! ふざけるなァァァッ!!」
最後尾にいた隊長が、顔を真っ赤にして激昂した。
「歩兵の銃が通じないなら、こいつを出せ! 対獣人族用・重装甲魔導アーマー起動! あんなモップのオッサンごと、この広場をミンチにしてやれェェッ!!」
隊長の命令で、後方に控えていた装甲車から、身の丈3メートルはある巨大な鋼鉄の鎧を着込んだ重装兵が、地響きを立てながら姿を現した。
「まだデカい粗大ゴミを出す気か……。いい加減にしろよ、お前ら」
俺の重曹水スプレーを持つ手に、ギリッと力がこもった。




