EP 4
究極の『エビマヨ』風・害虫炒め。と、震えるウサ耳の村長
「離してくださいぃ! マヨネーズさえあれば、この道端のシロツメクサは『シーザーサラダ』に変わるんですぅ!」
芋ジャージの人魚姫・リーザが、泥のついた雑草を握りしめたまま、俺の腕の中でジタバタと暴れる。
「ダメだ! よく見ろ、その雑草の裏には小さい虫の卵がビッシリついてるぞ! 不衛生だ、捨てろ!」
「えっ!? ひっ、ひぃぃぃぃっ!」
俺が『解体』の魔力を指先に込めて雑草を一撫ですると、目に見えないほどの汚れと卵だけがパラパラと剥がれ落ちた。その生々しい光景を見て、リーザは絶叫して雑草を放り投げた。
「……リリス。お前がさっき出したその『業務用マヨネーズ』を貸せ。それとリーザ、お前はそこにある綺麗な湧き水で手を洗ってこい。除菌だ」
俺はため息をつきながら、ダンジョンで仕留めた『巨大ゴキブリ(死甲虫)』の解体済みパーツ――ピカピカに磨き上げられた脚の殻を剥いた。
中から現れたのは、驚くほど透き通った、弾力のある真っ白な身だ。その見た目は、どう見ても最高級の『タラバガニ』か『巨大エビ』にしか見えない。
「リリス、火を。お前のそのおっちょこちょい魔法でいい、コンロ代わりに火力を出せ」
「は、はいぃ! ええと、聖なる……じゃなくて、弱火で……ああっ、また最大出力にぃぃ!」
ボォォォォォォォッ!!
リリスがスマホを操作した瞬間、何もない空間にキャンプファイヤー並みの聖なる火柱が上がった。
俺は慌てて、持ち歩いている『解体済み・鉄板(死蟲機の装甲)』を火にかざし、手早く調理を始めた。
ジューッ……!!
死甲虫の身が熱せられ、香ばしい磯の香りが辺りに漂う。
そこにリリスが誤発注した業務用マヨネーズをドバッとかけ、さらに隠し味として俺の霧吹き(中身はハーブ入りの除菌ビネガー)をひと吹きする。
「よし、完成だ。名付けて『死蟲機のオーロラソース和え・エビマヨ風』だ。食え」
俺が差し出したのは、黄金色に輝くソースがたっぷり絡んだ、熱々の肉塊だ。
リーザは「これ……さっきの巨大ゴキブリですよね……」と怯えながらも、立ち込める極上の香りに抗えず、一口かじりついた。
「…………っ!!? な、何ですのこれぇぇぇぇぇ!!」
リーザの瞳が、これまでの絶望的な生活を全て忘却させるほどの輝きを放った。
「プリップリ……! 噛むたびにカニの旨味がマヨネーズのコクと混ざり合って、脳の中に直接『ご利益』が流れてきますぅぅ! 雑草なんか食べてる場合じゃありませんわ!」
「もぐもぐ……ふぉいひいですぅ! 九条さんの料理、天界の給食より美味しいですぅ!」
リリスまで参戦し、二人の女神(?)はハフハフと熱々のエビマヨを頬張った。
一キロのマヨネーズが、驚くべきスピードで消費されていく。
◇
そんな俺たちの「バーベキュー会場」と化した空き地に、一人の少女が姿を現した。
「……あ、あの。そこで何をしてるんですか? ここはポポロ村の神聖な境界線なんですが……」
そこに立っていたのは、ピンク色の髪に、ぴょこぴょこと動く白いウサ耳を持った少女――キャルルだった。
彼女は、村長としての威厳を保とうとしながらも、俺たちの後ろに山積みになっている『死甲虫(S級魔獣)』の解体済みパーツを見て、顔面を蒼白にさせていた。
「えっ……それ、『天魔窟』の主の親衛隊じゃ……? それを、そんな適当な鉄板で、マヨネーズ炒めに……?」
「あぁ、アンタがここの責任者か? 悪いな、この辺が汚れ(魔物)だらけだったから、ついでに害虫駆除して、少しばかり『素材』の再利用をさせてもらった」
俺がハンディモップで肩をポンポンと叩きながら言うと、キャルルのウサ耳が恐怖で「ピンッ!」と直立した。
「が、害虫駆除……!? ギルドがSランクパーティーに依頼しても全滅するような化け物を……掃除のついでに……?」
「村長さん! この人、とっても綺麗好きの『お掃除勇者』さんなんです! ほら、お近づきの印にエビマヨどうぞ!」
リリスが無邪気に、エビマヨ(死蟲機)をキャルルの口に押し込んだ。
「むぐっ……!? ……ん、んんんんんっ!? 美味しい……! 力が……月の加護(闘気)が、勝手に溢れ出してくるぅぅ!?」
こうして、ポポロ村の村長キャルルまでもが、俺の「除菌済みメシ」の軍門に下った。
「よし、村長さんよ。俺は『株式会社・九条清掃』の代表だ。この村の不法投棄(魔物)やカビ(瘴気)が気になるから、しばらく腰を落ち着けて掃除させてもらうぞ。家賃は、この『除菌済み素材』で払ってやる」
俺は、背後に積まれた純度100%の魔石と、ピカピカの甲殻の山を指差した。
ポポロ村に、史上最強にして、史上最も「口うるさい」オカン清掃員が定住を決めた瞬間であった。




