EP 8
母船へのカビキラー。「換気しねえから空気が淀んでんだよ!」
「よし、これで全身ピッカピカだな。タエさんに見られても怒られないぞ」
ボロアパート『ひまわり荘』の廊下。
俺は満足げに手をパンパンと払い、床にへたり込んでいる銀河帝国将軍・ゾルギウスを見下ろした。
つい先程まで漆黒の超硬度装甲に身を包み、宇宙の覇王としての威厳を放っていた巨漢は、今や俺の『玄関マット(粗品)』による徹底的な摩擦除染を受け、パツパツの真っ白な全身タイツ(インナー)姿へと成り下がっていた。
『ア……アア……。我ガ、最強ノ装甲ガ……チリトナッテ……』
ゾルギウスは、己の白タイツ姿を信じられないといった様子で見つめ、ガタガタと震えながら涙をこぼしている。
「ジーザス……。あの宇宙の覇王が、ただの『変態白タイツおじさん』に除染されてしまったデース……」
「Bossの玄関マット捌き……恐るべし……!」
モニター越しのホワイトハウスも、庭にいるSP軍団も、恐怖と畏敬の念で完全に言葉を失っていた。
だが、事態はまだ終わっていなかった。
『……将軍閣下が、野蛮な現地人に捕らえられたぞ!!』
『ええい、構わん! 将軍閣下ごと、この忌まわしい極東の島国を腐海に沈めよ!! 究極生体兵器『滅星の毒霧』、投下ァァァッ!!』
上空で待機していた巨大なUFOの母船が、突如として禍々しい緑色のガスを噴射し始めたのだ。
「ヒィィィッ!? 大統領! 敵の母船から、未知の猛毒ガスが散布されています! 大気に触れただけで細胞が壊死する、最悪の生物兵器です!!」
「オ、オーマイガーッ!! 迎撃ミサイルでは、気体は防げないデース!! このままでは日本はおろか、地球全体が死の星に――!!」
シチュエーションルームが再び絶望のパニックに包まれる。
緑色のガスは、ジワジワと空を覆い隠し、不気味な紫色の雷を伴いながらひまわり荘へと降下してきた。
「……ん?」
廊下にいた俺は、ふと鼻をヒクつかせた。
「なんだ、この臭い。……生乾きとかそういう次元じゃないぞ。風呂場の隅っこで、何ヶ月も放置されたような……最悪の『カビの臭い』じゃないか!」
俺のオカン的嗅覚が、毒ガスの正体を「深刻なカビの繁殖による悪臭」として完璧に(誤)認識した。
「おい、そこの白タイツ!」
俺は、床で泣いているゾルギウスの肩をガシッと掴んで揺さぶった。
「お前ら、あんなデカい鉄の塊(母船)の中に何万の大所帯で引きこもってて……一度も『換気』してないだろ!!」
『……ハ? カ、換気……ダト?』
「当たり前だ!! 締め切った空間で換気をサボるから、空気が淀んでこんなドス黒いカビが発生するんだろうが!! ご近所まで悪臭が漂ってきてるぞ!!」
俺はブチギレながら、庭に置いてあった高圧洗浄機の元へとダッシュした。
「これだから最近の宇宙人は……。仕方ない、大掃除のついでだ。あの特大の『カビの温床』も、根こそぎ除菌してやる!!」
俺は、洗面所から持ってきた特大サイズの『市販のお風呂用カビ取り剤』のボトルを取り出し、それを高圧洗浄機の「洗剤吸い込みホース」に強引にドッキングさせた。
水と洗剤を混ぜて高圧噴射する、洗浄機の裏技機能である。
「カビの根元まで! しっかり泡を密着させろォォォッ!!」
俺はノズルを上空のUFO母船に向け、トリガーを全開に引いた。
対象:換気を怠った密閉空間(UFO母船)から溢れ出す『特級の黒カビと悪臭(致死性の毒霧)』。
処理:高濃度の塩素系アルカリ洗浄液をきめ細かい泡状にして射出し、カビの胞子(生物兵器)と宇宙船の不浄を根こそぎ漂白・除菌(解体)する。
「――『解体』!!!」
シュゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!
高圧洗浄機のノズルから、ただの水流ではなく、純白の『超極太の泡の柱』が天を衝く勢いで噴射された。
『ナ、何ダアレハ!? 白い泡ガ、下カラ迫ッテ――』
ズバアァァァァァァァッ!!!
純白の泡の柱は、降下してきていた緑色の毒霧(生物兵器)に激突。
その瞬間、猛毒のガスは「シュワァァァァッ……」という音とともに、一瞬にして中和(漂白)され、消滅してしまった。
泡の勢いは止まらず、そのまま上空に浮かぶ巨大なUFOの母船へと直撃し、その船体全体を包み込んでいく。
『ギ、ギヤアアアアッ!? 船体ガ……船体ガ真っ白な泡ニ飲マレテイクゥゥッ!』
『目ガ痛イ! 塩素ノ臭イデ、我ラノ邪悪ナ細胞ガ次々ト除菌サレテシマウゥゥッ!!』
通信回路に、宇宙兵たちの断末魔……ならぬ、除菌される悲鳴が響き渡る。
数分後。
空を覆っていた禍々しい巨大なUFOの母船は、完全に真っ白な「巨大な泡の雪だるま」へと姿を変え、沈黙した。
「ふぅ……。ちょっと塩素の臭いがキツいけど、これで完全に『除菌』できたな。数ヶ月はカビも生えないだろう」
俺が満足げに高圧洗浄機の電源を切ると。
上空からは、猛毒のガスの代わりに、プールの消毒槽のような清潔で神聖な香りが、フワリと地上へ降り注いできた。
「「「…………」」」
「ジ、ジーザス……。宇宙の生体兵器が……市販のカビ取り剤で、完全に漂白・無力化されたデース……」
「塩素の香りが、これほどまでに平和の匂いに感じられるとは……」
ホワイトハウスの大統領やSP軍団は、空に浮かぶ「真っ白に漂白された巨大UFO」を見上げながら、その圧倒的なオカン力(除菌力)の前に、ただただ感涙を流して十字を切るのであった。




