EP 5
降り注ぐプラズマ兵器。湊「泥水跳ねらすな! せっかく窓拭いたのに!」
「よし……完璧だ。一点の曇りもない」
ひまわり荘、二階。
俺は高圧洗浄機で洗い流したばかりの窓ガラスを、乾いた雑巾でキュッキュと磨き上げ、その仕上がりに恍惚としていた。
鏡のように空を映し出す窓。これぞ大掃除の醍醐味だ。
しかし、その平和な達成感を、不快な轟音と震動がぶち壊した。
――ドォォォォォォォンッ!!!
アパートのすぐ近くの空き地に、紫色の光の球が着弾し、猛烈な爆風とともに土砂が舞い上がった。
「うわっ!? なんだなんだ、工事か?」
俺が窓に顔を寄せた瞬間、さらなる衝撃が走る。
ドゴォォォンッ! バシャァァァッ!!
着弾の衝撃で跳ね上がった汚い泥水と砂埃が、さっき磨き上げたばかりのピカピカの窓ガラスに「ベチャッ」と無残にへばりついたのだ。
「…………は?」
俺の思考が、一瞬停止した。
つい数秒前まで、俺の魂(雑巾がけ)が宿っていた純白の窓。そこに、見るも無残な泥の斑点が点々とついている。
「…………おい。ふざけんなよ」
俺の額に、ドス黒い青筋が浮かび上がった。
犯人は、空。
生き残った数隻のUFOが、半壊した船体から真っ赤な光を放ち、地上に向けて「都市殲滅プラズマ砲」を乱射していた。
「掃除してるそばから、汚ったねぇ泥水を跳ね散らかしてんじゃねぇぇぇッ!! 洗い直す手間が増えるだろうがァァァッ!!!」
俺の怒鳴り声が、地鳴りのように三丁目に響き渡った。
◇
「ジ、ジーザス……! ミスター・クジョウが……ミスターが激怒していマース!!」
ホワイトハウス地下、緊急防衛司令室。
モニターに映し出された湊の「般若のような顔」を見た大統領が、椅子から転げ落ちそうになりながら絶叫した。
「ジャック! 状況を報告しろ! 何が起きたんだ!?」
『大統領! 敵の残党が放ったプラズマ砲の爆風で……Bossが磨き終えた窓に「泥はね」が発生しました!!』
通信機越しに聞こえるジャックの声も、恐怖で震えている。
「なんという大不敬……! なんという万死に値する失態デースか、エイリアンども!!」
大統領はデスクを拳で叩き割り、全軍に向けて叫んだ。
「世界中の全ミサイル防衛システム、およびレーザー迎撃網を起動させろ! ミッション・コードは『クリスタル・ウィンドウ』! 目標は敵のプラズマ弾の完全迎撃デース!!」
「だ、大統領!? 都市を守るための迎撃システムを、あのアパートの窓のために使うのですか!?」
「当たり前デース!! あの窓にこれ以上『一点のチリ』でも触れてみろ! ミスターの怒りで地球が「燃えるゴミ」として処分されてしまうのデース!! 都市はどうでもいい! あの窓の輝きを死守しろォォッ!!」
その瞬間、世界中のイージス艦、地対空ミサイル基地、そして軍事人工衛星が、一斉に「ひまわり荘」を頂点とした巨大な防衛ドームを形成した。
◇
『フハハハ……! 死ね! 原始人ども! 我が軍の誇る究極の――』
空でドヤ顔をしていた将軍ゾルギウスが、次の瞬間、絶句した。
彼が放ったプラズマ砲の弾道を遮るように、地平線の彼方から数万、数十万という迎撃ミサイルが「壁」となって飛来したのだ。
チュドチュドチュドチュドォォォォンッ!!!
空中で、花火大会のような大爆発が連鎖する。
宇宙帝国の最新兵器は、ひまわり荘の窓ガラスに届く遥か手前で、人類の総力を挙げた迎撃によって、一発残らず「塵」へと変えられていった。
「よしよし! どこの国の迎撃ミサイルか知らないが、グッジョブだ!」
地上で再び窓を拭き直していた俺は、空での大爆発を「景気のいい除夜の鐘代わり」として眺めていた。
「これなら泥も飛んでこないな! さあ、今のうちに仕上げの乾拭きを終わらせて、スーパーに向かうぞ!」
俺の背後では、ジャックたちが「全人類が……窓一枚のために全力を尽くしている……」と、涙を流しながらその神々しい(?)光景を拝んでいた。
こうして、地球滅亡を狙ったプラズマ兵器は、一人のオカンの「窓を汚されたくない」という怒りと、それを恐れる世界政府の手によって、ただの「空中のゴミ」として処理されたのである。




