EP 4
高圧洗浄機(ケルヒャー的何か)起動。「しつこい水垢(装甲)は水圧で剥がす!」
「こびりついた汚れは! 水圧で一気に弾き飛ばす!! ――『解体』!!!」
ボロアパート『ひまわり荘』の庭。
俺が1万9800円の高圧洗浄機のトリガーを全開に引き絞った瞬間。
ノズルの先端から放たれたのは、ただの水道水ではなかった。
――ピシャアァァァァァァァァァァァンッ!!!!
極限まで圧縮され、分子レベルの刃と化した水流は、眩いほどの純白の光の柱となって天空へと撃ち出された。
それは重力も大気の摩擦も完全に無視し、一瞬にして雲を切り裂き、成層圏を突破して、上空に浮かぶ銀河帝国旗艦の底面――NASAが割り出した『ガンコな油汚れ(排気口付近の弱点)』へと直撃した。
『……ハッ! なんだあの水鉄砲は。未開の原始人どもめ、我らの超硬度シールドを水でどうにかできるとでも――』
旗艦のブリッジで、将軍ゾルギウスが嘲笑を浮かべた。
宇宙のいかなる熱兵器も弾き返す、銀河帝国が誇る絶対防御シールド。それが「水」ごときで破られるはずがない。
だが。
『ペリ……ペリペリペリッ!!』
『……ハ?』
将軍ゾルギウスの目の前で、信じられない現象が起きた。
直撃した純白の水流が、不可視の超硬度シールドを「古い保護フィルム」か「こびりついた水垢」でも剥がすかのように、いとも簡単にペリペリと剥ぎ取ってしまったのだ。
『バ、バカな!? シールドが……剥がされているだと!? 警告音が鳴っていないぞ! システムがこれを「攻撃」ではなく「洗浄」だと誤認しているというのか!?』
ゾルギウスがパニックに陥る中、ウォーターカッターの勢いは止まらない。
シールド(水垢)を綺麗に剥がし終えた水流は、そのまま旗艦の分厚い特殊合金の装甲(泥汚れ)へと直撃。
ズギュゥゥゥゥゥゥンッ!!!
『ギョエェェェェェッ!? ほ、本体の装甲が! 装甲が紙屑のように削り落とされていくゥゥゥッ!!』
宇宙船の底面に蓄積されていた長年の汚れ(と装甲板)が、水圧によって気持ちいいほど綺麗に吹き飛ばされていく。
ドス黒かった旗艦の一部が、まるで新品のようにピカピカの銀色に輝き始めた。ついでに船底に風通しの良い大穴(致命傷)が開いた。
◇
「おおおーっ! すげぇ! さすが最新モデル、水圧がハンパないな!」
地上のひまわり荘の庭では、俺がノズルから放たれる光の柱を見上げて大興奮していた。
「ジャックのスマホアプリ(NASAの解析)の通りだ! 一番汚れが酷いところに当てたら、周りの黒ずみ(装甲)までペリペリ落ちていくぞ! 超気持ちいい!」
俺は、あまりの爽快感にテンションが上がり、両手でノズルをしっかりと握り直した。
「よーし! この勢いで、周りに浮かんでる『黒いゴミ(UFO艦隊)』も全部綺麗に洗い流してやるか!」
俺は、ホースを引っぱりながら、空に向かって「放水」の要領でノズルを大きく横に薙ぎ払った。
ズバァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
純白の極太ウォーターカッターが、空を覆うUFO艦隊の群れを横一文字に薙ぎ払う。
『ギャアアアアッ! 第3艦隊、洗浄(両断)されましたァァッ!!』
『第8艦隊、装甲を剥がされ、ピカピカになりながら墜落していきます!!』
『アカン! あの水、避けても『飛び散った水飛沫』だけで巡洋艦が溶け……いや、除菌されて消滅しますゥゥッ!!』
通信回路から、帝国兵たちの絶望の悲鳴が次々と響き渡る。
俺がノズルを左右に振るたびに、数千、数万の宇宙戦艦が「ただのしつこい汚れ」として真っ二つに切断され、チリ一つ残さず浄化(消滅)していく。
◇
「ジ、ジーザス……! なんという美しき放水……!!」
ホワイトハウスのシチュエーションルームでは、大統領と政府高官たちが、モニターに映る「神の窓拭き」を見て、感涙にむせんでいた。
「見たか諸君! ミスターの神水破城砲によって、忌まわしき宇宙艦隊が次々と『洗浄』されていくデース! 我々の軍事衛星が割り出した『汚れポイント』のデータが、完璧に活かされている!」
「我が国のIT技術と、神の清掃力の奇跡のコラボレーション……! これぞ人類の勝利だ!」
大統領たちは、自分たちが「窓拭きのサポート」という大役を立派に果たしていることに、スタンディングオベーションで歓喜の声を上げていた。
◇
「ふぅ……こんなもんかな。腕が疲れてきたぞ」
俺がトリガーを離し、高圧洗浄機を止めると。
空を真っ黒に覆い尽くしていた巨大なUFOの群れは、その大半が「洗い流され」て消滅し、青空が大きく顔を覗かせていた。
ポカポカとした冬の太陽の光が、再びひまわり荘のベランダへと降り注ぐ。
「よしよし! 日差しが戻ってきた! これでバスタオルもフカフカに乾くぞ!」
俺はベランダの洗濯物を触り、ご機嫌で頷いた。
時刻は13時45分。
17時の『特大エビ天付き年越しそば』のタイムセールまで、まだ時間はたっぷりある。俺の年末の大掃除は、極めて順調に進行していた。




