EP 3
NASAの緊急ミッション。「神の窓拭きを人工衛星でサポートせよ!」
「急げ! 全軍事衛星のカメラを、日本・ひまわり荘上空のUFO艦隊にフォーカスするのデース!」
アメリカ・ホワイトハウス地下のシチュエーションルーム。
大統領の号令により、NASA(航空宇宙局)とペンタゴン(国防総省)のエリート局員たちが、血走った目でスーパーコンピューターのキーボードを叩きまくっていた。
「大統領! 光学および赤外線スキャン、完了しました! 敵艦隊は、未知のエネルギーによる『超硬度シールド』を展開しています! 核兵器すら通用しないバリアです!」
「馬鹿者!! 私が知りたいのはそんなことではない!」
大統領は、報告してきた長官を怒鳴りつけた。
「私が聞きたいのは! ミスター・クジョウが『神水破城砲(高圧洗浄機)』で洗いやすいように、あのUFOのどこに一番『水垢』や『泥汚れ』が溜まっているか、という情報デース!!」
「は、ハイィィィッ! ただちに、敵艦船の『表面の汚れ(構造的弱点)』の解析を実行します!!」
人類の命運を懸けたスーパーコンピューターの演算能力が、「宇宙船の汚れポイント探し」という、どうしようもなくくだらない目的のためにフル稼働し始めた。
「解析完了! 敵旗艦の底面、中央排気口付近に、微小なエネルギーの淀み……もとい、『ガンコな油汚れ』を発見!! さらに装甲の継ぎ目には、宇宙塵による『しつこい黒ずみ』がビッシリとこびりついています!!」
「エクセレント!! すぐにその座標データを、現場のジャックの端末へ送るのデース! ミスターの清掃(お掃除)を、1ミリの狂いもなくサポートしろォォッ!」
何兆円という国家予算と、人類の最高叡智。
それが今、ただの一人のオカンの「大掃除」をアシストするためだけに、完璧な連携を見せていた。
◇
「おいおい、なんだこのデカい鉄くず(UFO)。下から見ると、結構汚れてるな。排気ガスか何かか?」
日本のひまわり荘の庭。
俺は、上空を覆う巨大な宇宙船の底面を見上げながら、眉をひそめていた。
ただでさえ日差しを遮ってバスタオルの乾燥を邪魔しているというのに、あんな汚い物体が頭の上にあると思うと、清掃員としての血が騒いでウズウズしてくる。
「時間がないからパパッと窓を洗いたいのに……あんな黒ずんだ汚れを見せられたら、気になって大掃除に集中できないじゃないか!」
俺が高圧洗浄機のトリガーに指をかけた、その時だった。
「Boss! お待たせいたしました!」
庭の隅でスマートフォン(※NASA直通の軍事端末)をいじっていたジャックが、バッと画面をこちらに向けた。
「本国のサポートチーム(NASA)から、上空の障害物(UFO)の『詳細な汚れマップ』が送られてきました! 現在、もっともガンコな水垢が溜まっているのは、中央から右へ3度の底面排気口付近! さらに、装甲の継ぎ目にはしつこいカビ(構造的弱点)が繁殖しているとのことです!」
「おっ、マジか!」
俺はジャックのスマホ画面に映し出された、赤や黄色で色分けされた精密な3Dスキャン画像を見て、目を輝かせた。
「すごいな最近のスマホアプリ! カメラを向けるだけで、どこが一番汚れてるか解析してくれるのか!? これなら、闇雲に水を撒かなくて済むから水道代の節約になるぞ!」
「Hahaha! Bossの美しき清掃(世界救済)のためならば、この程度の情報収集など造作もありません!」
「ジャックの言う通りですわ、師匠! さあ、あの上空の『汚らわしい塵』を、心置きなく洗い流してやってくださいませ!」
ジャックとカレンが、まるで俺の部下のような顔をして胸を張る。
スマホの便利アプリ(※国家防衛システム)のおかげで、俺の大掃除のモチベーションは最高潮に達していた。
「よーし! それじゃあ、まずはあの中央の『ガンコな油汚れ』から落としていくか!」
俺は、1万9800円で買った家庭用高圧洗浄機のノズルを、遥か上空のUFO旗艦の底面――NASAが割り出したピンポイントの弱点――に向けて、ビシッと構えた。
『……ン? なんだあの地上の原始人は。我らの旗艦に向けて、あのような黄色いオモチャ(管)を向けて何をするつもりだ?』
上空のモニターでその様子を見ていた銀河帝国の将軍ゾルギウスが、鼻で笑う。
『よもや、あの管から弾でも出ると――』
「こびりついた汚れは! 水圧で一気に弾き飛ばす!!」
俺のオカン的闘気が、高圧洗浄機に流れ込む。
対象:上空で日照権を侵害する『巨大な粗大ゴミ(宇宙艦隊)』および『ガンコな黒ずみ』。
処理:極限まで圧縮された水流により、対象の汚れ(超硬度シールドおよび装甲)を分子レベルで剥離・粉砕する。
「17時の特売に遅れちまうだろうがァァァッ!! ――『解体』!!!」
俺が、高圧洗浄機のトリガーを、一気に引き絞った。
世界を揺るがす、究極の「窓拭き」が、今まさに放たれようとしていた。




