EP 9
市営焼却炉を『概念焼却炉』へ魔改造。町のゴミ問題、永久に解決する
「セェェェェェフッ!!!」
キキィィィィィィッ!!
三丁目市営清掃工場の巨大なゴミ搬入口。
音速で駆け抜けてきたジャックとジャンが、靴底から猛烈な摩擦の煙を上げながら、受付終了のシャッターが閉まる数センチの隙間をスライディングで潜り抜けた。
時刻は午前十時五十九分五十秒。文字通りのギリギリセーフである。
「お、おいあんた達!? なんだその格好は!?」
ヘルメットを被った市営の作業員のおっちゃんが、上半身裸の外国人とアロハシャツの男がゴミ袋を抱えて飛び込んできたのを見て、目を丸くしている。
「ウィ、おじさん! 三丁目の不燃ゴミと生ゴミです! 受付をお願いします!」
「お、おう……。すごい執念だな。じゃあそこのピット(巨大なゴミ溜め)に投げ込んどいてくれ。今すぐ焼却炉に回すから」
作業員に促され、二人は「堕神の核」と「ケルベロスの肉」が入った指定ゴミ袋を、深く巨大なピットへと投げ込んだ。
巨大なクレーンがそれを掴み、燃え盛る巨大な焼却炉の中へと落としていく。
『任務完了! Boss、タエ・マダム、俺たちやったぜ!』
ジャックとジャンが固い握手を交わした、その時だった。
――ボフゥゥゥゥゥゥッ……!!!
突如、巨大な焼却炉の中から、ドス黒い不気味な煙が逆流し始めた。
「な、なんだ!? 焼却炉の温度が一気に急降下してるぞ!?」
作業員のおっちゃんが計器を見て悲鳴を上げる。
無理もない。市の焼却炉(約800度)程度の火力で、世界を滅ぼす「神の核」や、地獄の業火を纏っていた「ケルベロスの肉」が燃えるわけがないのだ。
燃えないどころか、核から漏れ出した強烈な呪い(冷気と瘴気)によって、焼却炉の炎が鎮火しそうになっていた。
「おいおい! 不完全燃焼で黒煙が吹き出してきたぞ! このままじゃ工場が爆発しちまう!」
サイレンが鳴り響き、工場内がパニックに陥る。
そこへ、タエさんを後ろに乗せた『ママチャリ』を猛烈な勢いで漕ぐ湊と、その後ろを黒塗りの高級車で追跡してきた大統領たちが到着した。
「アカン! ミスター・クジョウ! 神の呪いが強すぎて、人間の焼却炉じゃ燃やしきれないデース!」
「くそっ……! 煙突から瘴気が漏れ出せば、この町は終わりだ……ッ!」
VIPたちが車から降りるなり、絶望の表情で頭を抱える。
しかし。
ママチャリのスタンドを蹴って止めた俺は、吹き出す黒煙を見て、呆れたようにため息をついた。
「……なんだこの工場。こんな黒煙出すなんて、日頃のメンテナンスをサボってる証拠だぞ」
「「「……え?」」」
「焼却炉の火力が落ちるのはな、煙突のフィルターに『スス』が溜まってるか、空気穴が『ホコリ』で詰まって不完全燃焼を起こしてるからなんだよ!」
俺のオカン的解釈は、神の呪いによる鎮火現象すら「ただの設備の目詰まり」として処理した。
「まったく、税金で作った設備なんだから、もっと大事に使えっての! ちょっと俺が掃除してやる!」
俺は、ママチャリのカゴに入っていた『柄の長い煙突掃除用のワイヤーブラシ』を引っ掴み、焼却炉の巨大な点検口へと走った。
「な、何をする気デースか!? 中は呪いの黒煙が充満してるデース!」
「危ないよ湊ちゃん!」
「大丈夫だ! 換気扇の掃除と同じ要領だからな!」
俺は点検口のハッチを開け、燃焼室と煙突を繋ぐパイプに向かって、ワイヤーブラシを勢いよく突っ込んだ。
対象:燃焼効率を著しく下げる『概念的な詰まり(神の呪いとスス)』。
処理:物理的な摩擦と清浄な魔力によって、あらゆる不純物を削り落とし、燃焼炉の火力を限界突破(リミッター解除)させる。
「ススとホコリは! こまめに払い落とせェェェッ!! ――『解体』!!」
ゴリゴリゴリゴリッ!!!
俺がワイヤーブラシを激しく上下させた瞬間。
焼却炉の内部にこびりついていた黒い瘴気が一瞬で削り落とされ、空気の通り道が完全にクリアになった。
それと同時に、俺の『解体スキル(浄化の概念)』が焼却炉のシステムそのものに伝播・浸透していく。
――ゴウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
次の瞬間、消えかかっていた焼却炉の炎が、凄まじい勢いで復活した。
いや、ただの炎ではない。
オレンジ色だった炎は、神々しいまでの『純白の輝き』へと変貌し、太陽の表面温度すら凌駕する圧倒的な【概念焼却の炎】へと魔改造されたのだ。
「おっ、いい火加減になったな。燃焼効率100%だ」
純白の炎に包まれた『神の核』と『ケルベロスの肉』は、呪いや瘴気を撒き散らす暇すら与えられず。
ただの可燃ゴミとして、「シュワァァァ……ッ」という心地よい音を立てながら、チリ一つ残さず美しい白い灰へと還元されていった。
「な……」
作業員のおっちゃんが、計器を見て腰を抜かした。
「排、排ガス濃度ゼロ……!? 有害物質ゼロ……!? 燃焼効率が、今までの1万倍になってるぞ……!?」
「煙突から出てる煙が……キラキラ光ってるデース……」
大統領が空を見上げる。
不完全燃焼の黒煙は消え去り、煙突からは、まるで澄み切ったマイナスイオンのような、町中を浄化する清浄な空気が排出されていた。
「ふぅ。これで燃え残りもないし、煙も綺麗になったな」
俺がワイヤーブラシを肩に担いで振り返ると。
大統領、各国のVIP、そして作業員のおっちゃんまでもが、純白の炎が燃え盛る焼却炉の前に、深々と平伏していた。
「……神の呪いすら灰にする、究極の概念焼却炉……」
「それを、ただのワイヤーブラシ一本で作り上げた……。我々は今、人類のインフラが神の領域へ到達した瞬間を目撃したんだ……!」
「……湊ちゃん、アンタ本当にすごい清掃員になったねぇ」
タエさんだけは、涙を拭いながら俺の背中をバンバンと叩いてくれた。
こうして、世界を滅ぼすはずだった神の核は完全に処理され、ついでに三丁目の市営清掃工場は『どんなゴミでも一瞬で無害な灰にするオーパーツ』へと進化し、この町のゴミ処理問題は永久に解決されたのであった。




