EP 7
特大の指定ゴミ袋で堕神を『圧縮・回収』。大統領がゴミ袋の口を結ぶ係になる
「よし、床のヌメリは完全に取れたな。ピッカピカだ」
塩素の清浄な香りが漂う、ゴミ屋敷(特級魔境)の最深部。
俺はモップで床の水分を拭き取り、満足げに頷いた。
広間の中央には、業務用パイプユニッシュ(神殺し仕様)によって除菌・液状化された堕神の、唯一の残りカスが転がっていた。
直径1メートルほどの、禍々しい紫色の光を放つ多面体の結晶だ。
「ヒィィッ……! あれは、神の力の源……『堕神の核』デース……!」
大統領が、ビブス姿で震えながら指を差す。
「たとえ本体が滅びようと、あの核がある限り、周囲に呪いを撒き散らし、いずれ再び堕神として復活する……。絶対に触れてはならない、呪物の極み……!」
「アカン、触った瞬間に呪いで消し飛ぶぞ!」
下着姿(ラベル剥がし済み)の元・Sランク勇者たちも、怯えて大統領の背中に隠れた。
だが。
俺のオカン的視点には、その禍々しい神の核が、全く別のものに見えていた。
「なんだ、このデカくて硬い塊。配水管に詰まってた『ヘドロの芯』か? それとも、前の住人が捨て忘れた『ボウリングの球』か何かか?」
「「「えっ?」」」
「どっちにしろ、金属とプラスチックが混ざったような不燃物だな。このまま放置したらまたゴミが溜まる原因になる。さっさと袋に詰めて回収だ!」
俺はズカズカと神の核に歩み寄り、素手(イボ付き軍手)でガシッと掴み上げた。
「「「オォォーマイガーーッ!?」」」
「触った! 呪いの塊を、軍手で直掴みしたァァッ!?」
外野が絶叫する中、俺は懐から『三丁目指定・不燃ゴミ用特大ゴミ袋(青色・45リットル)』をバサッと広げた。
「おいおい、ちょっとサイズが合わないな。はみ出したら収集車が持っていってくれないんだよ」
俺は、直径1メートルの神の核を、45リットルのゴミ袋に力任せに押し込もうとした。
対象:規格外のサイズを持つ『不燃性の特大ゴミ(神の核)』。
処理:指定ゴミ袋の容量に合わせて、質量と概念を限界まで強制圧縮する。
「規定サイズに収まれェェッ!! ――『解体』!!」
メキメキメキメキッ!!!
俺が軍手で上からギュウゥゥッと体重をかけると。
世界を滅ぼすエネルギーを秘めた神の核が、「キュゥゥン……」という情けない音を立てて、ただのソフトボールほどのサイズにまで物理的に圧縮されてしまった。
「よし! これならスッポリ入るな」
ポイッ。
俺はソフトボール大になった神の核を、青いゴミ袋の中に無造作に放り込んだ。
そして、そのゴミ袋を、後ろでポカンと口を開けている大統領の胸に押し付けた。
「はい、大統領さん。袋詰め終わったから、あとは口を縛っといてくれ」
「……ファッ!?」
大統領は、世界の命運(と呪い)が詰まったゴミ袋を抱き抱え、フリーズした。
「ちょっと大統領さん! 何ボーッとしてるんだい!!」
その時、後ろからタエさん(町内会長)の怒号が飛んだ。
「ゴミ袋の口は、空気が入らないようにしっかり『十字縛り』にする! 隙間があったらカラスが突っつくし、結び目が緩かったら収集車のお兄さんに怒られるんだよ! 早く縛りな!!」
「ヒィィィィッ!! マ、マダム・タエェェッ!!」
大統領は、神の呪いへの恐怖よりも、「タエさんに怒られる恐怖」と「収集車に置いていかれる恐怖」に支配され、半泣きになりながらゴミ袋の口を握りしめた。
「クロス! これが日本の絶対ルール、十字縛りデース!!」
大統領が震える手で袋の端を結ぼうとする。
しかし、高級スーツしか着たことのない彼の手は不器用で、うまく結べない。
「だ、大統領! 右の端と左の端を先に結ぶんだ!」
「バカッ、空気を抜いてからじゃないと膨らんじゃうだろうが! 代われ、俺がやる!」
なんと、イギリス首相やフランス大統領、さらには下着姿の元・Sランク勇者までもが駆け寄り、全員で一つのゴミ袋の口を縛るという、前代未聞の共同作業が始まった。
「いいか、引っぱるぞ! せーのっ!」
「キツく! もっとキツく縛るデース! マダムのチェックが入る前に!」
キュッ、ギュウウウッ。
……数分後。
世界のトップエリートたちの英知(?)と労働力が結集され、指定ゴミ袋の口には、芸術的なまでに美しい『十字の結び目』が完成していた。
「……で、できました! マダム・タエ、ミスター・クジョウ! 完璧な十字縛りデース!」
大統領が、汗だくになりながら、誇らしげにゴミ袋を掲げた。
その顔は、世界の平和条約を締結した時よりも、はるかに達成感に満ち溢れていた。
「おっ、なかなか綺麗に結べてるじゃないか。合格だ」
「やればできるじゃないか、アンタたち! よし、これでゴミ出しの準備は完了だね!」
俺とタエさんが褒めると、大統領やVIPたちは「ウオォォォォォッ!!」と歓声を上げ、ハイタッチをして抱き合った。
「やった……! 俺たち、町内会のルールを守り抜いたぞ……!」
「これで、収集車のお兄さんにも怒られないデース……!」
世界を滅ぼす神の核は、今や完全に「ルール通りに縛られた不燃ゴミ」となり、彼らの足元でコロンと転がっていた。
こうして、神の尊厳は、指定ゴミ袋と十字縛りという「町内会ルールの暴力」によって、完全に密封(封印)されたのであった。




