EP 3
特級魔境への突入。大統領、オバチャンに「ゴミ袋の指定が違う!」と怒られる
「うわぁ……。近くで見ると、さらに酷いな、このゴミ屋敷」
三丁目のはずれに建つ、古びた洋館。
俺とタエさん(町内会長)、そして蛍光グリーンのビブスを着たアメリカ大統領と世界のVIPたちは、その門の前に立っていた。
門の隙間からは、ドス黒いモヤのようなもの(瘴気)が絶えず漏れ出し、鼻を突く強烈な腐敗臭を放っている。
庭には、無数の白骨(かつて奈落に挑んだ英雄たちの成れの果て)や、ドロドロのヘドロ(スライム系の魔物)が散乱していた。
「ひ、ヒィィッ……! なんて濃密な『死の瘴気』だ……。軍手(神器)越しでも、肌が焼けるように痛い……!」
「あ、あれを見ろ! 伝説の勇者の遺骸だ! かつて世界を救った彼らですら、この奈落の第一層すら越えられなかったというのか……!」
大統領やSランク探索者たちが、ガタガタと膝を震わせて身を寄せ合っている。
だが、そんな彼らの悲壮な決意を、俺とタエさんのオカン的視点が粉々に粉砕した。
「まったく、誰だいこんな所に骨付き肉のゴミ(勇者の遺骸)なんか捨てたのは! カラスが突っついて散らかすから、生ゴミはちゃんとネットを被せろって言ってるのに!」
「本当ですよ。それにあのドブのヘドロ(スライム)、変な色してるし、悪臭の原因はあれですね」
俺とタエさんは、マスクを二重にして「嫌だ嫌だ」と愚痴をこぼしながら、平然と門を押し開けた。
ギギギギギ……という不気味な音とともに、SSS級魔境(ゴミ屋敷)の扉が開く。
「よーし! みんな、ボーッと突っ立ってないで手を動かす! まずは庭の『燃えるゴミ』と『燃えないゴミ』から拾っていくよ!」
「「「イ、イエッサー!!」」」
タエさんの号令に、大統領たちがビクゥッ!と直立不動で返事をした。
彼らは震える手で指定ゴミ袋(半透明)を広げ、恐る恐る庭に散乱するゴミ(呪われた武具や魔物の残骸)を拾い始めた。
「こ、これは……ミスリル製の『呪われた魔剣』……。触れた者の精神を破壊する最悪の呪物だ……」
大統領が、地面に落ちていた禍々しい黒い剣を拾い上げ、青ざめた顔で袋に入れようとした。
しかし、その瞬間。
「ちょっとアンタ!! 何やってんだい!!」
――ビクゥゥゥゥゥゥッ!!!
タエさんのダミ声が、SSS級魔境の庭に響き渡った。
大統領は、まるで心臓を撃ち抜かれたかのように飛び上がり、軍手をした手をワナワナと震わせた。
「ヒィィッ!? な、ななな、何でしょうか、マダム・タエ!?」
「アンタ、その手に持ってるのは『金属の剣(燃えないゴミ)』だろ!? なんでそれを『赤い袋(燃えるゴミ用)』に入れようとしてるんだい!!」
タエさんが、仁王立ちになって大統領を怒鳴りつけた。
「いいかい!? 三丁目のルールじゃ、金属類は『青い袋(燃えないゴミ用)』! 生ゴミや骨は『赤い袋』! 分別を間違えたら、収集車のお兄さんが持ってってくれないんだよ!! 大統領だか何だか知らないけど、郷に入っては郷に従いな!!」
「は、ハイィィィィッ!! も、申し訳ありません、マダム・タエェェェッ!!」
世界最強の国家元首が、半泣きになりながら、呪われた魔剣を慌てて『青い袋(燃えないゴミ)』に移動させた。
周囲のVIPたちも、そのタエさんの凄まじい剣幕に、完全に萎縮してしまった。
「お、おい見ろ。イギリス首相が『魔力の宿った空き瓶』のラベルを剥がし忘れて、タエさんに首根っこ掴まれて怒られてるぞ……!」
「アカン……。ここは奈落の魔物よりも、あのマダム(町内会長)の怒りの方が恐ろしい……! 間違えたら社会的に殺される……!」
Sランク探索者たちが、冷や汗を滝のように流しながら、必死に『ペットボトルのラベル剥がし』や『骨と金属の分別』を始めた。
彼らの脳内からは、すでに「世界を救う」という使命感は完全に消え去り、「どうすればタエさんに怒られずにゴミ袋の口を縛れるか」という『町内会ルールへの恐怖』に完全に支配されていた。
「タエさーん! こっちのヘドロ(スライム)、水分が多くて袋が破れそうなんだけど!」
「あー、湊ちゃん! それは新聞紙に吸わせてから燃えるゴミに入れておくれ!」
「了解!」
俺とタエさんが、熟練の主婦のようなコンビネーションで指示を飛ばす。
かくして。
かつて幾多の英雄の命を飲み込んだ絶望の魔境は、軍手とビブス姿の権力者たちが泣きながら「これはプラスチックか!? いや可燃か!?」と議論する、ただの『厳しい町内会の清掃現場』へと成り下がってしまったのであった。




