EP 2
神の清掃行事と勘違いした各国首脳、軍手とビブスで集結する
翌朝九時。三丁目のはずれの空き地。
俺は首にタオルを巻き、ジャージ姿で準備体操をしていた。
隣には、同じくヤル気満々のタエさん(町内会長)と、なぜか決死の覚悟で悲壮感を漂わせているジャックたちSP軍団が並んでいる。
「いやー、湊ちゃんたちが手伝ってくれて助かるよ。でも、やっぱり他のご近所さんは誰も来ないねぇ」
「まあ、休日の朝から他人のゴミ屋敷の掃除なんて、誰もやりたがらないですよ」
タエさんが持参した蛍光グリーンの『三丁目町内会』と書かれたビブスを数えながら、ため息をついた。
「まあいいさ。私たちだけで、パパッと片付けちまおうかね!」
俺たちがゴミ屋敷(※SSS級特級魔境)へ向けて気合いを入れた、その時だった。
――ズザザザザザッ!!
突如、空き地の周囲に、黒塗りの超高級防弾車が何十台も猛スピードで滑り込んできた。
さらに上空からは、音を極限まで抑えたステルスヘリがホバリングし、そこから屈強な黒服の男たちが次々とロープで降下してくる。
「ひぃっ!? な、なんだいこりゃ! ヤクザの抗争かい!?」
「いや……タエさん、ちょっと待ってください。あそこから降りてくる人たち、どっかで見たことあるような……」
黒服たちに護衛されながら、高級車の中から姿を現した集団。
それは、ニュース番組のトップでしか見ないような顔ぶれだった。
「オー! ミスター・クジョウ! 遅れて申し訳ありません! ギリギリ間に合いましたか!?」
先頭を切って俺の元へ駆け寄ってきたのは、なんと現在のアメリカ合衆国大統領だった。
その後ろには、イギリスの首相、フランスの大統領、そして前回の慰安旅行でカニの匂いに釣られて全裸土下座した世界のトップギルドマスター(Sランク探索者)たちが、顔を青ざめさせながらズラリと整列している。
「「「我々にも! その『世界救済の儀式』を、どうか手伝わせてくださいッ!!」」」
大統領をはじめとする世界のトップエリートたちが、俺に向かって一斉に頭を下げた。
「えぇ……?」
俺は完全に面食らった。
なんでアメリカ大統領が、日本の三丁目のゴミ拾いに来てるんだ?
「……あ、そうか。来週、東京で国際会議があるってニュースでやってたな」
「なるほど。その視察のついでに、日本の地域ボランティアに参加して『好感度アピール』をしようって魂胆か。政治家も大変だな」
俺のオカン的思考回路は、この異常事態を「政治家のパフォーマンス」として完璧に処理した。
「湊ちゃん、この外人さんたち、知り合いかい?」
「ええ、まあ。ボランティアに参加したいみたいですよ」
「なんだって!? こんな遠くからわざわざゴミ拾いに!? なんて感心な人たちなんだい!」
タエさんは感動の涙を拭い、大統領の元へズカズカと歩み寄った。
「あんた、偉いねぇ! 名前は? マイケル? ジョンソン? まあなんでもいいわ。わざわざありがとね!」
「オゥ……? あ、はい。ワタシは合衆国の大統――」
「はい、じゃあこれ! ボランティアの証だから、服の上から被って着な!」
タエさんは、大統領が名乗るのも遮り、例の蛍光グリーンのダサいビブスと、ホームセンターで買った一束100円の軍手を強引に押し付けた。
「「「…………!!」」」
ビブスと軍手を渡された瞬間、大統領や世界のトップたちは息を呑み、ワナワナと震え始めた。
彼らの背後では、ジャックたちSP軍団が「さすが王(Boss)の懐刀(町内会長)……! 一切の隙がない……!」と謎の感心を寄せている。
「こ、これが……神の儀式に参加する者だけが身につけることを許される、伝説の『聖なる鎧』と『神器の小手(軍手)』……ッ!」
「信じられない……。これさえあれば、あのSSS級の奈落の瘴気を防げるというのか……!」
大統領たちは、ダサい蛍光グリーンのビブスを、まるで聖骸布でも扱うかのようにうやうやしく掲げ、涙を流しながら身につけた。
最高級のオーダーメイドスーツの上に、ダボダボの蛍光グリーンビブス。手にはイボ付きの白い軍手。
世界を動かす権力者たちの、あまりにもマヌケでポンコツな姿が完成した瞬間である。
「よし、みんな似合ってるぞ! それじゃあ軍手もしっかりはめて!」
「「「イエッサー!! 神の御心のままに!!」」」
俺の号令に、大統領たちがビシッと軍手姿で敬礼する。
「よし。それじゃあ、気合い入れてあの『ゴミ屋敷(特級魔境)』を掃除するぞ! 燃えるゴミと燃えないゴミ、絶対に間違えるなよ!」
「「「オォォォォォォッ!!!」」」
人類の存亡を懸けた(町内会の)大掃除。
最強の清掃員と、世界最高の権力者(ビブス着用)たちによる、前代未聞の特級魔境突入が、今まさに始まろうとしていた。




