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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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EP 3

悪徳情報商材屋と霊感壺~オカン清掃員、情弱ビジネスを論破おそうじする~

第3話:丸めた新聞紙と、オカンのお説教

 ポポロ村、村長邸。

 昼下がりだというのに、リビングの分厚いカーテンは固く閉ざされ、部屋の中は薄暗かった。

 部屋の中央のローテーブルには、何故か仰々しく数本のろうそくが立てられ、揺らめく炎が怪しげな影を壁に落としている。

 そのテーブルの中心に鎮座しているのは、どう見ても百円ショップの園芸コーナーに置いてあるような『素焼きの壺』である。

「……ステーキ、ステーキ、分厚いヒレステーキ……。石油王のスパチャ……」

「……月人君のSSR完凸……。限定ボイス付きのアクリルスタンド……」

 壺を取り囲むように正座し、ブツブツと呪文のように欲望を唱えながら一心不乱に拝み倒しているのは、芋ジャージ姿の駄女神・ルチアナと、純金バケツを頭に被った人魚族のアイドル・リーザであった。

「……お前ら、昼間っから他人の家で何の黒魔術やってんだよ」

 ガチャリ、と。

 玄関の掃き掃除を終え、首にタオルを巻いた九条湊がリビングの扉を開けた。

 薄暗い部屋で、ろうそくの火に照らされながら素焼きの壺を拝む二人の姿は、新興宗教の集会そのものである。

「あっ! 湊、ちょうどいいところに来たわね!」

 ルチアナが、目をギラギラと輝かせて立ち上がった。

「見なさい、これ! アタシたちが独自のルートで手に入れた、最強の神話級アーティファクト『絶対金運上昇の開運壺』よ!」

「そうですわ! これさえあれば、ポポロ村の財政も私の胃袋も潤い放題! 明日には、私たちは金貨のベッドで寝転がっているはずですの!」

 リーザも、誇らしげに鼻息を荒くする。

「……神話級アーティファクトねぇ」

 湊は、呆れ顔でカーテンをシャーッ!と全開にし、リビングに太陽の光を取り込んだ。

「眩しっ!?」

「ちょっと湊、金運の波動が逃げちゃうじゃない!」

「寝言は寝て言え。どう見てもその辺の土こねて焼いたただの壺じゃねェか」

 湊は、テーブルの上の壺を手に取り、コンコンと指の関節で叩いた。その音は、明らかに安っぽく、スカスカの反響音を返してきた。

「信じないんですのね? フフッ、無知とは恐ろしいものですわ。……ルチアナ様、あの『証拠』を見せてさしあげて!」

「ええ、いいわよ。湊、腰抜かさないでよね。……オープン・ステータス!」

 ルチアナがドヤ顔で指を鳴らすと、壺の表面にホログラムの文字がフワリと浮かび上がった。

 そこには確かに『【UR神話級】効果:絶対金運上昇、ガチャSSR排出率1000%UP』という、頭の悪そうな文字列が羅列されていた。

「……なるほどな。ステータス偽装か」

 湊は、その文字列を一瞥しただけで、すべてを察した。

「偽装!? な、何言ってるのよ、鑑定結果にハッキリとURって出てるじゃない!」

「そうだよな。お前らみたいな『情弱』は、画面に表示された文字メタデータだけを見て、中身を一切確認しねェからな。……いいか? こういうのはな、こうやって見るんだよ」

 湊は、壺を持ったまま、自身のユニークスキルである【解体】を発動させた。

 物質の構成を原子レベルでスキャンし、その構造の矛盾や嘘を暴き出す、清掃員の絶対領域。

「……スキャン完了。やっぱりな」

 湊は、ため息と共に壺をテーブルに戻した。

「この壺、内部の魔導回路どころか、土の密度すらガタガタだ。焼きの温度も足りてねェ。ただのその辺の泥を、魔力で強引に『形だけコピー』した粗悪なデッドコピー品だ。……そこに、別のヤツが【ステータス偽装】のスキルで、表面の表示データだけを書き換えてる。完全な『詐欺商材』のコンボ技だ」

「さ、詐欺……!?」

「デッドコピー……!?」

 ルチアナとリーザの顔から、一気に血の気が引いた。

「だいたいな。本当に金運が上がってガチャの確率が跳ね上がるなら、その売人はなんでそれを自分で使わねェで、わざわざお前らみたいな貧乏人に売りに来るんだよ。……『誰でも簡単に儲かる』って話はな、人に教えるより自分でやった方が儲かるに決まってんだろうが! こんなの、情報商材詐欺の基本中の基本だぞ!」

 湊の、身も蓋もない現実社会のド正論が、二人の頭に冷や水をぶっかける。

「で、でも……っ。ステータスにはURって……っ」

 ルチアナが、未練がましくホログラムを指差す。

「画面の表示なんて、いくらでも弄れるんだよ! PCの検証ツール(デベロッパーツール)で、自分の口座残高を百億円に書き換えて喜んでるガキと同じ理屈だ!」

「「あ、あ、あああぁぁぁっ……!」」

 二人は、ようやく自分が『見せかけの数字』に踊らされていた完全な情弱カモであったことに気づき、膝から崩れ落ちた。

「……ハァ。まぁ、金払ってねェならいい。授業料だと思って、今度から気をつけ――」

 湊が言いかけた、その時だった。

 リーザのジャージのポケットから、ペラリと一枚の羊皮紙が滑り落ちた。

「ん? なんだこれ」

 湊がその羊皮紙を拾い上げ、視線を落とす。

 そこには、『サメジマ・アドベンチャー・サロン 特別融資契約書』という見出しと、ルチアナとリーザの血判サインがハッキリと記されていた。

 そして、その契約条件の欄には――。

『借入元本:金貨五十枚』

『利息:十日につき一割トイチ

「…………」

 ピキィィィンッ。

 湊の額に、青筋が浮かび上がる音がした。

「……おい」

 湊の放つ、極低温にして圧倒的な『オカンの怒り』のオーラ。

 そのあまりの恐ろしさに、ルチアナとリーザは「ひぃっ!?」と悲鳴を上げて後ずさった。

「お前ら……金がないからって、このクソみたいなゴミ壺を買うために、『トイチ』の闇金ローン組んだのか……!?」

「だ、だってぇぇっ! 十日で一割なら、明日の朝に石油王からスパチャが来れば一括で返せるって、あの青いスーツの人が言ったからぁぁっ!!」

「そうよ! 金貨五十枚くらい、SSRのカード売ればすぐペイできるって計算で……っ!」

 二人が、涙目で言い訳をまくし立てる。

「バカヤロウがァァァァァッ!!」

 湊は、テーブルの上に置かれていた『ルナミス新聞・朝刊(経済面)』を手に取ると、凄まじいスピードでクルクルと硬く丸め、最強の近接打撃兵器ハリセンを錬成した。

「いたっ!」

「あだっ!!」

 ペチッ! ポカッ!

 丸めた新聞紙が、女神の頭とアイドルの頭を小気味よく、かつ連続で叩き据える。

「痛い痛い! 湊、暴力ハンタイ!」

「人魚の脳細胞が死滅しますわぁぁっ!」

「死滅する脳細胞が残ってんなら、今すぐ年利計算してみろ!!」

 湊は、丸めた新聞紙でテーブルをバンバンと叩きながら、烈火の如く説教を開始した。

「十日で一割ってことは、単純計算でも年利365パーセントだぞ! 複利で計算したら、一年後には借金が雪だるま式に膨れ上がって、一生マグローザ漁船(タコ部屋)から降りられなくなるレベルの完全な違法金利アウトだ! そんな契約書に、約款も読まねェでホイホイ判子押すバカがどこにいるんだ!!」

「う、うわぁぁぁんっ……! ごめんなさぁぁいっ!!」

「マグローザ漁船は嫌ですわぁぁっ! カニ工船も嫌ですわぁぁっ!」

 丸めた新聞紙のポカポカという軽快な音と、二人の情けない泣き声がリビングに響き渡る。

 神とアイドルという立場でありながら、ここまで完璧に「騙されたオカンに怒られる子供」の構図を体現できるのは、アナステシア世界広しといえどもこの二人くらいだろう。

「……ったく。世話の焼けるポンコツどもだ」

 湊は、新聞紙をテーブルに放り投げ、深くため息を吐いた。

「でも、どうするのよぉっ! サインしちゃったから、もう借金は消えないのよぉっ!」

 ルチアナが、エンジェルすまーとふぉんを抱きしめて号泣する。

「アホか。特定商取引法に基づくクーリングオフ制度を舐めんな」

 湊は、URデッキブラシを肩に担ぎ直し、ギラギラとした目を外へ向けた。

「ステータス偽装による優良誤認(景品表示法違反)。実態のないポンジ・スキーム。おまけに違法金利の貸金業法違反だ。……ツッコミどころが多すぎて、契約自体が無効ノーカンに決まってるだろうが」

「く、くーりんぐおふ……?」

「要するに、今からその詐欺師どものところに乗り込んで、このゴミ壺を顔面に叩き返して、契約書をビリビリに破り捨ててやるってことだ」

 湊の言葉に、二人の顔がパッと明るくなった。

「本当ですの!? 借金、チャラになりますの!?」

「湊ぉっ! アンタってば、たまには頼りになるじゃないのよぉぉっ!」

「うるせェ。お前らは反省して正座してろ」

 湊は二人を冷たく突き放すと、懐から魔導通信石を取り出した。

『……あ? なんだ湊。こっちは今、夜の仕込みで忙しいんだが』

 通信石の向こうから、不機嫌そうな龍魔呂の声が聞こえてくる。

「悪いな、大将。……ちょっとポポロ村の路地裏に、不法投棄された粗大ゴミ(詐欺師)が出たみたいでな。俺一人じゃ運びきれねェから、ゴミ回収シメの手伝いをお願いしたい」

『……ほう?』

 龍魔呂の声のトーンが、一瞬にして極低温の殺気(DEATH4)を孕んだものに変わった。

『……俺の常連客カモに手を出して、ポポロ村の空気を汚した腐れ外道がいるってことだな? ……上等だ。愛用の本焼き牛刀(解体用)を持っていく。……極上のミンチにしてやる』

「助かる。じゃあ、五分後にタローソンの前で合流だ」

 通信を切り、湊はニヤリと笑った。

 情弱を食い物にしてイキり散らす悪徳転生者コンビ。彼らが手を出したのは、アナステシア世界で絶対に敵に回してはいけない『オカン清掃員』と『伝説の処刑人』が住む村の住人だったのだ。

「さぁて。ポポロ村の風紀を乱すゴミどもに……徹底的な『お掃除』の時間だ」

 丸めた新聞紙の説教を終えた湊は、詐欺師たちへ法と物理の鉄槌を下すべく、ゆっくりと立ち上がったのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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