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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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EP 2

情弱ホイホイと、トイチのローン(悪魔の契約)

「ぐきゅるるるるるるるっ……」

 ポポロ村のメインストリート。

 長閑な午後の陽光が降り注ぐ中、人魚族の地下アイドル・リーザのお腹から、まるで地鳴りのような凄まじい音が響き渡っていた。

「うぅぅ……。お腹が空きましたわ。お肉……滴るような肉汁と、分厚い赤身のお肉が食べたいですわぁぁっ……」

 リーザは、大事な純金バケツ(お賽銭箱)を力なく引きずりながら、タローソン(魔導コンビニ)の窓ガラスにへばりついていた。ガラスの向こうには、ホットスナックコーナーでくるくると回る『シープピッグの粗挽きフランク』が輝いている。

「諦めなさい、リーザ。アタシたちのお財布には、今や銅粒(一円)一枚残ってないのよ。……ああもうっ、なんでアタシ、月人君のガチャであんなにムキになっちゃったのかしら……っ」

 その隣で、エンジ色の芋ジャージを着た女神ルチアナが、エンジェルすまーとふぉんの『残高ゼロ』の画面を見つめながら、深いため息を吐いていた。

 魔王ラスティアが優雅にヒレステーキを食べていた光景が、二人の脳裏に焼き付いて離れない。

 しかし、オカン清掃員(九条湊)の言う通り、働かざる者食うべからずである。

「ねぇ、ルチアナ様。どこかに『楽して、ドカンと大金が手に入る』ような、夢のようなお仕事は転がってませんの? 泥だらけの畑仕事や、湊さんの便所掃除の手伝いなんて、アイドルと女神がやる仕事じゃありませんわ!」

「そうねぇ……。どっかの道端に、金貨の入った袋でも落ちてないかしら……」

 二人は、完全に『労働の意思ゼロ』の腐りきった思考で、トボトボと村の路地裏へと足を踏み入れた。

 ――彼女たちは、知らなかった。

 この世界アナステシアにおいて、そんな「楽して稼ぎたい」「一発逆転したい」と願う、都合の良いお花畑な思考回路を持つ者(情報弱者)を、決して見逃さない『悪魔』が存在することを。

 ◇ ◇ ◇

「……チッ。なんだって俺が、こんな薄暗ェ路地裏で、せっせと泥遊びみたいなマネしなきゃなんねェんだ」

 ルチアナたちが歩く路地裏の少し奥。

 タローマンで売られている安物のニッカポッカと安全靴を履いた男――火原元ひはら げんが、道端の小石を蹴り飛ばしながら悪態をついた。

「文句を言わないでくださいよ、火原さん。あなたのその【コピー】スキルが、我々の『ビジネス・スキーム』の根幹なんですから」

 火原の隣で、無駄にテカテカと光る安物の青いダブルスーツを着込み、手首にはこれ見よがしに金メッキの偽物時計を光らせた男――鮫島剛さめじま ごうが、前髪をかき上げながらニヤリと笑った。

 彼らこそ、犯罪集団ナンバーズの末端であり、ルナミス帝国周辺の『情弱』を食い物にして荒稼ぎを続ける、悪徳転生者のコンビである。

「だいたいよォ、鮫島」

 火原が、足元にズラリと並べられた『素焼きの壺』を指差した。

「俺のスキルは、触ったもんを複製できるが……俺に難しい魔法陣や材質の知識がねェせいで、中身はスッカスカの脆い『劣化品』になっちまうんだぞ? こんな、百円ショップで売ってるような安っぽい素焼きの壺のコピー品なんて、誰が買うんだよ」

「チッチッチッ」

 鮫島が、ウザったい手つきで人差し指を振る。

「これだから、教養のない土木上がりの脳筋は困るんですよねぇ。……いいですか? 現代のビジネスにおいて、商品の『中身』なんてどうでもいいんです。重要なのは、消費者の購買意欲を煽る『付加価値マーケティング』ですよ。……おや?」

 鮫島が、路地裏を歩いてくる二つの影に目を留めた。

 芋ジャージのルチアナと、純金バケツを持った少女リーザ。二人の顔には「お金が欲しい」「お肉が食べたい」という、強烈なまでの『飢えと隙』が滲み出ている。

「……火原さん。極上の『カモ(見込み客)』が歩いてきましたよ。私の華麗な営業クロージングテクニック、特とご覧あれ」

 鮫島は、口角を吊り上げると、わざとらしく青いスーツの襟を正し、ルチアナたちの前へとスッと立ち塞がった。

「そこのお美しいお二人。……もしかして、まだ日雇いの清掃や、退屈なゴブリン狩りで『消耗』してるんですか?」

「えっ?」

 突然、胡散臭い横文字を使う男に話しかけられ、ルチアナとリーザが足を止める。

「現代のアナステシア経済は、すでに『魔導Web3・0』の時代に突入しています。労働ハードワークで小銭を稼ぐ時代は終わりました。これからの時代は『魔導不労所得』……つまり、運気と情報にレバレッジをかけて、座っているだけで金貨を生み出す『マインドセット』が必要なんです!」

「ま、まいんどせっと……?」

「ふろうしょとく……!?」

 鮫島の口から飛び出す、意味不明だが『なんだかすごそう』なビジネス用語のラッシュ。

 頭がからっぽの駄女神とアイドルの脳髄に、その甘美な響きがスーッと浸透していく。

「あ、怪しい男ですわね! 私、そういう詐欺には引っかかりませんわよ!」

 リーザが、一応の警戒心を見せて純金バケツを構える。

「詐欺? ハハハ、ご冗談を」

 鮫島は、余裕の笑みを浮かべ、火原が作った『ただの劣化コピー壺』を一つ、恭しく両手で持ち上げた。

「これは、私が独自のコネクションで古代遺跡から発掘した、神話級のアーティファクト……『絶対金運上昇の開運壺』です。これを持っているだけで、宇宙の波動シナジーがあなたの財布に直結し、莫大な富を引き寄せるのです!」

「ただの薄汚い素焼きの壺にしか見えませんけど……」

 ルチアナが胡散臭そうに目を細める。

「ふふっ。あなたのその疑い深い目は素晴らしい。……では、論より証拠エビデンス。この壺の『真の価値』を、あなたの鑑定眼で確かめてみてください!」

 鮫島が、壺をルチアナの目の前に突き出す。

 その瞬間。鮫島は、自身の持つ最悪のユニークスキル――【ステータス偽装フェイク・メタデータ】を密かに発動させた。

 ピキィィィンッ!!

 ただの素焼きの壺の周囲に、突如として眩い黄金のホログラムが浮かび上がり、空中に『鑑定ステータス』の文字が羅列された。

『アイテム名:【UR神話級】豊穣と黄金の霊感壺』

『効果1:絶対金運上昇(所持者の全収入が毎日10倍に倍増)』

『効果2:【ガチャSSR排出率1000%UP(天井知らず)】』

『効果3:【ゴッドチューブ・スパチャ獲得量無限大・石油王リスナー確定】』

『効果4:明日の夕飯は確実に極厚ヒレステーキ』

「「…………ええええええええええええええええっ!!?」」

 そのステータス画面を見た瞬間。

 ルチアナとリーザの目ん玉が、文字通りポロリと飛び出さんばかりに見開かれた。

「ガ、ガチャのSSR排出率が、1000パーセントアップですってぇぇっ!?」

 ルチアナが、エンジェルすまーとふぉんを握りしめて絶叫する。

「ス、スパチャ獲得量が無限大!? 石油王リスナーが確定!? おまけに明日はヒレステーキですってぇぇっ!?」

 リーザが、純金バケツを放り出して壺に飛びつこうとする。

(……チッ、相変わらずエグいスキルだぜ、鮫島の手品は)

 路地裏の影で見ていた火原が、呆れ半分で舌打ちをした。

 鮫島の【ステータス偽装】は、実際の効果は1ミリもないただのハッタリだが、画面上の文字だけは『本物の鑑定結果』として相手の脳に直接叩き込まれる。情弱を狩るには、これ以上ない最悪の武器であった。

「お分かりいただけましたか? これが、一部の成功者(アッパー層)だけが独占している『富の源泉』です」

 鮫島が、わざとらしく壺をスッと引っ込める。

「ほ、欲しい! それ、今すぐアタシに売りなさいよ! いくら!? いくらなの!?」

「私に売ってくださいませ! その壺があれば、私は宇宙一のスパチャアイドルになれますのよ!」

 完全に目を¥マークにしてヨダレを垂らす二人。

 鮫島は、心の中で(チョロすぎだろ、この原住民……!)と爆笑しながら、冷徹な詐欺師の顔を作った。

「本来なら、金貨一万枚でもお譲りできない代物ですが……お二人の、成功に向かってコミットしようとするその『熱意』に免じて。特別に……【金貨五十枚】でお譲りしましょう!」

「「金貨、五十枚……っ」」

 その金額を聞いて、二人はハッと我に返り、己の空っぽの財布ジャージのポケットを探った。

 ルチアナのポケットからは、丸まったレシートのゴミ。リーザのポケットからは、道端で拾ったピカピカの五円玉が数枚出てきただけだった。

「だ、ダメですわ……! 今の私たちには、もやし炒め定食のおかわりすら払えるお金がありませんの……っ」

「うぅぅっ……! 目の前に、月人君のSSR確定チケット(壺)があるのに……っ」

 絶望して崩れ落ちる二人。

 そこへ、鮫島が待ってましたとばかりに『悪魔の契約書』を懐から取り出した。

「お悩みですか? 安心してください。……お金がないからといって、成功へのチャンスを逃すのは『情弱』のやることです。お二人ほどのポテンシャルがあれば、この私が特別に『レバレッジ・ローン・スキーム』をご案内しましょう」

「ろ、ろーん……?」

「ええ。サメジマ・アドベンチャー・サロン会員限定の、画期的な資金調達システムです! 今日、この壺を前借りでお渡しします。その代わり……十日ごとに、元本の『一割』をシステム利用料(利息)として上乗せしてお支払いいただく。……これこそが、現代経済のスタンダードです!」

 十日で一割。

 俗に言う『トイチ』である。年利に換算すれば365%を超える、完全なる違法暴利の闇金ローンだ。

「じゅうにちで、いちわり……? なんか、すごく高いような気が……」

 ルチアナが、一瞬だけ神としての理性を働かせて首を傾げる。

「高い? とんでもない!」

 鮫島が、食い気味に契約書を突きつける。

「考えてもみてください! この壺さえ手に入れれば、あなたの金運は明日から『10倍(1000%)』になるんですよ!? たった一割の利息なんて、明日の朝にはスパチャと石油王の投げ銭で、余裕で一括返済できるじゃありませんか! ここでリスクを取れない人間は、一生『もやし炒め』で消耗するだけの人生ですよ!!」

 ――もやし炒めで消耗するだけの人生。

 その言葉が、二人の背中を強烈に押し出した(突き落とした)。

「買いますわ!! 買わせていただきますわ!!」

「アタシも! 明日には月人君の完凸アカウントになってるんだから、利息なんてハナクソみたいなもんよ!」

 ルチアナとリーザは、契約書(トイチの借用書)の裏面や細かい約款を一切読むことなく、奪い合うようにして血判サインを押してしまった。

「……はい、ご契約完了です。おめでとうございます、今日からお二人は『勝ち組』です」

 鮫島が、ニヤリと口角を吊り上げ、借用書を懐にしまう。

 そして、火原の作った劣化コピーの素焼き壺を、恭しく二人に手渡した。

「やったぁぁぁっ! これで私も、ヒレステーキ食べ放題ですわーっ!」

「さっそく帰って、壺にお祈りしながらガチャ引かなきゃ!!」

 壺を抱きしめ、スキップを踏みながらホクホク顔でポポロ村の村長邸へと帰っていく駄女神と強欲アイドル。

「……おい鮫島。アイツら、大丈夫か? あんなポンコツ、見たことねェぞ」

 火原が、路地裏から出てきて呆れたように煙草に火をつけた。

「ハッ! これだから異世界転生はやめられないんですよ。あのステータス画面をちょっと書き換えただけで、あんなゴミに金貨五十枚(トイチの借金付き)の価値がつくんですからね」

 鮫島が、金メッキの時計を見ながらゲスな笑い声を上げる。

「さぁ、火原さん。次のカモを探しに行きましょう。あのバカ二人が『48時間』経って、壺のステータス偽装が解けてただのゴミだと気づく前に、この村からドロン(高飛び)しますよ」

 悪徳情報商材屋と、劣化コピー職人。

 この悪魔のタッグによって、ポポロ村に最悪の『情弱ビジネス』の魔の手が忍び寄っていた。

 だが、彼らはまだ気づいていない。

 この村には、コンプライアンス違反と詐欺商法をこの世で最も憎み、ステータス画面などの『見せかけ』を原子レベルで看破する【解体】スキルを持った、最強の『オカン清掃員』が存在しているということを。

読んでいただきありがとうございます。

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