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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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EP 6

氷血公爵とモフモフ聖獣の異常な愛情~オカン清掃員、乙女ゲー概念の街を論破おそうじする~

第6話:ユニークスキルと自立。オカンの進路相談

「……アンタたち!! わたくしの稼ぎ頭の街(ドル箱)で、一体何をやってくれてますのォォォォッ!!」

 オープンテラスのカフェの真上から、鼓膜を劈くような絶叫と共に、ハイブランドのドレスに身を包んだ月の女神・カグヤが、まるでミサイルのように音速で突撃してきた。

 ズドォォォォンッ!!

 大理石の床が(摩擦係数ゼロのはずなのに)カグヤの着地の衝撃でクレーター状にひび割れ、周囲の美男美女の貴族たちが「きゃああっ!」「地震!?」と悲鳴を上げて逃げ惑う。

「いててて……っ! ヒールが折れましたわ!」

 カグヤが砂埃の中から立ち上がり、湊たちを般若のような顔で睨みつけた。

「ちょっと湊! キャルル! それにリーザ! アンタたち、わたくしがゴッドチューブのPV(視聴率)を稼ぐために丹精込めて作った『乙女のロマン(概念)』を、片っ端から論破して回ってるらしいですわね!?」

「おう、見栄っ張り女神。久しぶりだな」

 湊は、URデッキブラシを肩に担いだまま、冷たいハーブティーをすすって悪びれもせずに答えた。

「久しぶり、じゃありませんわ! なーにが『バキュームカーは誰が運転してんだ』ですの! そんな泥臭くてウンコ臭いリアルなインフラ設定なんか導入したら、この街を見て胸をときめかせている全世界の乙女たち(リスナー)がドン引きして、視聴率がダダ下がりするでしょうが!!」

「アホか。インフラを怠る街はいずれ疫病で滅ぶんだよ。お前のPV稼ぎのために、この街の衛生観念コンプライアンスが犠牲になってんだぞ」

「うるさいうるさいうるさい! わたくしは今月のカードの引き落とし(ギャラ飲み代)がヤバいんですの! この『婚約破棄』と『溺愛公爵』のテンプレ配信で、一気にスパチャを稼ぐ予定でしたのに……っ!」

 カグヤが、なりふり構わず自身の金欠事情とメタ的な設定理由を暴露し始める。

「それに! なんでヒロインのエミリアが、あんたたちの側にいますの!? 彼女は、わたくしが直々にチート能力を授けた、この街の主役ですのよ!」

 カグヤがエミリアをビシッと指差す。

 エミリアは、空から降ってきた自分を転生させた女神を前にして、ビクッと肩を震わせた。

「あの……その節は、お世話に……なりました」

「お世話になりました、じゃありませんわ! わたくしがわざわざ、あんたに『ユニークスキル』をあげて、人生やり直せるようにしてあげたじゃない!」

「ユニークスキル?」

 湊が眉をひそめる。

「ええ、そうですわ!」

 カグヤが、ドヤ顔で胸を張った。

「エミリアが持っているのは、【絶対的愛玩対象】という最強のパッシブスキル! このスキルを持っていれば、本人が何の努力をしなくても、高スペックな美形ヒーローや、レアなモフモフ聖獣から、無条件で『狂おしいほどの溺愛と執着』を向けられるんですの!」

「「「「…………」」」」

 湊、キャルル、リーザ、ルナ、キュララの五人が、一斉に生温かい、そして完全に引いた視線をカグヤに向けた。

「……何ですの、その目は」

「いや」

 湊が、呆れ果ててこめかみを押さえた。

「お前……そんな呪い(デバフ)みたいなスキルを、この女に押し付けたのか?」

「呪い!? 最強の勝ち組スキルですわよ!? 寝てるだけで、イケメンが全部貢いでくれて、モフモフがすり寄ってくるんですのよ!?」

「だから、それが呪いだっつってんだよ」

 湊は、URデッキブラシで大理石の床をドンッ!と叩き、カグヤのロマンを真っ向から否定した。

「なんの努力もしてねェのに、無条件で溺愛されて、執着される。……そんなの、ただの『洗脳』か『共依存』だろ。相手はお前の人格(中身)を見て愛してるんじゃねェ、スキルの効果でバグって『所有欲』を暴走させてるだけだ。さっきの氷血公爵メンヘラとエロオヤジ聖獣がその最たる例だ」

「うっ……」

 カグヤが図星を突かれて言葉に詰まる。

「……湊さんの言う通りです」

 俯いていたエミリアが、静かに、しかし震える声で口を開いた。

「私、前世で毎日終電まで働いて、心も体もボロボロだったから……転生した時、このスキルをもらって、最初は嬉しかったんです。もう働かなくていい。誰かに甘やかされて、守られて、お姫様みたいに生きていけるんだって……」

 エミリアの目から、ポロリと涙がこぼれた。

「でも……違いました。公爵様も、コン太ちゃんも、私の意見なんて一つも聞いてくれないんです。私が『自分で歩きたい』と言っても、『危ないから俺が抱いて運ぶ』って聞かないし、『この服を着たい』と言っても、『お前には俺の選んだ服しか着せない』って……」

「完全に束縛DV野郎ですわね……」

 リーザがドン引きしている。

「私、この世界に来てから……自分のお金で買い物をしたことも、自分の足で街を歩いたことも、自分の意志で何かを決めたことも……一度もないんです。ただ『愛されるためのお人形』として、鳥籠の中に閉じ込められてるだけで……っ!」

 エミリアの悲痛な叫びが、オープンテラスのカフェに響き渡った。

 乙女ゲーにおける「溺愛テンプレ」の行き着く先。それは、ヒロインの自我と自立心を完全に奪い去る、恐るべき『ソフトな軟禁状態』であったのだ。

「……私、何もできないんです。ユニークスキルがあっても、ただ守られるだけで……前世で社畜だった頃の方が、まだ『自分で働いて、自分のお金で生きてる』っていう実感がありました……っ」

 両手で顔を覆い、泣き崩れるエミリア。

 カグヤは気まずそうに視線を逸らし、「そ、そんな重い設定、わたくし考えてませんでしたわ……」とモゴモゴと言い訳している。

 そんなエミリアの頭に。

 ポンッ、と。

 湊の、大きな、そしてマメだらけの無骨な手が乗せられた。

「……泣くな。今、気づけたんなら、まだ遅くねェ」

 エミリアが顔を上げると、そこには、いつもの冷ややかな顔ではなく、迷える若者を導く『本物のオカン』の優しくも厳しい眼差しがあった。

「いいか、エミリア。誰かに養ってもらって、何不自由なく守られるってのは、一見楽に見えるかもしれない。だがな……『自分の足で立って稼ぐ力』がねェ奴は、相手と対等な人間関係を築くことは絶対にできねェんだよ」

「……対等な、関係……」

「そうだ。相手の金(稼ぎ)に依存してる限り、お前は一生『養われるペット』のままだ。意見も言えねェ。嫌なことを嫌だと突っぱねることもできねェ。……それが嫌なら、ユニークスキルなんて見せかけのバフに頼らず、テメェの力で汗かいて働け」

 湊は、エミリアの背中をバンッ!と力強く叩いた。

「ポポロ村の畑は、泥だらけで臭ェし、朝は早ェし、腰は痛くなる。……だが、自分で耕して、自分で育てた太陽芋を売って稼いだ『銅貨一枚』の重みと美味さは、公爵の用意した豪華なフルコースなんかより、ずっとずっとお前の腹と魂を満たしてくれるはずだ」

 湊の言葉が、エミリアの胸の奥底――前世で監査部や営業部を駆け回り、自分の稼いだ給料で週末に飲む一本の缶ビールの美味さを知っていた『社畜の血』を、激しく沸騰させた。

「……働いて、稼ぐ……」

 エミリアの瞳から、涙がピタリと止まった。

 代わりに宿ったのは、自立への渇望と、労働への強烈な意欲アドレナリンである。

「……私、やります!」

 エミリアが、ガタッ!と立ち上がった。

「私、ポポロ村に行きます! 泥だらけになって、自分の力で稼いで、自分の足で立ってみせます! 公爵様のお人形ペットはもうやめです!」

「おう。その意気だ。まずはタローマンで、丈夫なツナギと長靴を買うところからスタートだな」

 湊が、満足げにニヤリと笑う。

「ちょっとぉぉっ! 勝手にわたくしのヒロインを、農業(ガテン系)ルートに引き抜かないでくださる!?」

 カグヤがパニックになって叫ぶ。

「ヒロインが泥だらけで農作業なんかしたら、乙女ゲーのコンセプトが崩壊しちゃいますわ! リスナーが減っちゃいますわよぉぉっ!」

「リスナーのみんなーっ!」

 すかさず、キュララが魔導カメラをカグヤにズームアップした。

「カグヤ様が、自分のPV稼ぎのためにエミリアちゃんを鳥籠に閉じ込めようとしておりまーす! 完全にブラック企業のプロデューサーでーす☆」

 空中のコメント欄が、再び爆発する。

『カグヤ様最低だわww』

『エミリアちゃん、農業ルート突入おめでとう!』

『オカンの進路相談、ガチで泣けるんだが……』

『溺愛(束縛)より、自立して稼ぐ方がカッコいい!』

『スパチャ1万円! エミリアちゃんの長靴代にして!』

『私も明日から仕事がんばる……(社畜並感)』

「あ、あわわわわっ! スパチャが……アンチコメントが……っ! わたくしのゴッドチューブの評価が下がっていきますわぁぁっ!」

 カグヤが、エンジェルすまーとふぉんの画面を見て顔面蒼白になり、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「ざまぁありませんわ! 労働の尊さを忘れた見栄っ張り女神には、いい薬ですの!」

 リーザが、純金バケツを高々と掲げて勝利のポーズを決める。

「よーし、お悩み相談(お掃除)はこれで完了だ」

 湊は、URデッキブラシをアイテムボックスへしまい、パンパンと手を払った。

「帰るぞ、お前ら。……エミリア、ポポロ村の芋掘りは重労働だぞ。覚悟はいいな?」

「はいっ! 残業も休日出勤も、前世で嫌というほど経験済みです! 農業ブラック労働、どんとこいです!」

 エミリアが、かつての『社畜の鑑』としての満面の笑みで敬礼した。

 こうして、ムーンキャピタルを支配していた「溺愛」と「依存」という歪んだテンプレ概念は、オカン清掃員のド正論によって完全に解体された。

 しかし、彼女たちがポポロ村へ帰還しようとしたその時。

 この騒動のもう一つの元凶――『氷血公爵』の炎上劇が、ネットのゴッドチューブで取り返しのつかない事態を引き起こしていたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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