↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
213/224

EP 4

モフモフ妖狐(コン太)の凶行と、フライパンの逆襲

 氷血公爵ヴァルターを「ただの情緒不安定なモラハラ男」として完全に論破し、その精神をへし折った九条湊たち。

 彼らは、保護したエミリア・シフォンヌ男爵令嬢を連れて、ムーンキャピタルのメインストリートにあるお洒落なオープンカフェへと移動していた。

「……ふぅ。とりあえず、温かい紅茶でも飲んで落ち着け」

 湊が、メニューも見ずに注文した『特製ハーブティー』をエミリアの前にコトリと置いた。

「あ、ありがとうございます……っ。その、先ほどは本当に助かりました」

 エミリアは、両手でティーカップを包み込み、深く頭を下げた。

 彼女の目には、未だに湊に対する『理想の上司(あるいは監査部のエース)』を見るような、キラキラとした尊敬の光が宿っている。

「気にするな。俺はただ、公共の場での迷惑行為(公然わいせつ)と、コンプライアンス違反を見過ごせなかっただけだ」

 湊は、腕を組みながらテラス席の床を睨んだ。

「それにしても、このカフェも床が大理石かよ。雨の日にウェイターが転んで熱湯を客にぶちまけるリスクを考えてねェのか? 労災保険の掛け金が高くつくぞ」

「あはは……湊さん、まだインフラへのダメ出しが止まりませんね」

 キャルルが苦笑しながら、お手製の人参クッキーをかじる。

「でもエミリアさん、あんな危ない公爵様に付きまとわれて、今まで大変だったんじゃないですか?」

 キャルルの優しい問いかけに、エミリアはふっと寂しそうな顔をした。

「はい……。私、前世は日本のブラック企業で働く社畜OLだったんですけど、転生してからも、周りは見栄と陰謀ばかりの貴族社会で……。公爵様も、私の意見なんて一切聞いてくれなくて、ただ『俺の側にいろ』って威圧してくるだけで……」

「完全にパワハラ上司ですわね。労働基準監督署に駆け込むべきですわ!」

 リーザが純金バケツを叩いて憤慨する。

「でも、私にはこの子がいるから、なんとか頑張ってこられたんです」

 エミリアは、ふわりと柔らかい笑みを浮かべ、自分の胸元をポンポンと叩いた。

「出ておいで、コン太ちゃん」

 ぽふっ。

 エミリアの豊満な胸の谷間から、白銀の美しい毛並みを持った、子犬ほどの大きさの『多尾の妖狐』が顔を出した。

 クリクリとした愛らしい瞳。ふわふわの尻尾。乙女ゲーにおけるヒロインの絶対的特権――『モフモフの聖獣』である。

「きゅんっ、きゅ〜〜んっ♡」

 コン太と呼ばれた妖狐は、エミリアの胸元に顔をぐりぐりと押し付け、甘えるような愛らしい鳴き声を上げた。

「まぁ! とっても可愛いキツネさんですわ〜♡」

 天然エルフのルナが目を輝かせる。

「わぁっ、リスナーのみんな! エミリアちゃんのペットのモフモフだよーっ☆ 映えるねぇ!」

 キュララが魔導カメラのレンズを向ける。

「ふふっ。コン太ちゃんは、私にだけ特別に懐いてくれる聖獣なんです。私が落ち込んでいると、こうやって一生懸命慰めてくれて……」

 エミリアが微笑ましくコン太の頭を撫でる。

 ――しかし。

 九条湊の眼光は、またしても極低温の『現実主義オカン・モード』へと切り替わっていた。

「……おい、エミリア」

「はい?」

「そのキツネ……さっきから、お前の胸の谷間で『スーハースーハー』と異常に荒い呼吸をしてないか?」

「えっ?」

 湊の指摘に、全員の視線がコン太に集中する。

 確かに、コン太はエミリアの胸に顔を深く埋め、まるで限界まで酸素を取り込もうとするかのように、鼻の穴をヒクヒクと広げて「スゥーッ、ハァーッ」と深呼吸を繰り返していた。

「それに……」

 湊は、URデッキブラシの柄でコン太の下半身を指差した。

「なんか、後ろ足で立って、お前の胸に押し付けながら『腰をカクカク』と小刻みに振ってねェか?」

「「「「…………あっ」」」」

 その場にいた女性陣全員が、同時に察した。

 エミリアの胸に顔を埋めて匂いを嗅ぎまくり、腰をカクカクと振る白銀の妖狐。

 それは、どう見ても『甘えん坊のペット』の動きではない。

「……嘘を見抜く私の耳が、ハッキリと言ってます」

 キャルルが、ウサギ耳をピーンと立てて、冷や汗を流しながら呟いた。

「このキツネ……今、心の中で『たまらん、若い姉ちゃんの匂い最高ォ! もっと寄せて!』って言ってます……」

「「「「キモッ!!?」」」」

 ヒロインたちの顔が一斉に引きつった。

「そ、そんな!? コン太ちゃんがそんな変態なおじさんみたいだなんて……!」

 エミリアが信じられないという顔でコン太を見つめる。

「エミリア、目を覚ませ。そいつはどう見ても、中身が『エロい中年親父』だぞ。お前のスキルのせいで懐いてるんじゃなくて、ただお前のボディ目当てでセクハラしてるだけだ!」

 湊の、あまりにも身も蓋もないド正論。

 乙女ゲーにおける「私にだけ懐いてくれる可愛いモフモフ」というファンタジーの根幹が、ただの『セクハラ親父の受肉』という最悪の現実へと変換された瞬間である。

「チッ……!!」

 図星を突かれたコン太は、エミリアの胸元から顔を上げると、先ほどの愛らしい表情から一転。

 ヤクザのように眉間にシワを寄せ、湊に向かって「グルァァァァッ!!」と野太いオッサンの声で威嚇の咆哮を上げた。

「わっ! ほ、本当にオッサンの声が出ましたわ!」

 リーザが純金バケツを構えて身構える。

「あらあら〜。発情期のオスギツネさんですのね。去勢手術をして差し上げましょうか?♡」

 ルナが、ふんわりとした笑顔で世界樹の杖(※先端が鋭利)を構える。

「邪魔すんじゃねェェェッ!! せっかくの役得タイム(お触り)をォォォッ!!」

 完全にブチギレたコン太は、口を大きく開け、湊に向けて数千度に達する『神聖火炎』のブレスを吐き出した。

 乙女ゲーのテンプレ通り、「ヒロイン以外の男には容赦なく火炎を吐いて威嚇する聖獣」の姿である。

「きゃぁぁぁっ! 湊さん!!」

 エミリアが悲鳴を上げる。

 だが、オカン清掃員を前にして、火遊びなど通用するはずがない。

「……人の顔に向けて、火ィ吹いてんじゃねェ!!」

 湊は、アイテムボックス(魔法袋)からタローマン特売の『URフライパン(焦げ付き防止テフロン加工)』を瞬時に取り出すと、テニスプレイヤーのような見事なフォームでフライパンを振り抜いた。

 カィィィィィィンッ!!!!

 まるでホームランを打ったかのような甲高い金属音が、ムーンキャピタルの空に響き渡った。

 コン太の放った神聖火炎は、URフライパンの圧倒的な耐久力と【解体】スキルによって完璧に弾き返され、明後日の方向(無人の大理石の噴水)へと飛んでいき、シュゥゥッと音を立てて鎮火した。

「な、なんだとォォォッ!?」

 コン太が、驚愕に狐の目をひん剥く。

「ほら見ろ! 図星を突かれて逆上したぞ! 間違いなく中身はオッサンだ!」

 湊はフライパンを肩に担ぎ、エミリアに向かって厳しいオカンの説教を開始した。

「いいかエミリア! 人間(客)に向かって平気で火を吹くようなペットなんて、狂犬病疑いで即『保健所行き(殺処分)』だぞ! 万が一他人にケガでもさせたら、飼い主であるお前の管理責任コンプライアンスが問われて、莫大な損害賠償を請求されるんだぞ! 自覚を持て!」

「ほ、保健所……損害賠償……っ!」

 その言葉を聞いた瞬間。

 エミリアの脳裏に、前世(社畜時代)のトラウマがフラッシュバックした。

 満員電車での痴漢被害。上司からのセクハラ発言。そして、トラブルを起こした際の恐ろしい始末書と減給の恐怖。

「……私、また……セクハラ親父の餌食に……っ」

 エミリアの瞳から、乙女ゲーのヒロインとしての「お花畑のフィルター」が完全に消え去り、現代社会で揉まれてきた『現実を生きる大人の女』の冷ややかな怒りが宿った。

「え、エミリアちゃん……? どうしたんだい? そんな怖い顔して……」

 コン太が、慌てて「きゅ〜んっ♡」と可愛い声を出して誤魔化そうとする。

「……触るな、セクハラ親父!!」

「きゅぶぁっ!?」

 エミリアは、胸元にいたコン太の首根っこをガシッと掴むと、一本背負いの要領で、カフェの大理石の壁に向かって全力で投げ飛ばした。

 元社畜OLの、長年の怒りとストレスが込められたフルスイング・スローである。

 ベチャァァァァァァッ!!

「きゅうううぅぅぅぅぅぅぅっ……!!」

 コン太は、大理石の壁に見事なカエル潰れの形で激突し、白目を剥いてズルズルと床に崩れ落ちた。

「わーおっ! エミリアちゃんの豪快な投げ技が決まりましたーっ!」

 キュララが、壁でピクピクしているコン太を魔導カメラでズームアップしながら実況する。

「リスナーのみんなー! 可愛いモフモフ聖獣の正体は、ただのエロ親父でしたーっ! 乙女の夢、完全崩壊でーす☆」

 キュララの容赦ない生配信により、またしてもホログラムのコメント欄が滝のように流れていく。

『うわぁ……モフモフの中身おっさんはキツい』

『エミリアちゃんの投げ技ワロタww』

『フライパンで神聖火炎弾き返すオカン何者だよww』

『狂犬病・保健所のマジレスで草』

『飼い主の責任コンプライアンス

『乙女ゲーの世界観、湊さんにボコボコにされてて最高ww』

「ハァ、ハァ……っ。や、やってやりましたわ! 私、もう男に依存したり、セクハラを我慢したりしません!」

 エミリアは、肩で息をしながら、晴れやかな顔でガッツポーズを取った。

「よくやった、エミリア。お前はもう立派な自立した女だ」

 湊は、満足げに頷き、URフライパンをアイテムボックスへしまった。

「ペットは正しくしつけろ。そして、人間関係は対等に築け。……それが、社会で生きていくための基本だ」

 氷血公爵のモラハラを論破し、モフモフ聖獣のセクハラを物理的に粉砕した九条湊。

 ムーンキャピタルを覆っていた『甘く歪んだ乙女ゲーのテンプレ』は、オカン清掃員の圧倒的な現実主義によって、次々と消毒(お掃除)されていくのであった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。