EP 9
誇り高き豚丼! トンデモナイトとご飯の別れ
タロキン90分一本勝負。
無慈悲なる焼き奉行・龍魔呂の完璧な火入れと、強欲アイドル・リーザをはじめとするブラックホール胃袋の前に、食材王国軍は壊滅的な打撃を受けていた。
肉部隊は全滅。サイドメニューの飲茶や餃子も散り、最終防衛ラインであったデザート部隊すらも『別腹』という異次元空間へと消え去った。
厨房の壁に掛けられたデジタル時計が、無情にも赤い文字でカウントダウンを刻んでいる。
『残り時間:5分00秒』
「……よし。腹も八分目ってところだな」
VIP席。九条湊が、陽薬茶で口の中の脂をさっぱりと洗い流し、最後の仕上げとばかりに腕をまくり上げた。
彼の冷徹な狩人の眼差しが、配膳トレイの上に残された『最後の極上肉』へと向けられる。
「大将。最後に、あの霜降りの『ハラミ』を食って締めにしようぜ。……九十分、きっちり食い尽くしてやる」
「……フン。承知した。最高の状態で仕上げてやるよ」
龍魔呂が、極低温の殺気と共に黄金のトングをシャキィィン!と鳴らした。
死神のトングが、ゆっくりとハラミ姫へと伸びていく。
「ひぃっ……! い、いやぁぁっ……!」
ハラミ姫が、純白のサシ(霜降り)を震わせて後ずさる。
(……ついに、この時が来たか)
豚バラ肉の騎士・トンデモナイトは、静かに目を閉じた。
もう、後はない。誰も、ハラミ姫を守る盾は残されていない。
ならば――自らのこの分厚い脂身を、最後の業火に投げ打つのみ。
「やらせはせん……。やらせはせんぞぉぉぉっ!!」
トンデモナイトは、ハラミ姫を突き飛ばすようにして後ろへ庇い、自ら黄金のトングの軌道上へと飛び出した。
「おっと。……豚バラか」
龍魔呂のトングが、トンデモナイトの分厚い肉体をガッチリとホールドした。
「ハラミの前に、豚の脂で網に油を引くのも悪くねェな。……こんがりと焼いてやるよ」
ジュワァァァァァァァッ!!
真っ赤に熱された鉄網の上に、トンデモナイトが叩きつけられた。
瞬間、彼の肉体から溢れ出した極上の豚の脂が、ロースターの炎に引火し、ボォォォォッ!!と巨大な火柱を上げた。
『ぐおぉぉぉぉぉぉっ!!』
トンデモナイトが、灼熱の業火の中で絶叫する。
だが、彼は決して逃げなかった。いや、逃げることなどできない。龍魔呂の『化勁・千刃』を応用したトング捌きは、彼を最も美味しく焼き上げるために、一切の逃げ場を封じていたからだ。
「トンデモナイトォォォッ!!」
ハラミ姫が、トレイの上から涙を流して叫ぶ。
『姫よ……泣かないでくだされ……っ。これが、騎士としての……私の誇り!』
トンデモナイトは、全身をカリカリのキツネ色に焼かれながらも、ニッと笑った。
(……だが、このままただ食われるだけでは、奴らの胃袋に致命傷を与えることはできない。……どうすれば、この九十分を終わらせることができる……!?)
業火の中で、トンデモナイトの視界に、ある一つの『白い輝き』が映り込んだ。
「トンデモナイトさん……っ!!」
それは、どんぶりに山盛りに盛られた、ホカホカの銀シャリ。
彼が手塩にかけて育て上げた、ただ一人の弟子――『ご飯(大盛り)』であった。
彼は、自らの純白の粒を震わせながら、師匠の死闘を涙(湯気)を流して見つめていたのだ。
『……ご飯』
トンデモナイトは、悟った。
肉単体では、もはや奴らの底なしの胃袋を重くすることはできない。
だが、炭水化物である『ご飯』と、極限まで旨味を引き出された己の『豚の脂』が融合すれば……。それは、胃袋に絶大な質量と満腹感をもたらす、最強の破壊兵器となる!
『ご飯……! 俺の最後の脂……受け取れェェェッ!!』
トンデモナイトは、龍魔呂のトングが自らを裏返そうとした一瞬の隙を突き、自らの脂を爆発させて鉄網の上から大ジャンプを敢行した。
目指すは、湊の目の前に置かれた、弟子の待つ『どんぶり』の中。
「な、何をする気ですか、トンデモナイトさん! 俺のところに飛び込んできたら、あんたは……あんたは……!」
ご飯が、湯気を激しく噴き出しながら叫ぶ。
『……へへっ。いいんだ、ご飯。お前という極上の銀シャリの上に……俺のタレと脂を、全部染み込ませてやる』
宙を舞いながら、トンデモナイトは優しく微笑んだ。
『……俺みたいに脂っこくて、分厚くて、すぐに胃もたれするような面倒な豚バラ肉に……正面からまともに話しかけてくれたのは、お前だけだったからな……』
「トンデモナイトさん……っ!」
それは、どこかで見たことのある、誇り高き戦士と弟子の別れの光景。
『……お前といた時間……悪くなかったぜ』
「トンデモナイトさああああぁぁぁぁぁぁんッッ!!!!」
――ドサァッ!!
ご飯の悲痛な絶叫(※ただの湯気の音)と共に、完璧なキツネ色に焼き上がり、特製ダレをたっぷりと纏ったトンデモナイトの肉体が、ホカホカのご飯(大盛り)の上へと着地した。
瞬間。
豚バラの熱い脂と、甘辛いタレが、純白のご飯の粒一つ一つに、ジュワァァァッと染み込んでいく。
肉の旨味と、炭水化物の甘み。
二つの食材の絆が、タロキンのテーブルの上で完全なる融合を果たしたのだ。
立ち昇る、暴力的なまでに食欲をそそる芳醇な香り。
――奇跡の『極上豚丼』の完成である。
「「「「おおおおぉぉぉっ……!!」」」」
冷蔵ショーケースから、そして配膳トレイの上から、食材たちがその気高く美しい姿に涙した。
師匠の命(旨味)を受け継ぎ、最強の重戦車へと進化したご飯。これならば、いかに悪魔の胃袋であろうとも、必ずや引導を渡すことができるはずだ!
「……ん?」
だが。
その奇跡のドラマを、極めて淡々と、そして純粋な『食欲』だけで見つめている男がいた。
「おっ。なんか網から飛んでいったと思ったら、白飯の上に乗っかって……美味そうな『豚丼』が完成してんじゃねェか」
九条湊は、感動の涙を流すどころか、悪魔のように目を輝かせてURトング(即席の箸)を構えた。
「俺は野菜の後に米を食う主義なんだが、肉を乗せたらもっと最高だ。……しかも、大将が完璧な火入れをした豚バラと、タレの染みた熱々のご飯。……たまんねェな」
湊は、どんぶりを片手に持ち、大きく口を開けた。
「トンデモナイトさん! 俺ごと……俺ごと奴の胃袋を破壊してやりまさァァッ!」
ご飯が、最後の闘志を燃やして叫ぶ。
「いただきます」
――ガツッ! バクバクバクバクッ!!
「むぐっ……うおぉぉっ! 豚の脂の甘みとタレのしょっぱさ、そして米の弾力が完璧に絡み合って……これ、タロキン最強の裏メニューだろ!!」
湊は、感動のドラマなど一ミリも気にすることなく、ただ純粋に「美味い!」と目を輝かせながら、凄まじい勢いで極上豚丼をかき込み始めた。
『あ、あああ……っ! 俺の質量が……俺とトンデモナイトさんの絆が……ただの「最高の〆(シメ)」として、一瞬で消化されていくぅぅぅっ!!』
ご飯(大盛り)の絶望の叫びも虚しく。
ほんの数十秒後。
湊は「ぷはぁっ!」と満足げなため息を吐き、空っぽになったどんぶりをテーブルの上にコトリと置いた。
「……ごちそうさん。いやー、美味かった。大将、マジでナイス焼き加減だったぜ」
「……フン。米と肉の融合。暗殺剣にも通じる、完璧なシナジーだったな」
そこに、豚の騎士と弟子の絆の痕跡は一切残されていなかった。
彼らの尊い命(質量)は、九条湊の「あー美味かった」という満腹感と笑顔という、極めて平和的なエネルギーへと完全に昇華されてしまったのである。
「ト、トンデモナイト……。ご飯……」
配膳トレイの上で、ハラミ姫は静かに涙をこぼした。
もはや、奇跡は起きなかった。
どれほど熱いドラマがあろうとも、どれほどの自己犠牲を払おうとも。
バイキングに来た人間(お腹を空かせたオカンたち)の食欲の前には、食材の抵抗など、すべて『美味しいスパイス』に変換されてしまう運命なのだ。
『残り時間:2分00秒』
時計の赤い文字が、終わりの時を告げようとしている。
「さて……」
湊が、陽薬茶で口の周りを拭き、再びURトングを手に取った。
「飯も食って腹も膨れたが……肉の『別腹』はまだ残ってるぜ。最後に、あの霜降りハラミで優雅にフィニッシュと行くか」
悪魔のトングが、ついに丸裸となったハラミ姫へと向けられる。
すべての盾を失った王女の前に、タロキン90分の残酷にして美しき終焉が、静かに訪れようとしていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第9話、トンデモナイトとご飯の別れ……!!(号泣)
某宇宙の戦士たちの名シーンを、焼肉の鉄網とどんぶりの上で再現してみました。「きさまといた数ヶ月、わるくなかったぜ……」ならぬ「お前といた時間、悪くなかったぜ」。
食材たちにとっては熱すぎる自己犠牲のフュージョンでしたが、湊から見れば「なんか勝手に美味そうな豚丼できた!ラッキー!」で秒殺という、この圧倒的温度差(笑)。これがポポロ村クオリティです。
トンデモナイトとご飯の尊い犠牲は、湊の「ごちそうさん」という最高の笑顔に昇華されました。
さあ、残り時間はあとわずか2分!
全滅した食材軍。最後に残されたハラミ姫の運命は!?
【読者の皆様へ、最後のお願いです!】
「ピッコロさん……じゃなくてトンさん!!」「パロディの完成度高くて腹痛いww」「豚丼普通に美味そう」と少しでも笑い、そして涙していただけましたら……
ぜひ、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、トンデモナイトとご飯への最高の供養をお願いいたします!
皆様の「評価ポイント」と「ブックマーク」が、この作品を書き続けるための何よりの『極上肉』です!
次回、いよいよこのタロキン編も感動の最終回(第10話)!
『90分の終焉と、愛しき日常の宴』。どうぞ最後までお見逃しなく!




