EP 8
別腹の蹂躙! デザート部隊の壊滅
タロキン90分一本勝負。
餃子の尊い自己犠牲(ただの網の焦げ付き)によって稼ぎ出された網交換のインターバルが終了し、ピカピカの新しい鉄網がロースターにセットされた。
残り時間は、ついに『二十分』を切ろうとしている。
「……ハラミ姫。いよいよ、我々が網の上に立つ時が来たようです」
タロキン厨房の冷蔵ショーケース内。
豚バラ肉の騎士・トンデモナイトは、自らの分厚い脂身を震わせ、静かに爪楊枝の剣を抜いた。
タンシオ、カルビ、ホルモン、そして飲茶や餃子。共に戦った戦友たちは、すでに無慈悲なる焼き奉行・龍魔呂の黄金トングによって完璧な火入れを施され、リーザたちのブラックホール胃袋へと消え去ってしまった。
「トンデモナイト……っ! 嫌です、貴方を失いたくありません!」
ハラミ姫が、純白の霜降りを涙のように光らせて彼にすがりつく。
「姫よ……。私とて、貴女をあの灼熱のギロチン(鉄網)へ送るなど、身を切り裂かれる思いです。……ですが、まだ我々には『最後の希望』が残されているのです」
トンデモナイトは、ショーケースのさらに奥、別枠の冷蔵庫(スイーツ専用ショーケース)へと視線を向けた。
「……出番だ。我らが食材王国が誇る、最終防衛ラインの乙女たちよ!」
トンデモナイトの声に呼応するように、冷気の中から甘く、そして華やかなオーラを纏った部隊が進み出てきた。
真っ赤な苺を冠した『ショートケーキちゃん』。
絶対零度の冷気を放つ『バニラアイス君』。
そして、滑らかな白肌を持つ『杏仁豆腐先輩』である。
彼らこそ、タロキンの終盤戦において、客の胃袋にトドメを刺す最強の刺客――『デザート部隊』であった。
『……任せてください、トンデモナイト様』
ショートケーキちゃんが、生クリームのドレスを揺らしながら優雅に一礼する。
『私たちが、あの悪魔たちの胃袋を大量の糖分と乳脂肪分で埋め尽くしてご覧に入れますわ』
『オイラの絶対零度で、奴らの胃腸の働きを完全にフリーズさせてやるぜ!』
バニラアイス君が、冷気を吹き出しながら闘志を燃やす。
「頼む、デザート部隊! 焼肉の中盤において、急激な糖分と冷気の摂取は、胃袋のキャパシティを破壊する最大のトラップ! 奴らを『甘いものの暴力』でねじ伏せ、この九十分を終わらせてくれ!」
トンデモナイトの悲壮な決意を背に受け、デザート部隊が配膳ロボットへと乗り込んでいった。
◇ ◇ ◇
「……ん? おい、誰だ。まだ肉を食ってる最中だってのに、デザートのボタンを押した奴は」
VIP席のテーブル。
配膳ロボットが運んできた色とりどりのスイーツの皿を見て、九条湊が怪訝そうな顔で眉をひそめた。
「はーいっ! 私が頼みましたーっ☆」
ゴッドチューバーのキュララが、魔導カメラを片手に元気よく挙手した。
「ずっとお肉ばっかり焼いてたら、配信の画面が茶色くなっちゃって『映え(バエ)』ないじゃないですか! ここらで可愛いスイーツを投入して、リスナーさんのPVを稼ぐ作戦です!」
「まぁ! なんて可愛らしいケーキとアイスでしょう! 私もお肉の脂で少し口の中が重たくなってきたところでしたの。いただきますわ〜♡」
天然エルフのルナも、嬉しそうにフォークを手に取った。
その光景を、配膳トレイの上で見守っていたトンデモナイトは、心の中でガッツポーズを取った。
(よし……! 奴らは完全に罠にハマった! 焼肉のインターバルに生クリームとアイスを大量摂取すれば、もはや肉を受け付ける胃袋のスペースなど残るはずがない!)
『いきますわよ、悪魔ども! 私の濃厚な生クリームとスポンジで、貴女たちの満腹中枢を完全に破壊してあげますわ!』
ショートケーキちゃんが、キュララの口の中へと決死のダイブを敢行する。
バニラアイス君と杏仁豆腐先輩も、ルナのスプーンに乗せられ、胃袋へと突撃していった。
「あーんっ♡ ……んん〜っ! 甘くて冷たくて、最高に美味しいですぅぅっ!!」
キュララが、天使の笑顔で頬に手を当てる。
配信のコメント欄は『キュララたんのスイーツもぐもぐタイム尊い!』『スパチャ3万円!』と大盛り上がりである。
『ふふふ……! どうだ、私の濃厚なクリームの重みは! これで貴女の胃袋は完全に制圧――』
ショートケーキちゃんが、キュララの胃袋の中で勝利を確信した、まさにその瞬間だった。
『……え?』
ショートケーキちゃんは、自らの目を疑った。
キュララの胃袋の底に到達したはずの自分の身体が……まるで『ブラックホール』に吸い込まれるように、別の次元へとスゥッと転送されていくのを感じたのだ。
『な、なななな、何ですのこれぇぇぇっ!? 私の生クリームが、胃袋とは全く別の……謎の空間(異次元)に吸い込まれていきますわぁぁっ!!』
『オ、オイラもだ! 冷気で胃を凍らせるはずが、別の胃袋にドンドン落とされていくぅぅっ!』
そう。
食材王国が誇る最終兵器、デザート部隊。
彼らは、このアナステシア世界、いや、全宇宙の女性という生き物が持つ、最も恐るべき『人体構造のバグ』の存在を完全に甘く見ていたのである。
「スイーツは『別腹』ですからね〜♡」
ルナが、ふんわりとした笑顔で杏仁豆腐を飲み込みながら、恐ろしい真理を口にした。
「……べ、別腹、だと……!?」
冷蔵ショーケースの中で、トンデモナイトが驚愕に目を見開いた。
「女の子の胃袋にはね、お肉やご飯を入れるメインの胃袋とは別に、甘いものだけを収納するための『四次元ポケット(別腹)』が存在するんですのよ♡ だから、いくら食べてもノーカウントなんですわ!」
リーザも、ちゃっかりバニラアイスを口に放り込みながら、ドヤ顔で言い放った。
『バカな……! 物理法則を無視した空間拡張魔法が、奴らの腹の中に常時展開されているというのか……!?』
トンデモナイトの絶望をよそに、デザート部隊の決死の特攻(糖分攻撃)は、キュララとルナの『別腹』という名の異次元空間へと次々と吸い込まれ、一瞬にして完全に消滅(完食)してしまった。
「あー、甘いもの食べたら、なんだか口の中がスッキリしましたわ!」
ルナが、お茶を飲みながらニッコリと微笑む。
「ねーっ! 甘いもの食べたら、今度はまたしょっぱいものが食べたくなってきちゃいました! 湊さーん、ハラミのお肉、もう焼けましたか?」
キュララが、魔導カメラを片手に鉄網の方へと身を乗り出す。
「……」
トンデモナイトは、自分の耳を疑った。
デザート部隊の特攻は、奴らの胃袋にトドメを刺すどころか……。
「……フン。甘ェもんで舌がリセットされちまったようだな。ちょうどいい、ここからが後半戦だ」
龍魔呂が、極低温の殺気と共に、再び黄金のトングをシャキィィン!と鳴らした。
「よし、網の温度も最高だ。一気に焼き上げるぞ」
湊が、腕をまくり上げ、ギラギラとした狩人の目で配膳トレイの上を睨みつけた。
『あ、あ、ああああぁぁぁぁっ……!!』
トンデモナイトは、絶望のあまりその場に崩れ落ちた。
最終防衛ラインであったデザート部隊の犠牲は、奴らにとって単なる『お口直し(パレット・クレンザー)』でしかなかったのだ。
逆に食欲を復活させてしまった悪魔たちは、いよいよメインディッシュであるハラミ姫へと、その無慈悲な牙を剥こうとしていた。
「……トンデモナイト様」
ハラミ姫が、震える声で彼を呼ぶ。
「……姫よ。もはや、我々を守る盾は一枚も残っていません」
トンデモナイトは、ゆっくりと立ち上がった。
彼の周囲には、もはや誰もいない。
タンシオも、カルビも、ホルモンも、飲茶も、餃子も、そしてデザート部隊も、すべてが食い尽くされた。
残されたのは、ハラミ姫と、豚バラの騎士である自分自身。
――いや。
彼らの傍らに、ただ一人。
純白の湯気を立ち昇らせながら、静かに、そして力強く立ち続ける『一人の弟子』の姿があった。
「……トンデモナイトさん。俺の出番ですね」
それは、どんぶりに山盛りに盛られた、炭水化物の最終兵器。
白く輝く、銀シャリ――『ご飯(大盛り)』であった。
「……ご飯。お前、まだ残っていたのか」
「へへっ。カレー部隊の先輩たちは先にイカれちまいましたが……俺は、トンデモナイトさんの『最高の相棒』として、最後まで戦うって決めてるんでさァ」
ご飯(大盛り)が、ホカホカと湯気を立てながら、ニッと笑った。
タロキン90分一本勝負。
残り時間、あと十五分。
すべての防衛ラインを突破された食材王国。だが、豚バラの騎士と白米の弟子による、奇跡の『究極コンボ(豚丼)』が、無慈悲なる悪魔たちに最後の意地を見せようとしていた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
第8話、「別腹の蹂躙」エピソードでした!(笑)
トンデモナイト渾身の作戦「デザートで胃袋をフリーズさせる罠」は、女子たちの恐るべき人体構造『別腹(異次元空間)』の前にあえなく粉砕されてしまいました。
むしろ、甘いものを食べたことで「お口直し」になり、しょっぱいお肉への食欲がリセットされてしまうという、バイキングにおける最悪の逆効果です。
デザート部隊も全滅し、もはや残されたのはトンデモナイト、ハラミ姫、そして弟子の「ご飯(大盛り)」のみ!
次回、ついにトンデモナイト自らが灼熱の鉄網へと飛び込みます!
【読者の皆様へ、熱い応援のお願い!】
「別腹は四次元ポケットww」「お口直しで食欲復活は草」「デザート部隊の哀愁がヤバい」と少しでも楽しんでいただけましたら……
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次回、第9話『誇り高き豚丼! トンデモナイトとご飯の別れ』。ついにクライマックスです! お楽しみに!




