EP 7
神の不正介入(バグ装甲)。絶望の処刑人と、ブチギレる雷帝神
――ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!
龍魔呂の放った必殺の右ストレート『絶花』が、偽勇者ゲイルの顔面に直撃した。
空間を食い破るほどの赤黒い闘気の嵐が吹き荒れ、ゲイルの体は魂ごと塵となって消滅する……はずだった。
『ピピピッ……ガガガガガッ!』
「……チッ」
龍魔呂が舌打ちをした。
彼の拳とゲイルの顔面の間に、突如として『半透明のノイズ(モザイク状の防壁)』が展開されていたのだ。
凄まじい威力の『絶花』は、まるで透明なゼリーに包まれたかのように、一切の衝撃を吸い取られ、無効化されてしまった。
「ひぃっ!? え……? お、俺、生きてる?」
へたり込んでいたゲイルが、自分の体をペタペタと触り、不思議そうに瞬きをした。
彼の全身は、不自然にカクカクと点滅する『ポリゴン(デジタルノイズ)』のような光の膜で覆われていた。
「ハ、ハハハッ! 俺は無敵だ! やっぱり神様は俺を選んでくれたんだ!」
自分が無敵になったと悟ったゲイルは、下劣な笑い声を上げながら立ち上がり、剣を構え直した。
◇ ◇ ◇
「ふぅぅ……。危ねぇ危ねぇ。俺の貴重な収益源が消し飛ぶところだった」
神界セレスティアのオフィスで、ワイズは額の冷汗を拭い、カプチーノをあおった。
「無限予算を使って、システム根幹のアルゴリズムを強制的に書き換えた。名付けて『絶対防御のチートバリア(バグ装甲)』。物理攻撃、魔法、闘気……すべてのアナステシア世界の法則を『エラー(無効)』として処理する最強のグリッチだよ」
ワイズはPCのキーボードを軽快に叩きながら、ニヤリと笑う。
「さぁて、これでお遊びは終わりだ。ダークヒーロー気取りの処刑人さん、君は良いコンテンツだったけど、所詮はただの人間だ。最強のバグ装甲に嬲り殺される、無様な姿を配信してくれよ」
◇ ◇ ◇
『ガガッ! ピーッ!』
裏路地に、不気味な電子音が鳴り響く。
龍魔呂は眉一つ動かさず、至近距離からガトリング砲を掃射し、さらに『絶花・零』による内部破壊を試みた。
だが、すべて無駄だった。
弾丸はポリゴン装甲に触れた瞬間に「存在しなかったこと」にされ、化勁による闘気の流し込みも、システム上のエラーとして弾き返される。
「ハハハハッ! 効かねぇよ! お前の攻撃なんか、風が吹いたほどにも感じねぇ!」
ゲイルの剣が、龍魔呂の脇腹を浅く切り裂いた。
鮮血が舞う。龍魔呂の顔が苦痛に歪んだ。
「たつまろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
その光景を、天界の別の場所から見ていた者がいた。
雷帝神ユイだ。
彼女は、愛する男が傷つけられる姿を見て、完全に理性を失っていた。彼女の全身から、天界すら揺るがす凄まじい雷霆の神気が噴き出している。
「よくも……よくも僕のたつまろを! あのクズ神、絶対に許さない! 今すぐ僕が降りて、あのバリアごと全部消し炭にしてやる!」
ユイが次元の扉をこじ開けようと、神界のゲートへ突進する。
だが、ゲートには分厚い『デジタルロック(ファイアウォール)』が幾重にも掛けられていた。
『アクセス拒否。このエリアは第2種プロデューサー・ワイズの特別権限により封鎖されています』
「開けろォォォッ!!」
ドゴォォォォンッ!
ユイが涙を流しながら雷の拳を叩きつけるが、無限の予算で構築されたワイズのファイアウォールは、見習い上がりのユイの力では破れない。
「たつまろ……ッ! お願い、誰か! 誰かたつまろを助けて……!」
ユイは泣き崩れ、その場に膝をついた。
◇ ◇ ◇
ポポロ村の裏路地。
ワイズの強引なシステム改ざん(チートバリアの付与)は、アナステシア世界の空間そのものに深刻な負荷をかけていた。
バチッ、バチバチッ!
ゲイルの周囲の空間に、赤黒いエラーメッセージの文字が浮かび上がり、凄まじい静電気が弾け飛ぶ。石畳はグリッチノイズで歪み、空気は熱暴走を起こしたサーバー室のように熱く、息苦しくなっていた。
「ゼェ……ゼェ……」
全身傷だらけになった龍魔呂が、それでも子供たちを背にかばい、両腕をだらりと下げたまま立ち塞がっていた。
「もう終わりかぁ? じゃあ、まずはその後ろのガキどもから串刺しにしてやるよ!」
「……させ、ねぇ」
ゲイルが下劣な笑みを浮かべ、剣を振り上げた、その瞬間だった。
「――おい。村のど真ん中で、こんなに大量の『ホコリと静電気』を散らかしてるのはどこのバカだ?」
あまりにも日常的で、緊張感の欠片もない声が、裏路地に響き渡った。
「あ?」
ゲイルが振り返る。
そこには、腰にゴムエプロンを巻き、黄色いゴム手袋をはめた男――九条湊が立っていた。
彼は片手に『バケツ』、もう片方に『100均の静電気防止スプレー』を握りしめ、チカチカと点滅するゲイルのバグ装甲を、底知れぬほど不機嫌な目で睨みつけていた。
「PCの裏側みたいに、ひどいホコリと熱(サーバー熱暴走)が溜まってるじゃないか。……これだから、素人の配線は危なくて見てられないんだよ」
神の権能たる『絶対防御のチートバリア』。
それを、最強のオカン清掃員は「ただの静電気を帯びたホコリの塊」と断定し、ゆっくりとスプレーのノズルを向けたのだった。
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