EP 6
炎上神のヤラセ配信 vs 株式会社・九条清掃のコンプライアンス
第6話:死を呼ぶ四番(DEATH4)。赤黒き暴風と、狂喜の炎上神
「ほらほら! もっと大声で泣き叫べよガキども! じゃないと、この剣が顔に当たるかもしれねぇぞ!」
ポポロ村の端、地下シェルターの入り口付近。
『銀翼の剣』のリーダー・ゲイルは、下劣な笑い声を上げながら、避難しようとしていた数人の子供たちを剣の腹で小突いていた。
「うわぁぁぁん! やめてぇっ!」
「いいぞ! その顔だ! おい、魔導通信石でしっかり録画しとけよ! これが俺たちを伝説の勇者にするための『最高の絵』になるんだからな!」
取り巻きの剣士や魔術師たちも、ゲイルに同調してゲラゲラと下品な笑い声を上げている。
彼らの頭の中には、これから手に入る金貨二十万枚と、世界中から浴びるであろう賞賛の嵐しかなかった。
――カチッ。
その時。
彼らの背後で、真鍮製のオイルライターが鳴る、小さくも重々しい音が響いた。
「ん? 誰だ、こんな時に……」
ゲイルが振り返った瞬間。
彼の視界が、この世のものとは思えない『赤黒い絶望』に染まりきった。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!!
「な、なんだぁっ!?」
突然、周囲の重力が何倍にも跳ね上がったかのような錯覚。
圧倒的な殺気と、吐き気を催すほどの血の匂い。
空間を歪めるほどの赤黒い闘気を纏い、そこに立っていたのは、顔面を死人のように蒼白にさせた一人の大男――龍魔呂だった。
「……あ、ア……?」
ゲイルの歯の根が合わなくなり、ガチガチと音を立てる。
龍魔呂の虚ろな瞳は、ゲイルたちを『人間』として認識していない。ただの『除去すべき汚物』として見下ろしていた。
「おい、テメェ何者だ!? 俺たちは神の啓示を受けた勇者パーティだぞ! 邪魔するなら――」
ゲイルの取り巻きの一人が、剣を抜いて龍魔呂に斬りかかった。
だが、その刃が届くより早く。
龍魔呂の姿が、揺らめくようにフッとブレた。
――琉球古武術・歩法『縮地』。
「え?」
次の瞬間、龍魔呂は既に取り巻きの懐に潜り込んでいた。
一切の予備動作もなく、龍魔呂の右腕が霞む。
バキボキィィッ!!
「ぎゃあああああああっ!?」
古流柔術による、完璧な関節の破壊。
取り巻きの男の右腕が、ありえない方向にへし折られ、白目を剥いて地面に崩れ落ちた。
「ひぃっ!? て、テメェ、何しやがる! 魔法を撃て! こいつを焼き殺せ!!」
ゲイルの怒声に応え、後衛の魔術師たちが一斉に炎や雷の魔法を放つ。
しかし龍魔呂は避けることすらしない。
彼が虚空に手を伸ばすと、次元の壁が割れ、ガジェットから転送された漆黒の『ガトリング砲』がその腕に握られた。
「あ……?」
龍魔呂の赤黒い闘気が、ガトリング砲の銃身に流れ込み、機材そのものを生きた魔獣のように脈動させる。
――ギュルルルルルルル……ドドドドドドドドドッ!!!!!
「アバーーーーーーッ!?」
毎分二千発。
本来なら艦船の装甲すら撃ち抜く127mmクラスの破壊力が、赤黒い闘気によって22mm機関砲の威力へと極限圧縮され、偽勇者たちを飲み込んだ。
彼らの張った魔法障壁など、紙切れよりも脆かった。
防具は弾け飛び、武器は粉砕され、偽勇者たちは手足の感覚すら奪われて、文字通り『血だるま』となって宙を舞う。
「ヒィィィィッ!! ば、化け物ォォッ!!」
ただ一人残されたゲイルは、子供たちを放り出し、無様な姿で地面を這って逃げようとした。
「……泣かせたな」
地を這うような、怨念そのもののような声。
龍魔呂の巨大な影が、ゲイルを完全に覆い尽くした。
その拳に、空間を食い破るほどの赤黒い嵐(絶花)が収束していく。
◇ ◇ ◇
「おおおおおっ!! すげぇ! なんだこいつ!!」
天界のオフィス。
モニターの向こうで繰り広げられる圧倒的な一方的蹂躙劇を見て、炎上神ワイズはカプチーノを吹き出しながら歓喜の声を上げていた。
「最高じゃないか! この赤黒い男の暴力、ヤラセの枠を完全に超えてる! 子供を助けるために悪を惨殺するダークヒーロー! PVが……ゴッドチューブの同接数が天元突破していく!!」
ワイズは画面に表示される急上昇グラフを見て、狂ったように笑った。
彼にとって、雇ったゲイルたちがどうなろうと知ったことではない。むしろ、彼らが無様に殺される瞬間こそが、配信のピーク(最高潮)なのだ。
「いいぞ! もっとやれ! そのチンピラ勇者を、跡形もなく消し飛ばせぇぇっ!!」
だが、ワイズはふと気づいた。
龍魔呂の右腕に集束している、尋常ではないエネルギーの渦に。
「……ん? 待てよ。あの一撃……威力が高すぎないか?」
ワイズのPCが、龍魔呂の『絶花』の破壊力を瞬時に計算し、警告を鳴らした。
『WARNING。対象の攻撃エネルギー、規定値をオーバー。命中した場合、魂ごと消滅する危険性アリ』
「は!? 魂ごと消滅!? バカな、勇者の魂が消滅したら、俺が発注した『配信履歴』まで宇宙から消し飛んで、俺の報酬がゼロになっちまうぞ!!」
焦ったワイズは、慌てて無限予算のコードをPCに打ち込んだ。
「クソッ、ふざけんな! 俺の数字(PV)を物理的に消されてたまるか! 緊急プロテクト発動! 偽勇者に『絶対防御のチートバリア(バグ装甲)』を付与しろォォッ!!」
龍魔呂の拳がゲイルの顔面に叩き込まれる、まさにそのコンマ一秒前。
天界からの不正な介入が、この場に最悪の形で降り注ごうとしていた。
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