EP 5
炎上神のヤラセ配信 vs 株式会社・九条清掃のコンプライアンス
第5話:悪徳神の最終手段。偽勇者の非道と、裏路地の不協和音
神界セレスティア、ワイズ専用オフィス。
モニターの中で、魔獣たちを美味しく捌いてホクホク顔の村人たちを見るワイズの顔から、余裕の笑みが完全に消えていた。
「ありえない……。五百体の強化魔獣が、ただの『おでんの仕込み』になっただと? あんなの、どこの農村だよ! キュルリンとかいうドワーフが地下に配備してた兵器、明らかに帝国の防衛ラインより重武装だろ!!」
ワイズはPCを激しく叩き、サーバーのログを汚い言葉で罵倒した。
これでは「悲劇の村」なんて配信できない。それどころか、視聴者からは「この村、強すぎて草」「ポポロ村の防衛力、帝国より上でワロタ」というポジティブなコメントばかりが流れている。
「クソッ、PVが稼げない……! 神界の株主どもから『今月の収益が低い』と催促の通知が来てるんだよ!」
ワイズの無限予算に、天界の役員会からイエローカードが点滅し始めた。このままでは、彼は第2種惑星創造神としての地位を剥奪され、マグローザ漁船にドナドナされる羽目になる。
「……こうなったら、最終手段だ。ヤラセのレベルを一段引き上げる」
ワイズの瞳が、爬虫類のように冷たく光る。
彼はハッキングツールを操作し、ゲイルたち『銀翼の剣』に、禁断のオーダーを叩き込んだ。
『報酬は金貨二十万枚(20億円)。……ポポロ村の村人たちを殺す必要はない。代わりに、村の地下シェルターへ避難した子供たちを、まとめて人質に取れ。そして、わざと泣き叫ばせて配信するんだ』
ゲイルたちが、酒場ですぐさま返信を返してくる。
『金貨二十万!? ひゃっほう! 子供の人質なら朝飯前だ! あんな強い村人たちと戦うより、よっぽど楽だな!』
「ハハハッ! そうだ! 子供の泣き声は、いつだって最高のスパイスだ! PV、爆上がり間違いなしだね!」
ワイズはご機嫌でカプチーノを啜った。彼には、ポポロ村に誰が住んでいるか、などといった些細なデータは視界に入っていない。ただ、「子供の悲鳴」がどれだけバズるか、その一点にしか興味がないのだ。
◇ ◇ ◇
その頃、ポポロ村からほど近い王都の裏路地。
小料理屋『鬼龍』の店主・龍魔呂は、その夜も店先でタバコを吹かしていた。
夜風に乗り、遠くから微かな音が届く。
それは、地獄の鐘の音のように響く、幼い子供の泣き声だった。
ポポロ村の方向から聞こえる……。
「……っ」
龍魔呂の指から、真鍮製のオイルライターがカチリと音を立てて滑り落ちた。
その音が聞こえた瞬間、世界が、そして龍魔呂の心臓が、強制的にフリーズした。
『うわぁぁぁぁん!! 怖いよぉ、離してぇぇっ!!』
路地裏に響く、子供の切羽詰まった泣き声。
その音は、龍魔呂の脳内で、五年前のあの日……弟のユウが殺された時の絶望と直結していた。
「……ぁ」
龍魔呂の視界から、色が消えた。
先ほどまで吹いていた穏やかな夜風が、血の匂いを孕んだ暴風へと変貌する。
彼の瞳が、深淵のような赤黒い光を放ち始めた。
『あぁ、痛いよぉっ!』
また、泣き声。
龍魔呂の顔面が、死人のように青白く変色していく。
その姿は、かつて闇社会を震撼させた『死を呼ぶ四番(DEATH4)』そのものだった。
「…………ガジェット」
彼がボソリと呟くと、虚空が歪み、次元の壁を突き破って漆黒のコンテナが路地に転がり込んできた。
ガジェットからの、最高速のサポートアイテムだ。
「……今日は、店じまいだ」
龍魔呂はジャケットを脱ぎ捨て、袖から溢れ出る赤黒い闘気と共に、コンテナを開けた。
中から現れたのは、強化アーマーと、22mm級の威力を誇るサブマシンガン。
彼にとって、子供の泣き声は「引き金」ではない。
それは、世界そのものを敵に回してでも、すべてを葬り去るための「究極の死刑宣告」なのだ。
「誰であろうと……子供を泣かせる奴は、絶対に許さねぇ」
龍魔呂はコンテナのレバーを引いた。
夜の王都を、モーツァルトの『レクイエム』が不協和音を立てて鳴り響く。
炎上神ワイズが仕組んだ「ヤラセの悲劇」が、神の想定を遥かに超えた「真の虐殺劇」へと書き換えられようとしていた。




