EP 3
炎上神のヤラセ配信 vs 株式会社・九条清掃のコンプライアンス
第3話:無限予算の暴力。ヤラセ勇者と悲劇のキャスティング
神界セレスティア、ワイズ専用プライベートオフィス。
魔王軍のあまりの平和ボケ(スローライフ)に絶望したワイズだったが、彼にはそれを補って余りある武器があった。
「フッ……既存のリソースがダメなら、外部委託すればいいだけの話。俺のエンジェルすまーとふぉん・プロ(専用PC)に設定された予算枠は『無限』なんだからね」
ワイズはPCのキーボードを軽快に叩き、アナステシア世界の『人材ギルド』の裏データベースへとハッキング(神の介入)を行った。
検索条件は、【実力そこそこ】【自己顕示欲が異常】【金と名誉のためなら平気で人を見捨てるクズ】。
数秒後、モニターに一つの冒険者パーティがピックアップされた。
「……おっ。こいつら良いね。『銀翼の剣』のリーダー、ゲイル。実力はAランク一歩手前だが、他人の手柄を横取りしてのし上がってきた絵に描いたようなチンピラ剣士。よし、彼らを今回の『悲劇の救世主(ヤラセ勇者)』にキャスティング(指名)しよう」
ワイズは迷うことなく、ゲイルの持つ魔導通信石に向けて、直接『神の啓示(という名のスパム案件メッセージ)』を送信した。
◇ ◇ ◇
アナステシア世界の某所、高級酒場。
酒と女を侍らせていた剣士ゲイルの懐で、ギルドカードが突如として眩い黄金の光を放った。
「な、なんだ!? ギルドカードが……金色のVIP通信だと!?」
ゲイルが慌ててカードを取り出すと、空中にホログラムの文字が浮かび上がった。
『選ばれし勇者よ。我は神界のプロデューサー。君たちに特別なクエスト(案件)を与えよう』
「か、神の啓示!? 俺たちにか!?」
『間もなく、三国の中立地帯にある【ポポロ村】という小さな農村に、凶暴な魔獣の群れが襲来する。君たちの任務は、村が魔獣に蹂躙され、村人たちが絶望の淵に立たされた”最高のタイミング”で駆けつけ、魔獣を討伐することだ』
「ちょっと待て。村が襲われるなら、今すぐ助けに行かないと……」
『慌てるな。無傷で助けても感謝されないだろう? 村の半分が焼け、死者が出てから劇的に登場するんだ。そうすれば、君たちは「奇跡の勇者」として世界中でバズり、歴史に名を残す。……報酬は、前払いで【金貨十万枚(約10億円)】。どうだ?』
――チャリンッ!!
ホログラムが消えると同時に、ゲイルの足元に、見たこともないほどの金貨の山が雪崩のように出現した。
ゲイルとパーティメンバーたちは、その黄金の輝きに完全に目を奪われ、下劣な笑みを浮かべた。
「ひゃ、ひゃあ! 金貨十万枚!! これだけあれば一生遊んで暮らせるぞ!」
「リーダー! やっちまいましょう! 田舎の村人が何人死のうが、俺たちが『勇者』として名声と金を得られるなら安いモンっすよ!」
「ああ! 神様も『遅れて行け』って言ってんだ、酒でも飲んでゆっくり出発しようぜ!」
彼らの目に、見ず知らずの村人の命など微塵も映っていなかった。
◇ ◇ ◇
「アハハハハッ! 素晴らしい! 底辺のクズどもは、金さえ積めば簡単に踊ってくれる!」
モニター越しにその様子を見ていたワイズは、手を叩いて歓喜した。
「勇者のキャスティングは完了。次は、村を襲う『悪役』の配置だ」
ワイズは再びキーボードを叩き、ポポロ村の周辺の森に生息する魔獣たちに『強制狂化バフ』を付与した。
ロックバイソンの突然変異体、狂暴なオークの群れ、そして上空には腹を空かせたワイバーンの群れ。総勢五百体を超える魔獣のスタンピード(大暴走)が、人為的に引き起こされた。
「いいね、いいねぇ! 圧倒的な暴力の波! これが一切の防衛力を持たない、哀れな田舎の農村に突っ込むんだ。泣き叫ぶ女子供、燃え盛る家屋、そして……絶望が最高潮に達した時、ヤラセ勇者がさっそうと登場する!」
ワイズはタンブラーのカプチーノを優雅に啜りながら、PVの爆発的増加を確信して笑いを堪えきれずにいた。
「さぁ、最高の復讐劇のプロローグ(悲劇)を見せてくれよ。哀れな村人ども!」
……しかし、ワイズは一つだけ、決定的なミスを犯していた。
彼がターゲットに選んだ『ポポロ村』。
それは、確かに見た目こそ平和な農村だが。
実は、ルナミス帝国・レオンハート王国・アバロン魔皇国の三国が睨み合う最前線の『緩衝地帯』であり。
地下帝国ドンガンの天才発明家キュルリンが内務官として暗躍し。
秘密裏に『最新鋭の魔導防衛システム』と『軍事用地下シェルター』が完備された、アナステシア世界で最も手を出してはいけない【超重武装・農業要塞】であるという、絶対的な事実を――。
「……ん? 村長。森の方から、えっらい土煙が上がってますわよ」
「あら本当。……自警団の皆さん、出番ですよー!」
モニターの向こう側。
麦わら帽子を被った月兎族の村長・キャルルが、土煙(魔獣の群れ)を見つめながら、とんでもなく爽やかな笑顔で右手を高く掲げていた。




