EP 6
「特売の豚肉を舐めるなァ!」 限界突破のハイパー大掃除
『ボゴォォォォォォォォォォォォッ!!』
レオンハート王国の地下水道が、震度5の地震のように激しく揺れた。
超絶マッチョ化した俺の放つ異常な闘気に生命の危機を感じたのか、巨大ヘドロスライムが、王都の怨念と穢れを限界まで圧縮した『呪いの泥津波』を放ってきたのだ。
触れれば骨まで腐り落ちる、絶対的な死の濁流。
それが、地下水道の通路いっぱいに広がり、俺たちを飲み込もうと迫り来る。
「おおおっ……! 聖者様、お逃げくだされ! あれは物理防壁も魔法障壁も溶かす、原初の悪意そのもの!」
入り口で白ブリーフ姿のアストル団長が絶叫する。
だが、俺は一歩も引かない。
俺の頭の中にあるのは「原初の悪意」などという大層なものではない。
「ロイヤル・エデンの半額肉……! 特売の豚バラブロック……! それに霜降り飛竜肉ッ!!」
俺は、隆起した大胸筋をピクピクと躍動させながら、腰のバケツから『特製・重曹ペースト(※重曹に少量の水と台所用洗剤を混ぜた強力洗浄剤)』を取り出した。
「お前みたいな『ガンコな泥汚れ』にかまってる時間は、俺には1秒たりとも無いんだよォォォッ!!」
ズドォォォォォォォォンッ!!!
俺はペーストをべっとりと塗りつけた巨大な『柄付きスポンジ』を構え、迫り来る泥津波に向かって、正面から突撃した。
『愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!』
背後から響くリーザの超高速BPMが、俺の脳内ドーパミンを限界突破させる。
リリスの魔法で鋼鉄のワイヤーのごとく強化された全身の筋肉が、スポンジを握る両腕に、常人離れしたトルクと回転力を生み出す。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァッ!!!」
俺は音速のスピードでスポンジを振り回し、迫り来る泥津波を正面から『ゴシゴシ』と擦りまくった。
『ギィィィィィィィィィィヤァァァァァッ!?』
巨大ヘドロスライムから、断末魔のような悲鳴が上がった。
魔法も物理攻撃も効かないはずの泥の体が、俺のスポンジ(と解体スキル)が触れた端から、シュワシュワと音を立てて『真っ白な泡』へと分解されていくのだ。
対象:王都の穢れが凝縮した、物理・魔法無効の『呪いのヘドロ』。
処理:アルカリ性の重曹ペーストで酸性のヘドロを中和し、界面活性剤(洗剤)でドロドロの結合を切り離す。そして、BPM200の超高速スクラブ洗浄によって、汚れを根こそぎ『漂白(解体)』する。
「早い……! なんという神速の浄化剣!」
「見よ! 原初の悪意が、聖者様の一振りごとに、清らかな純白の光(洗剤の泡)へと還元されていくぞ!!」
後ろでアストルたちが感動の涙を流しているが、俺はそれどころではない。
「残すところあと四分! 急げ急げ急げェェッ!!」
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ!
俺は地下水道の壁、床、そして巨大スライムの本体を、足がつかないほどのスピードで飛び回りながら、狂ったように磨き上げた。
長年蓄積されたヘドロが、ガンコな水垢が、謎の黒ずみが、凄まじい衝撃波と共に次々と消滅していく。
「特売の豚肉を……舐めるなァァァァァァァァッ!!!」
――ピッカァァァァァァァァァァンッ!!!
最後に、俺が渾身の力を込めてスライムの中心核(排水溝の詰まり)をスポンジで『スポンッ!』と抜き取った瞬間。
眩い光と共に、巨大ヘドロスライムは完全に崩壊し、跡形もなく消え去った。
あとに残ったのは。
まるで新築のモデルルームのようにピカピカに輝き、爽やかなシトラスの香り(※洗剤の匂い)が漂う、無菌室レベルの地下水道だった。
「「「おおおおおおお……!!」」」
聖騎士たちが、もはや言葉を失い、美しい地下水道の床にひれ伏して祈りを捧げている。
「フゥ……」
俺はスポンジをバケツに戻し、荒い息を吐きながら懐中時計を見た。
「……タイムセール終了まで、あと三分」
間に合う。
いや、間に合わせる!
「行くぞリリス、リーザ! エコバッグの準備はいいな!? 『ロイヤル・エデン』の精肉コーナーに全速力で突撃だァァッ!」
「「おーっ!!」」
俺はパンパンに膨れ上がった大胸筋を揺らしながら、ヒロイン二人を引き連れて、地下水道の階段をマッハの速度で駆け上がっていった。
王都を救ったという事実など、俺の頭からは完全に消え去っている。
今、俺の瞳に映っているのは、燦然と輝く『半額シール』の幻影ただ一つであった。




