EP 5
8
間に合わない!? 従業員たちの本気コンボ
「くっ……! 拭いても拭いても、奥から泥水が湧き出してきやがる!」
レオンハート王国の聖都、その地下深くにある巨大下水道。
俺は『100均の超吸水スポンジ』と『フロアワイパー』を両手に構え、目の前でうごめく巨大な泥の塊――『巨大ヘドロスライム』と死闘を繰り広げていた。
『ボゴォォォォォォォンッ!!』
王都中の悪意と穢れを吸い込んで肥大化したスライムが、咆哮と共に強烈な悪臭を放つ泥弾を撒き散らす。
俺はその泥弾をワイパーで弾き落とし、壁に飛び散った汚れをスポンジで即座に吸収(解体)していく。
だが、問題は『敵の強さ』ではない。
俺の懐中時計が示す『残された時間』だ。
「おい、白ブリーフ団長! 『ロイヤル・エデン』のタイムセール終了まで、あと何分だ!?」
「ひっ! あ、あと十五分にございます、聖者様!」
下水道の入り口で、悪臭に耐えきれずパンツ一丁のまま鼻をつまんでいるアストル団長が叫んだ。
「クソッ、あと十五分!? 移動時間を考えたら、ここでの掃除にかけられる時間はあと五分もないぞ!!」
俺は焦燥感で歯を食いしばった。
このままのペースで拭き掃除をしていては、絶対に間に合わない。
あの超高級スーパーの半額肉が……幻の霜降り飛竜肉が、王都のハイエナのような主婦たちにすべて買い占められてしまう!
(そんなこと、オカンの名にかけて絶対に許せるか……! だが、俺一人の『拭き掃除の速度』には物理的な限界が……!)
俺が絶望しかけた、その時だった。
「社長!! 諦めないでくださいませ!!」
「九条さぁぁん! 私たちがついてますぅ!」
下水道の入り口から、ゴム長靴にマスク姿という完全防備のリーザとリリスが飛び出してきた。
「お前ら……! ダメだ、ここは臭いし汚い! お前らの服まで汚れちまうぞ!」
「いいえ! ここで社長がタイムセールに間に合わなければ、今日のまかない飯のランクが下がってしまいますわ!」
リーザは、持参した木箱(お立ち台)の上に飛び乗り、大根を握りしめた。
「わたくしめにとって、毎日の美味しいご飯は命! そして社長は、それを与えてくれる絶対のプロデューサー! ……社長の敵(汚れ)は、わたくしめの敵ですわ!!」
リーザが大きく息を吸い込む。
腐っても人魚姫。彼女の喉には、味方の精神と肉体を極限まで高揚させる、強力な魔法が宿っている。
「いきますわよ! 本日のスペシャル・ライブ! 超絶アップテンポで駆け抜けますわ!」
『愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!』
地下水道に、リーザのノリノリな四つ打ちのアイドルソングが響き渡った。
その瞬間、俺の体の中に、爆発的なリズム感と高揚感が湧き上がってきた。
「おおっ……! BPMがめちゃくちゃ早い! このリズムなら、雑巾がけのストロークを通常の五倍まで引き上げられるぞ!」
俺の腕が、目にも留まらぬ速さで動き始める。
だが、ヒロインたちのサポートはこれだけでは終わらない。
「私もいきますぅ! 見習い女神の神聖魔法、とくとご覧あれですぅ!」
リリスが四次元ポケットから『エンジェルすまーとふぉん』を取り出し、画面をタップした。
「聖なる癒やしよ、彼に……じゃなかった! 今日は最初から、こっちのボタンを押しますぅ!」
ポチッ。
リリスが、かつて俺をゴリラに変えた『誤操作』の魔法アイコンを、今度は意図的に、迷いなくタップした。
「限界突破! 『筋力超回復』!!」
ピカーーーーーーーンッ!!!
地下水道を、神々しくも暑苦しい黄金の光が照らし出した。
光は一直線に俺へと降り注ぎ、俺の全身の細胞に、異常なまでの筋細胞分裂を促していく。
「うおおおおおおおおッ!!!」
ビリッ……ビビリッ! バァァァァァァンッ!!
俺の着ていた作業着が、限界まで膨れ上がった大胸筋と広背筋によって再び弾け飛んだ。
そこに現れたのは、超絶マッチョ化し、全身から闘気(湯気)を立ち上らせる『闘神・九条湊』の姿だった。
「おおおおおッ!? 聖者様のお姿が、巨大に……!? それに、あの人魚と女神の祈り……! なんという神々しい儀式なのだ!!」
入り口で見守っていたアストルたちが、あまりの光景に再び平伏し、祈りを捧げ始めている。
「フゥゥゥゥ……ッ!!」
俺は、丸太のように太くなった両腕で、巨大な『フロアワイパー』と『柄付きスポンジ』をバトントワリングのように回転させた。
リーザの超高速バフ。
リリスの超筋力バフ。
そして、俺の『解体スキル』と、半額肉への凄まじい執念。
「五分だ……」
俺は、目の前で震え上がっている巨大ヘドロスライムを見据え、般若のような笑みを浮かべた。
「五分で、この地下水道の隅から隅まで……チリ一つ残さず『漂白(解体)』してやる!!」
半額のタイムセールに命を懸けた、最強のチーム清掃が、ついに火を噴いた。




