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万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜  作者: 月神世一


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EP 10

武士道の勘違い。帝国の撤退と、九条清掃の初任給

 ルナミス帝国の白亜の宮殿、戦略会議室。

 そこには、数日前の自信に満ちた姿とは打って変わり、ゲッソリと頬をこけさせた内務卿オルウェルと、なぜか妙に肌ツヤが良く、憑き物が落ちたような清々しい顔をした近衛騎士団長キュロスが並んで膝をついていた。

「……なるほど。光学迷彩による監視網は『顔の周りを飛ぶコバエ』としてハエ叩きで撃墜され、潜伏地雷は『犬のフン』として起爆せずに処理されたと」

「はっ。我が情報統括局の完全敗北にございます……」

 皇帝マルクスが『自省録』を片手に尋ねると、オルウェルは深く頭を垂れた。

「それに加えて、キュロスよ。お前は深夜に強襲をかけ、相手の『胃薬』によって闘気を中和され、無傷で帰されたと言うのだな」

「御意。あの九条湊という男……拙者の神速をチリトリで防ぐ圧倒的な武を持ちながら、敵である拙者の胃腸の不調を案じ、秘薬を与えて回復させるという、海よりも深き慈悲を持ち合わせておりました。あれぞまさに、覇王の器……!」

 キュロスが感動の涙を流しながら熱弁を振るう。

 武力、情報戦、そして文化侵略(美食)。帝国の誇るあらゆる牙を向けたにも関わらず、相手はそれを「日常の掃除」と「オカンの優しさ」で全て無力化してしまったのだ。

「……ふむ」

 皇帝マルクスは目を閉じ、静かに息を吐いた。

「見えない敵をハエと認識して叩き落とす『狂気』。そして、敵に塩(胃薬)を送る『王道』。……相反する二つの性質を併せ持つ、底知れぬ怪物か」

 マルクスは立ち上がり、重々しい声で宣言した。

「これより、ポポロ村を『特別不可侵領域』に指定する。いかなる理由があろうと、あの村への軍事介入および九条湊への接触を禁ずる。……触らぬ神に祟りなし、だ」

 ルナミス帝国が、一人の清掃員の前に公式に白旗を揚げた瞬間であった。

 しかし、オルウェルは腹の底で小さく息をつき、静かに安堵していた。彼の胃腸は、あの日飲んだ『月見大根の味噌汁』の優しさを、いまだに忘れられずにいたのだから。

 ◇ ◇ ◇

 帝国の中枢が震え上がっていた頃。

 ポポロ村の『株式会社・九条清掃 アナステシア出張所』では、平和な朝の光景が広がっていた。

「よし、今日も村の掃除が終わったな。……おい、リリス、リーザ。ちょっとこっち来い」

 エプロン姿の俺が呼ぶと、二人が小走りで集まってきた。

 俺はポケットから、小さな茶封筒を二つ取り出し、それぞれの手にポンと乗せた。

「なんだい、これ?」

「社長? まさか、懲戒解雇の通達……!?」

 リーザが怯えたように封筒を握りしめる。

 俺は苦笑して首を横に振った。

「中を開けてみろよ。……今月分の『給料』だ」

「「えっ」」

 二人が恐る恐る封筒を開けると、中からチャリンと音を立てて、銀色の硬貨が数枚こぼれ落ちた。

 ポポロ村で流通している『銀貨』だ。大金ではないが、村の屋台で美味しいお菓子や小間物を買うには十分な額である。

「お前ら、まかない飯に釣られてタダ働き同然で手伝ってくれてただろ。この村での粗大ゴミ回収(帝国兵器の残骸)の儲けが出たからな。ちゃんと労働の対価は払うぞ」

 俺が言うと、二人は銀貨を握りしめたまま、完全にフリーズしてしまった。

「……お、お金。本物の、お金ですわ……。マヨネーズを錬金するためじゃなく、わたくしめ自身の労働で得た、正当な報酬……!!」

「九条さん……! 私、天界をクビになってから、初めて自分でお金を稼げましたぁ……!!」

 ボロボロと大粒の涙をこぼし始めるヒロイン二人。

 かつては道端の雑草にマヨネーズをかけて生き延びようとしていた極貧アイドルと、行き倒れていたリストラ女神。

 そんな彼女たちが、額に汗して働き、初めて自分の手で掴み取った『給料』だった。

「だ、だから泣くなって! そんな大金じゃないんだから」

「大金ですぅ! これで、村のパン屋さんで『お団子』がいっぱい買えますぅ!」

「わたくしめは、このお金を元手に新しいジャージを……いえ、株に投資して莫大な資産を……!」

「おい、変なことに使うなよ。無駄遣いしたら次から減給だからな」

 俺がオカンのように小言を言うと、二人は「はーい!」と満面の笑みで返事をした。

 その顔は、この世界に来たばかりの時の絶望感など微塵も感じさせない、本当に明るい笑顔だった。

(……まぁ、こいつらの笑顔が見れるなら、異世界での掃除稼業も悪くないな)

 俺は窓の外に広がる、雲一つない青空を見上げた。

 帝国軍のポイ捨て兵器も片付いて、村の空気も綺麗になった。

 だが、この世界にはまだまだ『汚れ』が蔓延っている。

「よし、お前ら! 給料をもらったら即仕事だ! 今日は村の外れのダンジョン跡地をピカピカに磨き上げるぞ!」

「「おーっ!!」」

 ほうきとモップを肩に担ぎ、俺たちは元気よく出張所を飛び出した。

 ルナミス帝国との騒動は終わったが、株式会社・九条清掃の『大掃除』はまだ始まったばかりだ。

 世界の汚れ(悪党)ども、首を洗って待っていろ。オカン清掃員が、残らず綺麗に(解体)してやるからな!

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