EP 6
「犬のフン(地雷)を放置するな!」 徹底的なゴミ拾いと情報網の崩壊
チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえるポポロ村の早朝。
俺は誰よりも早く起き出し、出張所の前で日課の『朝の掃き掃除』を始めていた。
「サッサッ……サッサッ……。うん、今日も空気が美味いな」
俺が竹箒をリズミカルに動かしていると、ふと、耳元で『ブゥン……』という微かな羽音が聞こえた。
「ん? なんだ、蚊か? いや、コバエか?」
俺は目を細めて虚空を睨んだ。
何もないように見えるが、長年『汚れ』を見つめ続けてきた俺のオカン的動体視力(プロの目)を誤魔化すことはできない。
空中の光が、わずかに、本当にわずかだが『不自然に屈折』している箇所があるのだ。
「……あーあ。油汚れを放置するから、見えないくらい小さいコバエが湧いてるじゃないか。不衛生な村だぜ、まったく」
対象:光学迷彩で完全に姿を消している『帝国最新鋭の監視ドローン』。
認識:光の反射で見え隠れする『鬱陶しいコバエ』。
「朝っぱらから顔の周りをブンブン飛ばれると、気が散って掃除に集中できねぇんだよ!」
俺はエプロンのポケットから、丸めたチラシ……ではなく、昨日ニャングルの店で買っておいた『ハエ叩き(先端が網目状になったプラスチックの棒)』を取り出した。
――『解体』!!!
パァァァァァァァァァンッ!!!!
「ジ、ジジジジッ……!?」
俺が空中の『光の歪み』に向かってハエ叩きをフルスイングした瞬間。
空中で何かが弾ける音と共に、透明だったドローンの光学迷彩が剥がれ落ち、バラバラの『精密部品の山』となって俺の足元にポトリと落ちた。
「おっ、ハエかと思ったら変な金属の塊だったか。誰だよ、こんなモン空に飛ばして遊んでた奴は。危ないから燃えないゴミ袋に入れておこう」
パァンッ! パァンッ! パパパァンッ!!
俺は軽快なステップを踏みながら、出張所の周囲を飛んでいた数十機の『コバエ(最新鋭ドローン)』を、次々とハエ叩きで叩き落とし、可燃・不燃・魔石に分別してゴミ袋へ放り込んでいった。
「よし、空中のコバエは駆除完了。次は道端の落ち葉掃きだな」
俺は再び竹箒を握り、道の端に沿って掃き進める。
すると今度は、地面の土が『不自然にこんもりと盛り上がっている』箇所をいくつか発見した。
「……ん?」
箒の先で土を軽く払うと、中から黒くて丸い、円盤状の塊が顔を覗かせた。
「…………おいおい」
俺の額に、ピキリと青筋が浮かんだ。
対象:目標の魔力波長に反応して木端微塵に吹き飛ばす『対地潜伏型・魔導地雷』。
認識:マナーの悪い飼い主が土を被せて隠そうとした『巨大な犬のフン』。
「犬の散歩をするなら! ちゃんとフンは持ち帰るのが常識だろうがァァッ!!」
朝から他人の犬のフン(※致死性の地雷)を処理させられる怒りで、俺のオカン・ボルテージは急上昇した。
俺は持っていたチリトリ(鉄製)を地面に突き立て、左手の『100均の重曹水スプレー』を構えた。
「しかも、こんな道のど真ん中に……! 間違えて踏んだらどうすんだ! ニオイ(※魔力波長)もキツいし、まずは徹底的に『除菌・消臭』だ!!」
シュッシュッシュッシュッ!!
「ジッ……ピピピッ……!?(※魔力波長センサーがアルカリ成分で中和される音)」
俺が激怒しながら重曹水をぶっかけると、地雷の内部機構(魔力起爆装置)が完全にショートし、ただの無害な鉄の塊へと沈黙した。
「よし、ニオイ(魔力)は消えたな! あとはチリトリで掬って……」
ガコッ!
俺は沈黙した地雷をチリトリで掬い上げると、そのまま『解体』の魔力を流し込み、ただの土塊と鉄クズに分解してゴミ袋へ叩き込んだ。
「まったく……。これだからマナーの悪い連中は嫌いなんだ。ほら、あそこにも、あそこにもフン(地雷)があるぞ! 全部まとめて除菌・消臭だ!」
シュッシュッ! ガコッ! ポイッ!
シュッシュッ! ガコッ! ポイッ!
かくして、ルナミス帝国が誇る「絶対不可視の死の罠」は、朝の清々しいラジオ体操のようなテンポで、次々とゴミ袋の中へと回収されていったのである。
◇ ◇ ◇
同じ頃。
ポポロ村から少し離れた森の中で、内務卿オルウェルは己の目を疑っていた。
「……な、なんだと? バカな……あり得ない……!」
彼の手元にある魔導タブレットの画面。
そこには、ポポロ村を包囲していたはずの『緑の点』と『赤の点(地雷)』が映し出されていたのだが。
パァンッ!(緑の点が消滅)
シュッシュッ! ポイッ!(赤の点が消滅)
まるで、画面上のゴミを消しゴムで消していくかのような恐るべきスピードで、帝国の最新鋭兵器群が次々とロスト(通信途絶)していくではないか。
「ひ、光の屈折率を操作する完璧な光学迷彩だぞ!? 魔導探知すら不可能な地雷だぞ!? なぜだ……なぜ、あんなピンポイントで、しかも起爆させることなく無力化できるのだ!?」
オルウェルの額から、滝のような冷や汗が流れ落ちる。
彼は震える指で、最後に残った一機のドローンのカメラ映像をモニターに大写しにした。
そこに映っていたのは。
プラスチックの『網目状の棒(ハエ叩き)』を持った九条湊が、般若のような怒りの形相でこちらを睨みつけている姿だった。
『――朝っぱらから! 顔の周りをブンブン飛ばれると、気が散るんだよォォッ!!』
パァァァァァンッ!!!!
その言葉と共に、画面いっぱいに『網目』が迫り――プツン、と映像が途絶えた。
「ア……アアァ……」
オルウェルはタブレットを取り落とし、膝から崩れ落ちた。
「見えない敵を……『顔の周りを飛ぶ羽虫』としか認識していない……? 潜伏地雷を、起爆させずに『除菌』した……? バカな、それではまるで……」
ルナミス帝国の最高頭脳である彼が、国家予算を投じて構築した完璧な『一望監視施設』。
それは、ただの清掃員による『朝のゴミ拾い』という名の理不尽な暴力の前に、わずか10分足らずで完全崩壊を遂げたのであった。
「勝てるわけがない……。あの男は人間ではない、概念を喰らう『生きた災害』だ……!!」
森の奥深くで、オルウェルの絶望の叫びが木霊した。




