6-10 異世界からの追跡者
前回の続きになります。
観光を楽しんだ後で起きた出来事とトラブルを引き起こす謎の集団と遭遇する回となります。
スカイツリーの展望台で街中を見下ろした後、ミネルバは大満足の笑顔を見せると巧実と彩の二人に感想を言い述べる。
「勉強になりましたっ! 『百聞は一見にしかず』のことわざのように、沢山データを入手するより一つの体験が想定外に大きいなんてっ!」
屈託のないミネルバの顔を見た巧実は、先日出会ったユーノとクレイア二人のASIと比べて自分の思ったことを隣にいた彩にコッソリと話す。
「ミネルバって、姿は大人なのに中身が子供っぽいところがあるよなっ?」
「えっ、それってどういう事っ? もしかして、僕と比べてっ? タク兄っ?」
と彩が言って、少し膨れっ面を見せる。
膨れっ面の彩を見た瞬間、先日の出来事を話して違うことを主張する巧実。
「違う、違うって。先日出会った二人のASIと比べてだよ。一人は大人の女性で、もう一人は喋り方が乱暴な女性だった。絶対、絶対に彩と比べたわけじゃないから」
「ホントかなっ? ホントのこと言ってる、タク兄っ?」
と言って膨れっ面の彩が、巧実の主張に疑心暗鬼で家路をへと向かう。
帰り道、巧実と彩とミネルバの三人は途中で雑居ビル同士の狭間に差し掛かる。
「ここで、ミネルバを発見したよな……? 彩っ?」
と巧実が言って確認すると、神妙な面持ちになり頷く彩は発見した当初を思い返す。
「部活が終わって家に帰ろうとしたら、気絶したミネルバを偶然発見して……」
巧実と彩の二人が回想する中、ミネルバが無意識に上空に浮かぶ裂け目に近づく。
ミネルバが裂け目に近づく光景を目の当たりにした瞬間、
「ミネルバっ、近づいちゃダメだっ! 今すぐ戻れっ!」
と巧実が叫び慌てふためきながらミネルバのところへ駆け寄る。
彩も同様、慌てふためく巧実を見て裂け目に近寄るミネルバを引き留めようと、
「ダメっ! 危険だから行っちゃダメっ! ミネルバっ!」
と言ってミネルバの手を掴んで裂け目から引き離そうと力強く引っ張る。
だが、ミネルバは巧実と彩の二人の制止を無視してゆっくりと歩み寄って行く。
そして、裂け目の真下に到達したミネルバは両手を挙げて頭上を見上げる。
頭上を上げた瞬間、ミネルバの髪が青白く光り巧実の自室で見た現象を目の当たりにする巧実と彩。
さらに、ミネルバの指先から発光すると蛍のように光り輝く無数の粒子が行き交う。
初めて見る光景に、彩は恐怖に震えながらも巧実に説明を求めた。
「たっ、タク兄っ? ミネルバ、今何やっているのっ?」
「間違いない……。今っ、ミネルバはアップデートしている状態だ……。まさか、あの裂け目からもアップデートできるなんて……」
と言って巧実が説明すると、目を丸くして驚き制止することすら忘れてしまう。
唯一の救い、それは誰も通路を通っていないことのみ。
もし、ミネルバの奇妙な行動が誰かに見られたら間違いなく世間に広まる。
そして、興味本位も野次馬や名を馳せたい雑誌記者の好都合な見世物にされることは間違いない。
特に、宗明のような悪知恵の働くヤツに知られたら都合よく利用される。
「どうしよう……。ミネルバの奇妙な行動、止められないのっ? タク兄……?」
と問い掛ける彩は、オロオロと動揺を隠せず周囲を見渡すばかり。
動揺する彩を見た巧実は、動揺しながらも冷静な態度を取り指示する。
「無理だ……。アップデートが始まったら誰にも止められない。とにかく、今は周囲を見渡そう……。アップデートが終わるまで……」
アップデート中のミネルバを挟む形で、巧実と彩の二人は動揺しながらも緊張した面持ちで周囲を見張り誰も来ないことを心の中で祈り続けた。
数分後、アップデートを終えたミネルバは緊張しながら見張り続ける巧実と彩の二人に声を掛けてくる。
「アップデートが終わりました。巧実様、彩様、ご迷惑をおかけいたしました」
と言って謝るミネルバを見た瞬間、緊張の糸が切れ膝から崩れる彩と一安心して胸を撫で下ろす巧実。
「頼む、アップデートする際は家でやってくれ……。ミネルバ……」
と言って、緊張の糸が切れた巧実はハアハアと息を切らせている。
「ホントだよ……。勝手な行動しないで、ミネルバ……」
と言う彩は、ゆっくりと立ち上がるが腰が抜けたのか立ち上がることが出来ない。
仕方なく、巧実が彩の手を引っ張って立ち上がるのをサポートする。
こうして、巧実と彩とミネルバの三人は一安心して帰宅するのであった。
ところが、帰ろうとした最中に背後から地面を揺らす衝撃が三人の足下から伝わる。
また、誰かが石材や土砂などのブロックが捨てたのだと思ってゆっくりと振り向く。
しかし、今度はブロックやアイテムなどの類いではなかった。
よく見ると、土煙の中から人影が浮かび上がる。
「今度は誰だ……? もしかして、ゲームのアバターか……?
と言って警戒する巧実と、危険を察知して身を寄せ合う彩とミネルバの二人。
数分後、土煙が収まり姿を現したのは重武装した忍者を彷彿させる素顔が全く分からない黒装束の四人の人達。
「なっ、なななっ、何だ、コイツらはっ? サイバーパンクな忍者のコスプレした変人っ?」
と巧実が言って、黒装束の四人を警戒しながら容姿を観察する。
見た目が忍者だが、片方に肩当てと軽量化した胸当てを装着している。
最大の特徴は、完全に顔を隠すマスクが軍用のガスマスクのように見える。
その上、ゴーグルから怪しく光る赤い眼光が如何にもサイバーパンクを彷彿させる。
「たっ、タク兄っ、この人達ってゲームのMOBなのっ?」
と彩が言って、困惑した表情で巧実に質問してくる。
すると、巧実は首を横に振って否定する。
「違う……。俺の知っている中では、誰かのアバターでもMOBでもないっ!」
巧実と彩が騒ぐ中、ミネルバは重武装の忍者みたいな黒装束四人を見た瞬間、
「こっ、この人達ですっ! 私を襲った人達に間違いありませんっ!」
と言って恐怖に震え上がる。
ミネルバの証言を聞いた瞬間、この後に起こる出来事が想像できた巧実と彩の二人は気まずい表情で黒装束四体を警戒する。
「とっ、とにかく、ここから離れるぞっ! 長居は禁物だっ!」
と巧実が言って、彩とミネルバに避難を指示出す。
だが、時すでに遅く一体の黒装束が怯えるミネルバに目を合わせ、
「不正プログラム発見。コレヨリ、確保ヲ開始スル」
と片言で言って動き出すと、他の三体もミネルバを捕らえようと動き出す。
「ヤバいっ! みんな、とにかく逃げるぞーっ!」
と巧実が叫び走り始めると、彩とミネルバも脱兎の如く走り出す。
当然、黒装束の四体もミネルバに標準を合わせ走り始める。
まさか、楽しい街中観光帰りが怪しい黒装束集団との逃走劇を始めるなんて想定外の巧実はミネルバの手を取って必死に逃げる。
さすが陸上部に所属している彩は足が速く、走って逃げる巧実を追い越しそうな勢い。
それでも、黒装束の四体は重武装なのに足が速く必要以上に追跡する。
「どうしよう、タク兄っ! 振り切れそうにないよっ!」
と言って身の危険を感じた彩に、険しい表情の巧実は指示を出す。
「あの角を曲がったら二手に分かれるぞっ! 彩、逃げ切ったら母さんと合流して助けを呼んでくれっ! ここは、俺とミネルバの二人で時間を稼ぐっ!」
「でも、逃げ切れそうにないよっ! タク兄っ!」
と彩が泣き言を言うと、巧実が励まし続ける。
「大丈夫、彩の足なら絶対に逃げ切れるっ! それに、ターゲットは恐らくミネルバのはずだっ!」
巧実の言い分を聞いた彩は心配な顔をして、
「分かったっ! 逃げ切ったら香苗オバさんに連絡するっ!」
と言って約束すると逃げ切れると自分に言い聞かせて走り続ける。
路地裏の角に差し掛かると十字路を発見し、巧実とミネルバの二人と彩の二手に分かれ逃走を続ける。
二手に分かれた瞬間、ミネルバのいる巧実のところへ追跡する四体の黒装束集団。
(間違いない、奴らのターゲットは俺でなくミネルバだっ!)
と心の中で確信する巧実は、ミネルバの手を取り逃走を続ける。
「巧実様、このままだと確保される確率が高まりつつあるのですが」
とミネルバが言って不安な表情を見せると、
「大丈夫っ! 幸いなことに、この路地裏は迷路のようになっているからっ!」
と言って巧実はミネルバに手を繋ぎながらも無我夢中で逃走を続ける。
こうして、現実世界に迷い込んだミネルバを巡る逃走劇が続く……。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。




