6-6 ASIの源は?
前回の続きになります。
主人公の部屋で次世代AIがパソコンを使って謎の行動を起こすことから始まる回となります。
「母さんっ! ジッチャンっ! ミっ、ミネルバがっ! ミネルバがっ!」
と叫ぶ巧実は、二階にいる香苗と重信を呼ぶ。
巧実の呼ぶ声に反応した香苗と重信の二人が、気にする素振りを見せることなく三階に駆け上がってきた。
「どうした、巧実っ? ミネルバがどうしたっ?」
と重信が問い掛けると、驚愕する巧実は震える指でミネルバを差す。
気になって香苗と重信の二人は、巧実が指を差した方角に目を向ける。
視線の先には、ミネルバが髪を青白く光らせて逆立っている光景を目の当たりにする。
「おっ、お義父さんっ? あっ、あれって何っ?」
と香苗が震える声で問い掛けるが、重信は「喋るな」と目で睨み大人しくさせる。
巧実と香苗と重信の三人は、ミネルバの行動を静観することにした。
ミネルバの目の前には、机の上に巧実が普段愛用しているディスクパソコン。
画面に手を触れるミネルバ、その指先を観察したら光る粒子の物体。
しかも、一つや二つではなく無数の光る粒子がミネルバの指先から行き交っている。
光る粒子を一つ一つ観察したら、光粒子の一つずつがアルファベットの文字や数字などにも見えてくる。
一体、ミネルバは巧実のパソコンを使って何をしているのだろうか?
真っ先に発見した巧実だけでなく、後から駆けつけた香苗や重信ですら全く分からない。
しばらくすると、ミネルバが画面に触れている指先が離れると髪の発光が収束し他と変わらぬ髪の色に戻った。
そして、ミネルバが笑顔で振り向いて不思議そうな顔の巧実に話し掛ける。
「パソコン、勝手に借りて申し訳ありません。巧実様」
「ミネルバ、俺のパソコンで一体何を……?」
と巧実は思わず喋ってしまい、ミネルバに問い質してしまった。
すると、ミネルバは気にする素振りを見せず笑顔で返答してきた。
「はいっ、これまで体験したことをバックアップとして私にデータベースに転送しました。そして、ネット空間から新たに入手してデータをダウンロードしてアップデートしました」
ミネルバの返答を聞いた巧実は、実体を長時間保てることが出来るのは何故か自分の中で仮説が浮かび上がる。
「もしかすると、ミネルバが現実世界で実体を保てるのは膨大な情報量をアップデートしているのではっ?」
「それって、どういう事なのっ? 巧実、説明して」
と言って説明を求める香苗に、これまで経験したことを踏まえて巧実は話し出す。
「現実世界から出現したアイテムなどが数十秒で消失したのは、単なるプロクラムで極めて限定的な情報量だから数十秒の時間の経過で消失した。これは、現場を見て経験したことから断言できることだけど」
「そうなると、ミネルバが長く実体を保てるのは膨大な情報量があったおかげだというのかっ? 巧実っ?」
と重信が冷静に問い質すと、静かに頷いた巧実は続けて仮説を言い述べる。
「ミネルバの場合、膨大な情報量と複雑なプログラムの集合体だから現実世界で実体を長時間保てるのだろう。但し、情報量やプログラムを定期的にアップデートしないと消失する恐れも否定できない」
「では、ミネルバの食事ってネットに漂うデータなのっ? 答えなさい、巧実っ?」
と言って目を丸くして問い質す香苗に、
「恐らく、それ以外に言えることは……」
と返答して目の前にいるミネルバを見る巧実。
香苗は、不思議そうな目でミネルバを見るのみで驚愕の余り言葉が出ない。
そんな中、ミネルバは巧実が話した見解を聞いて後押しする形で話し出す。
「私も、巧実様の見解はほぼ正論だと分析します」
「やはり……。でも、『ほぼ正論』とはどういう意味っ?」
と言って気になってミネルバに説明を求める巧実。
すると、ミネルバは現状を自己分析した結果を言い述べる。
「確かに、私の体は膨大なデータと無数のプログラムのソースコードで構成されています。現実世界に迷い込んだとは故、一定時間アップデートを実行しないと私の体を維持することは不可能と思われます。それ以外にも、重要な物が一つあります」
巧実は『重要な物』と聞いた瞬間、自分の見解とは違う何かがあると確信して改めてミネルバから聞き出す。
ここから、巧実とミネルバとの対話の繰り返しとなる。
「ミネルバ、その『重要な物』とはっ?」
「はい、電力です」
「電力っ? もしかして、ミネルバはスマホだというのかっ?」
「巧実様の言うとおり、今の私は超高性能なスマホと考えて下さい。もし、機能をアップデートしても全く充電されていなかったらスマホを利用することは出来ません」
「確かにそうだけど……。もしかして、三つの要素が一つでも欠けたらミネルバは消滅するとでも言うのかっ?」
「恐らく。一応、私の体験したデータは研究所内のサーバにバックアップをしています。もし、私が消滅してもバックアップを使って新たな私を再構築するでしょう。但し、再構築された私は今の私ではありません」
「もしかして、赤の他人とでも言うのかっ? ミネルバっ?」
「恐らく……。巧実様や皆様との出会いは、再構築する際に邪魔と判断されて抹消されると分析します……」
とミネルバの『消滅』と『抹消』の言葉を聞いた巧実は、言葉には言い表せない何かを感じ目の前が真っ暗に見える。
そのやり取りを聞いた重信は、何か閃き呆然とした巧実を覚ますように話し掛ける。
「巧実っ、勝也が買ったばかりのノートPCがお前の部屋にあったはずじゃ」
突然話し掛けられた巧実は、ハッと我に戻り押し入れからノートPCを取り出す。
「親父が、去年の年末に自分のバックアップ用で買ったのがあるけど……。でも、起動時のパスワード全然知らないけど……」
と言って困り顔の巧実だが、
「分かってるから貸せっ! 巧実っ!」
と言って強引にノートPCを奪い取る重信。
「ミネルバ、居候の間はこれを使いなさい」
と言ってノートPCを差し出す重信。
ミネルバは、重信から受け取ったノートPCを起動して画面に指先を触れる。
「解除しました、パスワード。購入して半年も経過していないので、バックアップデータは全く存在していませんでした」
とミネルバが笑顔で言い出すと、巧実だけでなく居合わせた香苗や重信も驚愕する。
「えっ、チョット待てっ! もしかして、触れただけでパスワードを解除っ?」
と言って驚きの余り問い掛ける巧実に、
「ハイっ、私にとってパスワードはないような物ですから」
と返事して笑顔で気にする素振りを見せないミネルバ。
その屈託のない笑顔を見た巧実は、別の意味でミネルバが恐ろしく思えてきた。
巧実と香苗と重信の三人が驚愕する中、
「皆様、お願いしたいことがあります」
と言って恥ずかしそうな表情でお願いしてきたミネルバ。
まさか、無理難題な頼み事を言い出すのではと戦々恐々の面持ちの三人。
ところが、ミネルバの頼み事は以外と単純な物だった。
「このパソコン、電源と有線LANで常に接続して欲しいのです」
ミネルバの頼み事の趣旨が全く理解できない香苗は
「なっ、何それっ? 誰か、答えてちょうだい。巧実っ? お義父さんっ?」
と言って巧実と重信に説明を求める。
それに対して、巧実と重信の二人はと言うと聞かなくても理解したのか問い掛ける香苗を無視して行動する。
「そう言えば、ノートPCが梱包している箱に電源とコンセントがあったような」
と言って香苗の問い掛けを無視して自室の押し入れを探し出す巧実に、
「確か、ワシの部屋には余りのLANケーブルがあったはずじゃったな」
と言って自分の部屋に戻る重信は香苗を置き去りにする。
置き去りにされた香苗は、笑顔で立つミネルバの前で思わず叫ぶ。
「ねえっ、誰か説明してよーっ!」
翌朝、何気ない朝食の風景。
食卓を囲んで、家族四人が朝食を取る普段通りの風景。
唯一変わったこと、それはミネルバの食事風景が電源とLANケーブルで直接繋がった状態のノートPCの画面に指を触れて源である情報と電力を入手していることのみ。
当然、昨晩見た重力に逆らうようにミネルバの髪が逆立ち青白く発光する。
その光景を目の当たりにした香苗は、ポカンと口を開けて驚くばかりで食が進まない。
巧実と重信の二人はと言うと、何事もなかったように朝食を取っている。
驚くばかりで呆然とする香苗に巧実は空となったご飯茶碗を勢いよく差し出し、
「母さんっ、おかわりっ!」
と元気よく言っておかわりを催促する。
その声に驚く香苗は、慌てふためき巧実のご飯茶碗を受け取る。
ご飯をよそう際も、ミネルバの異様な姿に目を奪われてしまう香苗。
「これっ、しゃもじからご飯が零れているぞっ! 香苗っ!」
と重信に注意された香苗は、我を戻すどころかパニックで手元が狂う。
その光景を目の当たりにする巧実は、思わず笑ってしまうのであった。
この後、現場検証のためゲームをプレイする巧実に新たなASIに出会うことを今は知ることなく……。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。




