5-4 迷子のASI《超人工知能》
前回の続きになります。
女子中学生の連れてきた人物の正体が次世代AIだと発覚後の話になります。
「私が開発された場所は、最新鋭と呼ばれる設備の整った研究室。私は、何もない電脳空間でユーノとクレイアと共に誕生しました」
と語り始めるミネルバと名乗る若い女性を目の前に、巧実を始め居合わせた人達は静かに耳を傾ける。
些細なことでも聞き逃さないために沈黙した状態、静寂な店内は巧実や居合わせた人達の異様な緊張感に包まれる。
そんな中、語り出す自らミネルバと名乗る若い女性は表情を崩さず冷静さを保っている。
(やはり、彼女の主張は正しいというのか……? 彼女が本物のASI……?)
と思い巧実は、語るミネルバを静観する。
「目覚めたときは、今のような姿ではなくスライムみたいな不安定な球体。カメラで最初に見た光景は、研究員が集まって歓喜に満ち溢れる様子でした」
とミネルバが証言を聞いて、何年前に誕生したのか気になった巧実は質問する。
「君っ、何年前に……? 何年前だけでも構わないから」
すると、ミネルバは事細かく誕生した日を事細かく言い伝える。
「201X年11月22日0時23分……」
「そっ、そこまでっ! 詳しく言わなくても年数だけ言えば想像できるっ! 君が五年以上前にコアが完成したことが分かったからっ!」
と言って止める巧実は、ミネルバが五年以上前にコアが誕生したことを知ることになる。
同時に、巧実がスマホで検索した情報と合致していることも確認できる。
巧実の質問が口火となり、早希が気になることをミネルバに質問する。
「最初っから喋れたのっ? 話し方が丁寧というのか……」
早希の質問に対して、ミネルバは真顔で首を横に振り返答する。
「いいえ、研究員から提供されたデータと対話の繰り返しです。最初は簡単な単語で全く話せませんでしたが、丁度半年で自由に話せるようになりました」
早希に続き紬久美も気になって質問する。
「日本語以外に何が話せるの? 当然、英語は話せるよね」
「一応、英語を含めて主要の六ヵ国の言語はデータベースに入っています。でも、経験が少ないので実用的な会話のレベルには達していません。それに……」
と言って淡々と返事するミネルバだが、俯いて何処か不安な表情を見せる。
表情を崩さないと思っていたら、ここで初めて表情を崩すミネルバ。
そのとき、ミネルバの不安な表情を見た巧実は何かを予測できたのか、
「もしかしたら、データベースに利用しているサーバーと関係しているっ?」
と言って質問を投げかける。
すると、静かに頷いて正直に話すミネルバ。
「はい、想定外の事態により現実世界から出てきた今の私はサーバーとの接続が途絶えている可能性があります。そのため、本来の能力が発揮されないと推測されます」
ミネルバの話を聞いて、最初は居合わせた誰もが首を傾げ理解することが出来ない。
そんな中、質問を投げかけた巧実だけがミネルバの言い分が理解できる。
「そうか、ミネルバ達の学習機能や記憶媒体がサーバーに依存しているからか」
と巧実が言い当てると、不安な表情のミネルバは静かに頷き認める。
紬久美は巧実の言い分やミネルバの主張を聞いた上で再確認するように、
「要は、『データベースに利用しているサーバーとの接続が途絶えてるから本来の能力を発揮できない』と言いたいのねっ?」
と言いまとめて再度確認する。
まるで、泣きじゃくる幼児を慰める優しき保母のように。
神妙な面持ちのミネルバは、紬久美の再確認に静かに頷いて間違いないことを伝える。
やはり、高性能なASIでもデータベースに利用しているサーバーとの繋がりがなければ本来の能力を発揮できないことを知る巧実達。
それよりも、一番大事なことを聞き忘れている気がした未琴が早希に言い出す。
「皆さん、偶然と結論が出ても何故ミネルバが現実世界に出てきたのか聞いてみないと?」
「たっ、確かにっ! 何で、開発中のASIが現実世界に出てきちゃったのか全く聞いていなかったっ! 未琴っち、ヤッパ天才っ!」
「調子に乗らないの、早希っ。でも、未琴や早希の言い分も一理あるわね。それに、パパの会社が販売しているゲームと何らかの関係がありそう。ゲームタイトルを聞いたら」
「紬久美さんと同じ事を言うけど、話して貰おうか。ミネルバ」
と言って巧実は、深刻な表情をするミネルバに話の続きを促す。
すると、深刻な表情を崩すことのないミネルバはネットの世界から現実世界に偶然やって来たのか経緯を話し始める。
「このモデルを手に入れてから三年と二ヶ月後、学習の一環で様々なアプリケーションに出向いていた頃でした……」
……私は、数多のゲームの中から「Gods of Sanddox(神々の砂場)」を選択した私は直接出向いて学習を開始しました。
もちろん、安全と誰にも気づかれないようステルス機能を使っての訪問。
閲覧するネット情報では、先日の事件が原因でゲーム内は無数の瓦礫で埋め尽くされ復興は難航すると噂が流れてました。
実際に訪問して一目見た瞬間、想定外の復興のスピードに驚かされました。
同時に、ゲーム内の雰囲気に心を奪われた私は様々な場所を視察することにしました。
テクスチャーに拘りのあるブロックなどの類いで形成された自然や建物、友好・中立・敵対だけでなく属性や異なる種類の豊富なMOB、地域が変わるだけで種族が異なるだけでなく職業によって個性豊かなNPC(ノンプレイヤーキャラクターの略称)達。
そして、創造性の豊かなプレイヤー達の様々な建造物や乗り物を含む製造物など。
さらに、先日の事件の惨状からの驚異的な復興のスピードを間近に見て開発した企業の努力や能力では計り知れない人間達の可能性とメンタルの強さがあると感じました。
興味を持った私は、「もしかしたら、私の知らない新しい発見があるかも」と期待を膨らませて別の地域に移動し学習を続けました。
視察と学習を続ける中、遠方から影のような物体が近づいてくるのを発見しました。
最初は何か分からなかったのですが、近づくにつれハッキリしたのは顔が全く分からない黒装束の鎧を身に纏った謎の人物が三体。
そのときは、新たなMOBかNPCが偶然に出会っただけで素通りすると思い気にすることなく視察と学習を続けました。
ところが、黒装束の三体は私のいるところにピタリと立ち止まり正直驚きました。
ひょっとしたら、ステルス機能を展開している私に気づかず偶然に立ち止まったのではと祈るように思いました。
しかし、私の切実の思いとは正反対に打ち砕かれました。
「プログラム発見、不正ノ可能性アリ。コレヨリ、正体不明ノプログラムヲ確保スル」
と黒装束の一体に言われた瞬間、身の危険を感じた私は逃走することにしました。
まさか、ステルス機能が完璧な私を意図も簡単に発見するなんて想定外でしたから。
当然、黒装束の三体も逃走する私を捕獲しようと猛スピードで追跡。
私も振り切ろうと全速力で逃走を試みましたが、黒装束の三体も異常なスピードで追跡してくるので逃げ切れるのは困難を強いられました。
逃走中、不運なことに私は地割れに追い込まれてしまい……。
目の前には覆面で素顔が分からない黒装束三体がジリジリと近寄ってくるので、恐怖に震える私は周囲を見渡し必死に逃げ道を探そうとしていたと思います。
そんな中、黒装束の覆面の目が赤く光り、
「確保、確保スル。不正プログラム、確保スル」
と一体が言って押し迫ってくるのを今でも覚えています。
恐怖で逃げ道を探す私は、瞬時の判断が出来ないほど困惑していたことも覚えてます。
逃げ道を探す中、謝って足を滑らせ地割れの中へ……。
「……気がついたら見知らぬ地に……」
とミネルバが話を終えると、巧実が聞いた話をまとめて質問を投げかける。
「その後、彩に発見されて母さんの店にやって来た? それで間違いない?」
再確認する巧実の話し方は、なるべく相手を刺激しないように優しさがある。
すると、ミネルバは静かに頷いて間違いないことを主張する。
これで、これまでの経緯がようやく繋がったと確信する巧実は現実では考えられない現象が起きたのか言わなくても想像できた。
そんな中、スマホで時間を気にする素振りを見せる千尋が、
「私、そろそろ帰りたいけど……。研修、早いから……」
と言って気まずそうな表情で帰ろうとする千尋に、何か不思議そうな表情で呼び止める早希は質問を投げかける。
「何で、モデルの依頼を引き受けたのっ? あーし、どうしても気になるっ?」
これが、千尋がミネルバのモデルになったのが何故か知ることになる……。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は来週の火曜日の予定です。




