5-3 迷い人を連れてきた女子中学生
前回の続きになります。
退店しようとする若い女性客の前に姿を現す隣近所の幼馴染みが連れてきた謎の人物が騒動を巻き起こす会となります。
のれんを仕舞おうとする巧実だが、彩が困った表情で入店しようとする。
「彩も分かっていると思うが、今日は閉店だぞ」
と言って入店しようとする彩を追い払う巧実。
ところが、彩は困った表情を崩すことなく首を横に振って巧実に訴える。
「タク兄っ、ボク拾っちゃったけど……」
「拾ったっ? 落とし物だったら、交番に届ければいいだけなのにっ?」
と巧実が言って困惑したとき、彩は後ろから引き連れた人を店頭へ連れ出す。
彩が連れてきた人を見た瞬間、巧実は驚き退店しようとする千尋の顔を見比べる。
なんと、彩は落とし物を拾ったのではなく見知らぬ人物を発見したのだ。
どうやら、彩は困り果てて巧実に相談を持ち掛けるべく連れてきたようだ。
困惑する巧実の背後から香苗が姿を現し、
「巧実、どうしたの? 早く、のれんを仕舞いなさいっ!」
と言って注意してきた。
そのとき、千尋と瓜二つの謎の人物を見た瞬間に疲れが何処かへ吹き飛ぶくらい驚く。
「あれっ、水戸さんは退店するというのにどういう事っ? 彩ちゃん、説明してっ!」
と言って香苗は、困り果てた表情をする彩に問い詰める。
すると、困り果てた彩が事情を話し出そうとする。
そこへ、千尋が店頭前で集まっている巧実達三人のところへ姿を現す。
「ちょっと、出られないから退いて……。えっ?」
と言って退店しようとする千尋だが、自分と瓜二つの迷い人を見て一瞬で言葉を失う。
巧実だけでなく、その場に居合わせた香苗や彩も驚愕の余り一時的に言葉を失い退店しようとする千尋と対面する謎の女性を何度も見比べる。
同じ顔、同じ髪型、同じ背丈やプロポーション、唯一の違いは身に纏う衣装のみ。
騒々しい都会の中で、店頭前で居合わせた四人の沈黙が唯一の静寂が支配する。
その静寂を崩したのは巧実である。
「とっ、とりあえず、みんな中に入って事情を……。母さんっ!」
「そっ、そうね。彩ちゃん、話を聞かせてくれるっ?」
と言って香苗は、退店しようとする千尋や巧実と彩を店内に入れるのであった。
こうして、店内に戻された千尋は彩が連れてきた謎の女性と隣り合わせでカウンター席に再び腰を下ろす。
その二人を取り囲むように、巧実と彩と香苗の三人が陣取っている。
対面式の厨房側に立つ香苗は、不思議そうな顔でカウンター席の店頭側に席を取る彩に質問する。
「話してくれる? 水戸さんとそっくりな人を発見した当時のことを?」
すると、重苦しい表情を見せる彩は正直に話し始める。
「ボクが彼女を発見したのは部活帰りで……」
部活の友達と別れたボクは家に帰る途中、隣り合わせの雑居ビルから目映い光が見えて気になって思わず寄り道したの。
そうしたら、白いウエットスーツを着た女性が倒れているのを発見して……。
最初、「ウエットスーツを着た女性が?」と口から出そうなくらいに疑問に思った。
当然でしょう、街中でウエットスーツを着ることなんて考えられないから驚いた。
ボク、何か事情があると思ってスマホで救急車を呼ぼうとしたの。
ところが、充電するのを忘れてスマホのバッテリ残量が十%しかなく……。
でも、倒れている人を見過ごすことが出来なくて……。
ボクの中で格闘している中、白いウエットスーツのような服を着た女性が突然起き上がって周囲を見渡してきたから、驚きの余りボクの頭の中から「逃げる」っていう選択肢が完全に消え身構えることしか出来なかった。
それなのに、白いウエットスーツを着た女性はボクがいることに気づいていないのか周囲を見渡すだけで何も反応しない。
その様子を見たボクは、気になって声を掛けてみた。
「あっ、あの……。あなたは誰……っ? 一体、何処から……っ?」
すると、白いウエットスーツを着た女性がボクを見て意味不明なことを言い出したの。
「ここ、何処ですかっ? 私っ、ゲームのアプリケーションを探索してっ?」
このとき、なんらかの事件に巻き込まれたと最初は思っていた。
仮にそうだとしたら、絶対にウエットスーツみたいな服で街中を徘徊するはずはない。
そう思って、雷門前の交番に彼女を連れて行くことにしたの。
でも、交番には誰一人いなくて……。
「……仕方なく、タク兄のところへ……。閉店間近は理解できるけど、頼れるのはタク兄と香苗オバさんしかないと……」
と話す彩の暗い表情を見た巧実は、
「しかし、何で俺達に……? 警察がダメなら家族に話せば……」
と言って再び面倒事に巻き込まれそうな困惑する表情を見せる。
先日、ゴールデンウィークでの事件に巻き込まれた事があり出来れば避けたい。
だが、このまま放置するわけにも行かず何とかしたい。
彩の家庭の事情を知る香苗は、
「無理よ、彩ちゃんの両親共働きだから」
と言って困惑する巧実に理解を求める。
香苗の話を聞いた瞬間、何かお思い出したように項垂れる巧実。
「そうだった……。彩の親父は地方に単身赴任中、母は広告代理店で帰るのが遅いって……。結局、頼りは俺達のところか……」
「一応、彩ちゃんの両親にも連絡する予定。前回の件で報告したとき、彩ちゃんの両親から「ご迷惑掛けて申し訳ない」と何度も謝れて宥めるのに苦労したわ」
と言って香苗は前回の事件について困り顔で思い返す。
香苗の話を聞いた巧実は、重苦しい表情で千尋と白いウエットスーツを着た女性を何度も見比べるしか出来なかった。
しばらくして、千尋が困った表情で巧実と香苗と彩の三人に訴える。
「……あっ、あの……。私、いつまで……。早く帰りたいけど……」
その困惑した表情は、無関係の事件に巻き込まれた気分と重苦しい状況から逃げたい気分を現している。
それでも、改めて二人の女性を見比べる巧実は沈黙した雰囲気を打ち破る。
「それにしても……。えっ? これって、どういう事っ? まさか、双子っ?」
と言って目を丸くする巧実は、テーブル席の若い女性客二人を何度も見比べる。
こうして、冒頭の一件と繋がり後に紬久美と早希と未琴の三人が来店することに。
紬久美と早希と未琴の三人は、テーブル席に座る千尋とASIと名乗るミネルバを見比べて何がどうなっているのか困惑した表情を見せる。
既にのれんを仕舞い営業終了の看板を店頭に吊したばかりで、店内には迷子のミネルバを囲むように巧実達が席に座る。
巧実と香苗と彩の三人は、後から来店した紬久美達三人に経緯を正直に話し白いウエットスーツを着た若い女性が開発中のASIのミネルバだと伝える。
後から来店した紬久美が、
「信じられないけど、白いウエットスーツを着た若い女性って開発中のASIっ? 仮にそうだとしても、現実的に考えたら想像の斜め上の展開よ」
と言って信じることが出来ない素振りを見せる。
普段は場の空気を読まない早希でさえ目を丸くした表情で言葉を失い、困惑する千尋と依然として無表情を崩さないASIと主張するミネルバを見比べるのみ。
そんな中、意外な事に未琴だけは冷静沈着で沈黙する巧実達に意見を言い述べる。
「彼女が仮に開発中のASIだとしても、まだ詳しい事情を聞いてはいないのでは? なぜ、彼女が迷子になったのか? そして、現実世界にやって来たのか? まずは、彼女の話を聞くべきでは?」
未琴の主張を聞いた瞬間、巧実はミネルバから話を聞いていないことに今気づき、
「そう言えば、ミネルバから話を全く聞いていなかった。確かに、事情を聞かなければ原因が何か全く掴めない」
と言って痛いところを突かれた表情を見せる。
香苗や彩も巧実と同様、ミネルバが迷子になって現実世界に転がり込んできたのか全く聞いていないことに気がつく。
「そう言えば、千尋さんとソックリで素性や経緯を聞いていなかったわ」
と言って今気づいたような素振りの香苗に、
「言われてみれば、彼女について何も聞いていなかったっ! ボクっ!」
と彩が言って肝心なことを聞いていない。
ここで、何かを思い出したように早希が喋り出す。
「そう言えば、髪が青白く光っていないっ! あーし、配信動画で髪の毛が青白く光っているの見たことあるっ!」
なんと、髪が青白く光っていないことを指摘され自らミネルバと名乗る若い女性が本物のASIではない可能性が浮上してきた。
だが、真意を確認しなければ本当か否か判断が出来ない。
巧実は、ミネルバの事情を聞くべく話し掛ける。
「ミネルバと言ったよね、君。とにかく、教えて欲しい。君が何者か? そして、どのような原因で現実世界に来たのか?」
すると、ミネルバと名乗る若い女性が話を始める。
「私が開発された場所は、某研究機関の最新鋭と呼ばれる設備の整った研究室。私は、何もない電脳空間でユーノとクレイアと共に誕生しました」
巧実や居合わせた人達は、語り始めるミネルバに耳を傾けることになる。
ご覧いただき有り難うございます。
次回は今週の土曜日の予定です。




