第四話 厄日
「コイツ……喰霊だ」
――その瞬間。
「グオォォォォォォ!!!」
喰霊が咆哮し、ビリビリと体育館の窓ガラスが震える。
「うっるせ……」
ユイは思わず両手で耳を塞ぐ。
――次の瞬間。
ドンッ!!
喰霊が床を蹴り、ユイめがけて勢いよく突進してくる。
直撃を察知した瞬間、なりふり構わず右側へと身体を投げ出した。
ドゴォォォォン!!!
容赦なく振りおろされた腕が、体育館の床を砕く。
「ッぶねぇな野郎!」
先ほどまで立っていた床には、凄まじい音とともに、激しい亀裂が走る。
「コイツ……とろいけど、パワーだけなら桁外れだな」
さっき喰ってた霊をもう吸収してんのか?
ユイは体勢を整えて、右手の人差し指と中指を構えようとする。
「ッ痛ぇ……!」
やっぱ剣印は無理か。
標的を捉えた巨躯が、ゆっくりと数秒をかけて振り返る。
「ゲフゥゥゥゥ……」
口からはみ出ていた浮遊霊の四肢が床にこぼれ落ちる。
ボトッ、ボトッ。
「ゲッ……きも」
見上げるほどの高さにある頭部が正面を向くと、六本の腕を同時に振り回しながらユイに飛びかかる。
「ちょ……反則だろそれ!」
ユイはキュッとゴム底が床を噛む音とともに、壇上ぎりぎりまで、後ろに飛び退いた。
「……っ」
まただ。ユイは視界が揺れ、一瞬よろめく。
再び喰霊がユイめがけて突進してくる。
ユイはよろめきながら、咄嗟に身を屈める。同時に、喰霊の大振りが頭上を間一髪で掠める。
「やっべぇぇ! 今の食らってたらマジお陀仏だわ」
喰霊はそのままボールカゴを薙ぎ倒し、体育倉庫の扉に激突する。
ドゴォォォォン!!
ボトン、ボトン、ボトン。
倉庫に運びかけのボールカゴから、バレーボールがいくつもこぼれ落ちた。
ころ……ころ……ころ。
ユイの元に、バレーボールが転がってくる。
「…………あ」
ユイはボールを拾い上げる。
「グオォォォォ!!!」
喰霊がまた、こちらに突進してこようと、咆哮を上げる。
「…………」
ユイはボールを構え、ゆっくりと目を閉じる。すると、ボールがオレンジ色に光り始める。
ユイの身体から、ゆっくりと気が流れ出すようにボールへと集まっていく。
光は次第に強くなり、ボールを包むように渦巻き始める。
ガタガタガタガタガタガタッ!!!
体育館中の窓ガラスが激しく震え始める。
まるで体育館そのものが、ユイの力に怯えているかのようだった。
ユイは上体を反らせると、思いっきりボールを振りかぶる。
「テメェはこれでも……喰ってろ、ハゲェェ!!!」
ボールは強い光を伴いながら、喰霊へと一直線に突き進んだ。
ドスゥゥゥゥンンン!!!!
ボールは喰霊に直撃し、凄まじい風圧と衝撃波が遅れてやってくる。
「ヴァァァァァァァ………」
断末魔の叫びとともに、喰霊は真っ黒な煤となって四散し、跡形もなく消滅していく。
「……なんか出来た」
「……マジ疲れた」
――その時。
ガラ、ガラッ。
体育館の扉が開く。
「……安倍?」
ユイがゆっくり扉の方に振り返る。
「………………」
あたりを見渡す体育教師。
床には大きな亀裂。
ひしゃげたボールカゴ。
体育倉庫の凹んだ扉。
そこらじゅうに散乱するボール。
体育教師が、手に持っていた保冷剤を落とす。
「…………」
「……あー。マジ厄日だわ」




