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オリヴァーの処刑

◇◆◇◆


 ────豊穣祭から、約一ヶ月後。

帝都の広場にて、オリヴァー・ハリー・ロックハート公爵の処刑が行われようとしていた。


(クソクソクソクソ……!何故、私がこんな目に……!公爵だぞ!?帝国の柱だぞ!?)


 ギロチン台の前に立つオリヴァーは、赤い瞳に強い怒りを滲ませる。

感情のままに野次馬を睨みつけるものの、大して怖がられなかった。

というのも、くたびれたYシャツ&ズボンとボサボサの紺髪という姿だったので。

威厳とか、貫禄とか一切なかった。


「────の罪状により、オリヴァー・ハリー・ロックハートを斬首刑に処す」


 とある男性が長い長い前置きを終え、処刑人に目配せする。

いよいよ、処刑だ。


「は、離せ……!私を誰と心得る……!」


 処刑人に無理やり膝立ちにされ、オリヴァーは抵抗する。

だが、しっかり手枷を掛けられている上、元々あまり力が強くないため無駄な悪足掻きだ。

あっという間に、ギロチン台の上に首が乗ることに。


「離せっ……!離せぇ……!」


 しっかり首が固定される。


(本当にこれで終わりなのか……!?私は……私は!)


 悔しさからか、それとも恐怖からかオリヴァーの目に涙が滲んだ。

そのとき────ふとローブのフードを深く被った集団が、視界に入る。


「!」


 オリヴァーは思わず、息を呑んだ。

と同時に、高揚する。


(一瞬だが、確かに顔が見えた!あれは間違いなく────私の子供達!)


 長男のクロウリー・カーレッジ・ロックハート、長女のナタリー・クラージュ・ロックハート、次男のティモシー・ムート・ロックハートを見つめ、オリヴァーは少しばかり頬を緩めた。


(そうか、そうか!私を助けに来たんだな!なかなかやるじゃないか!見直したぞ!)


 先程までの余裕のなさから一変、オリヴァーはすっかり助かった気で居た。

クロウリー達が……ロックハート公爵家が総力を上げて救出に来たのなら、もう何も心配はいらないと思って。


(……ん?どうして、何もしない?)


 異常に気づいたのは、ギロチンの刃が落とされてから。

こちらに駆け寄る訳でもどこかに指示を出す訳でもなくただただ突っ立っているクロウリー達を前に、オリヴァーは呆然とする。


(まさか────私を助ける気が、ないのか?)


 単に最期を見届けに来ただけという可能性に至り、オリヴァーは頭の中が真っ白になった。


(な、何故……?私はあいつらの家族で……)


 ザシュッとギロチンの刃が、オリヴァーの首を刎ねる。

その瞬間、巻き起こる歓声。


「これで……これで、もう私達を縛るものはない」


 無惨に転がるオリヴァーの頭部を前に、クロウリーは静かに呟いた。

すると、両脇に控えていたナタリーとティモシーが首を縦に振る。

三人とも、オリヴァーの死を悲しんでいる様子はなかった。

むしろ、清々していると言った方が適切に感じる。

家族に対して冷たいかもしれないが、これはオリヴァーの自業自得だ。

なんせ、クロウリー達はずっと彼のプライド(・・・・)コンプレックス(・・・・・・・)に振り回されてきたのだから。


 それぞれレクス・ルーク・プリシラと同性かつ同年代のため、『レーヴェン公爵家を越えろ』と常に言い聞かせられてきた。

だが、あの天才達に敵う筈もなく……あちらが功績を上げる度、オリヴァーに殴られていた。

彼だって、レーヴェン公爵家を越えられたことなんてなかったのに。ライアンと同性かつ同年代でありながら。

まあ、だからこそ『子供の世代で』と己の希望を託したのかもしれないが。

でも、そんなのクロウリー達からしたらいい迷惑だ。


「やっと、お母様(・・・)にいい報告が出来るわね」


「うん、お墓参り(・・・・)にも気兼ねなく行ける」


 ホッとしたような表情で空を見上げるナタリーと、少し涙ぐんでいるティモシー。

実はクロウリー達の母親ヴァレリー・サナーレ・ロックハート公爵夫人は、オリヴァーの暴力から彼らを庇ったことによって命を落としている。

本当に子供思いで、唯一オリヴァーに『この子達を殴らないでください』『もっとこの子達自身のことを見てあげてください』と意見していた人物だ。


「ああ、そうだな。帰ったら、一番に母上の元へ行こう。それで、少しだけ……本当に少しだけ休んだら、あの人の仕出かしたことを帳消しに出来るくらいグレイテール帝国に・民に貢献しよう」


 クロウリーはまるで自分に言い聞かせるようにそう言い、ゆっくりと踵を返す。

それに続く、ナタリーとティモシー。

────三人はしっかり前を向いて歩き、決して後ろを……オリヴァーの方を振り返らなかった。

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