嫌な人
「(何でワイアットまで!)」
身内のルークはさておき、ワイアットまで褒められるのは気に食わないらしい。
物凄い形相になるレクスを前に、ワイアットは頬を引き攣らせた。
「(す、凄い睨まれている……!)め、滅相もございません!全ては、レクスお坊ちゃまとルークお坊ちゃまのおかげです!我々だけでは、これほど強固な警備体制は築けませんでした!」
これでもかというほど背筋を伸ばし、ワイアットは必死にレクス(とルーク)を持ち上げた。
────と、ここでルークが顔を上げる。
「まあ、強固な警備体制だったからこそあっちは回りくどい手を使うしかなかったんだろうけどね」
「それって、自作自演のこと?」
毒の騒動を思い浮かべて尋ねるプリシラに対し、ルークは頷く。
「ああ、本来はあれでレーヴェン公爵家の信用を地に落とす算段だったんだよ。でも、返り討ちに遭って仕方なく最終手段────護衛騎士による襲撃を行った」
「襲撃と言っても、本当に軽くよ。『パーティーの会場で暴力沙汰が起きた』という事実だけで、レーヴェン公爵家の名を落とすには充分だったでしょうから」
ヘイゼルは補足を行い、小さく肩を竦めた。
ちなみにライアンとレクスの脳筋コンビは、沈黙している。
恐らく、詳細については分からない……もしくは、忘れてしまったのだろう。
そんな二人を他所に、ルークはソファの上で足を組んだ。
「何より、長居すると捕まる可能性が高まる。それで襲撃犯の正体がバレれば、さすがにロックハート公爵も無関係では居られない」
「だから、当初の予定では数人を軽く切りつけたら即退散。ロックハート公爵も、護衛騎士のアリバイ工作のため即避難する手筈だったらしいわ。『護衛騎士と一緒に逃げた』という体にして、彼らの不在を疑われないように」
「そのあとは、指定の場所で護衛騎士と合流して高みの見物を決め込むつもりだったみたいだね」
パーティー襲撃の詳しい説明を終え、ルークは紅茶を飲む。
ヘイゼルも、執務机の上にあるティーカップを手に取った。
「ふーん?ロックハート公爵って、嫌な人だね。全く関係ない人達を巻き込もうとしてさ」
怪我人こそ出なかったものの、それでも釈然としない気持ちになるプリシラ。
ちょっと表情を曇らせる彼女の前で、ヘイゼルが一つ息を吐く。
「そうね。物流操作や自作自演だけならまだしも、ダンジョン事件やパーティー襲撃はさすがに目に余るわ」
「あっ、豊穣祭の準備を邪魔したのもロックハート公爵だったの?」
「ええ」
「本当に嫌な人だね」
心の底から出た言葉。
プリシラは珍しく、拒否感を露わにした。
『そいつ、懲らしめてこようかー?』
『もう二度と悪さ出来ないようにしてあげるー!』
『こうやって、首をチョキンって切ってねー!』
「ううん、大丈夫。気持ちだけ、受け取っておくね」
殺意高めな精霊達を宥めるプリシラに、彼らは不満を見せる。
『えー!でもでも、放っておいたら絶対また悪さするよー!』
『それに、あいつがダンジョンの犯人なんでしょー?』
『プリシラを危険な目に遭わせたやつを野放しには、出来ないよー!』
「そこは安心して。お母様達の方で、しっかり罰してくれる筈だから」
野放しにはならないことを伝え、プリシラは精霊達を制止した。
すると、ヘイゼルがすかさずこう言う。
「ええ、もちろん。ロックハート公爵やモリス男爵夫妻をはじめ、ダンジョン事件に関わった貴族達も全員処刑する予定よ」
プリシラの発言から精霊達の反応を感じ取ったようで、ヘイゼルは内心ちょっと焦っていた。
処刑前に不審死なんてことになれば、色々と厄介なので。
「ほらね────あっ、魔物の複製具を設置した人達はどうなるの?やっぱり、処刑?」
プリシラは精霊達を納得させつつ、ふと疑問に思ったことを問い掛けた。
と同時に、ルークがカチャリと眼鏡を押し上げる。
「いや、そいつらは終身刑。減刑を仄めかして、情報を引き出したから少しだけ大目に見た」
「帝国内で、最も厳しい監獄に移送される手筈になっているわ」
精霊達に処罰が軽いと思われないよう、ヘイゼルは説明を付け足した。
なので、とりあえず彼らは矛を収める。
ブーブー文句は垂れているが。
「そっか。そこでちゃんと、悔い改めてくれるといいな」
不意に窓の外へ視線を向け、プリシラはスッと目を細めた。




