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最後の演出

「生け捕り。三秒」


 ルークは端的に指示を出し、魔法で会場の明かりと音を消し去った。

その瞬間、レクスが弾丸のように中へ駆け込む。

困惑する周囲の人々を尻目に、例の騎士達へ近づき、剣の柄や拳で殴打した。

一瞬にして気絶する彼らを、今度はルークが魔法で廊下に運び出す。

いや、放り投げると言った方が正しいかもしれない。


「────会場の皆様、空をご覧ください。プリシラの手掛ける、最後の演出が始まります」


 真っ暗なまま音だけ元に戻し、ルークは視線を誘導した。

その刹那、レクスが勢いよく後ろを振り返る。


「なんだと!?」


 誰よりも早く反応を示し、レクスはバルコニーに駆け戻った。


(いや、何で兄上が驚いているんだよ……さっき、プリシラに演出の発動を早めるよう頼んでいたの忘れた?)


 隣に立つレクスを見つめ、ルークは小さく(かぶり)を振った。

呆れ顔の彼を他所に、周囲の人々はパチパチと目を瞬かせる。


「あれ?今、レクス様の声がしたような……?それに、ルーク様も」


「プリシラ様の演出見たさで、戻ってきたのかしら?」


「本当に家族思いなのね」


「それより、演出って一体何かしら?」


 不意に窓の外へ視線を向ける周囲の人々。

ちょうど、そのタイミングで最後の演出が発動し────夜空に一つの苗を映し出す。


「「「おお……!」」」


 周囲の人々はもちろん、ルークやレクスまで思わず感嘆の息を漏らした。

花火よりずっと精巧な“絵”に、心を奪われて。


(予め何をするのか聞いてはいたけど、ここまでとは)


 プリシラの技術力に目を見張るルークの前で、レクスは子供のように無邪気に笑う。


「素晴らしいな!さすが、プリシラ!」


 これでもかというほど目を輝かせ、レクスは絵を凝視した。

周囲の人々も、興奮したように感想を述べる。


「会場の明かりを消したのは、この絵を見やすくするためでしたか!」


「最良の環境を用意してくださって、感謝ですな!おかげで、いいものが見れました!」


「それにしても、一体どういう原理でこうなっているのでしょう?」


「花火のように一瞬でもなければ、音もしない……全く別の手段を用いていると見て、間違いありません!」


 すっかり夜空に夢中な周囲の人々は、ルークの目論見通り暗転も演出の一部と解釈し、裏の騒動に気づかない。

────と、ここで夜空の絵が動きを見せる。

豊穣の女神ヴィヨスナを模した女性が現れ、苗を撫でたのだ。

それにより、蕾がつく。

続いて、彼女は『ふぅー』と吐息を吹き掛けた。

これで、二倍くらい成長。

最後に、豊穣の女神ヴィヨスナを模した女性は苗を優しく抱き締めた。

すると、花が咲く。


「綺麗……」


 誰かも分からない呟き。

だが、間違いなくこの場に居る全員の総意だった。

そんな中、月がオレンジ色の光を放つ。まるで、太陽のように。

ハッと息を呑む周囲の人々の前で────満開の花が、夜空一面を覆い尽くすように現れた。


「な、なんという……!」


「美しい!実に美しい演出だ!」


「まさに神の御業とも言うべきものだわ!」


「嗚呼、本当に今日ここに来られて良かった!」


 僅かに頬を赤く染め、周囲の人々は感動を露わにする。

────しばらく夜空はそのままだったものの、不意に豊穣の女神ヴィヨスナを模した女性がクスッと笑って消えた。

それに伴い、他のものも姿を消し、普通の夜空に戻る。


(最後の演出はこれで終了だが、後始末の方は……)


 夜空を一瞥し、ルークは会場の出入り口に目を向けた。

すると、レーヴェン公爵家の騎士が親指を立てて合図する。


(済んでいるみたいだな)


 先程、廊下に放り出した例の騎士達の拘束・移送。

それに、戦闘で乱れたり汚れたりした場所の清掃。

ここまでやれば、この場で何かあったとは分からない筈だ。


(なら、もう明かりをつけても大丈夫だろう)


 カチャリと眼鏡を押し上げ、ルークは魔法を……会場の明かりを遮っている闇を解く。


「最後の演出は以上になります。ご観覧、ありがとうございました」


 ルークは一応、締めの言葉を口にした。

その瞬間、レクスが割れんばかりの拍手をする。


「凄く良かったぞ、プリシラ!!!俺の見てきた夜空の中で、一番綺麗だった!!!」


 この場に当人は居ないものの、言わずにはいられないようで盛大に賛美するレクス。

それに触発されたのか、周囲の人々も拍手と賞賛を送る。


「素晴らしい一時(ひととき)をありがとうございました!」


「プリシラ様のお作りになった景色、決して忘れません!」


「今日の出来事はきっと、後世まで語り継がれることでしょう!少なくとも、孫の代までは語り継ぎますぞ!私が!」


「嗚呼!許されるのなら、あの夜空を絵画にしたいものですわ!」


 興奮冷めやらぬ様子の彼らに、レクスは『そうだろう、そうだろう!』と大きく頷く。

ライアンも、腕を組んで顎を逸らしていた。


「「(何で二人が得意げなの?)」」


 ルークとヘイゼルは呆れたような表情を浮かべ、小さく息を吐く。

────その後、無事にパーティーは終了。

未だにあの演出の余韻が抜けない招待客達は、頻りに空を見上げながら帰って行った。

────ただし、例の騎士達とその主人である貴族、それから自作自演を行った夫婦は除いて。

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