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脳筋の本領発揮

「な、なら……食べ物!食べ物はどうなんですか!?」


 会場の一角にある料理の山を指さす赤髪の女性に対し、ヘイゼルはどこか残念な子を見るような目を向けた。


「あなた方は料理に手をつけてなかった筈ですけれど」


「そ、れは……!」


 さすがに言葉に詰まり、赤髪の女性は唇を引き結ぶ。

右へ左へ視線をさまよわせる彼女の前で、ヘイゼルはそっと口元に扇を持ってきた。


「仮に手をつけていたとしても、この殿方だけに毒を盛るのは至難の業です。今回は完全に立食式で、いつ誰がどんな料理や食器を選ぶのか分かりませんから」


 あまりにも破綻した言い分であることを説き、ヘイゼルはバサッと扇を広げる。


「何より、今回の料理には全て────オラシオン神聖国より、取り寄せた聖水(・・)を使っていますから」


 聖水とは、魔法薬の一種で最強の予防薬だ。

どんな病や毒も弾くため、摂取すれば怪我以外の体調不良に陥らなくなり、振り掛ければその箇所だけ衛生面を保たれる。人でも、物でも、料理でも。

ただし、効果時間は三時間程度と短い上、かなり優秀な薬師と入手困難な材料を揃えなくてはならない。

だから、大陸全体で計算しても年間二十本くらいしか生産されない。


「(料理に混ぜて使った、ということか……!?なんて、大胆な……!)」


「(絶対に一本や二本の話じゃないわよね……!?料理の試作でも使ったでしょうし、間違いなく二桁は行っている筈……!)」


「(聖水代だけで、軽く国家予算を越えているんじゃないか……!?)」


「(何より、それだけの聖水を集められる手腕が凄まじい……!)」


 周囲の人々は一様に息を呑み、ヘイゼルと料理を交互に見た。

もはや毒の話なんて眼中にもなくなる中、赤髪の女性が必死に声を絞り出す。


「……確かにその予防策なら、毒の混入は難しいでしょう────本当に聖水やノーヴァ帝国の特産品のグラスが使われていれば、ですけど!」


 注文した上で偽物を使ったのでは?という疑念を提示し、赤髪の女性は食い下がった。

実にみっともない悪足掻きを前に、ヘイゼル────ではなく、ライアンが反応を示す。


「まだ言うか!さすがに往生際が悪すぎるぞ!」


 舌戦は得意じゃないため静観していたものの、ついに堪忍袋の緒が切れたライアン。


「(素直に非を認めぬどころか、ヘイゼルを軽んじるような態度ばかり取りおって!これ以上は、我慢ならん!)そこまで頑なに認めないなら、私自ら毒なんて入ってなかったことを証明してみせよう!」


 そう言うが早いか、ライアンは床に転がっていたグラスを手に取った。

かと思えば────残っていたワインを一気飲み。


「「「!?」」」


 これには、周囲の人々はもちろん、赤髪の女性も絶句した。

ただ、数名冷静に様子を見ている者達が。


「(なるほど!実際に口をつけてみせることで、安全性を示しているのか!)」


「(一応、公爵なのに体を張り過ぎでしょ。それに他人が飲んだ挙句、床に落ちたものなんてよく飲めるね)」


「(大事な証拠品だから残しておいてほしかったけれど、しょうがないわね。いいパフォーマンスになりそうだし、大目に見ましょう)」


 『その手があったか!』と感心しているレクス、ちょっと引いているルーク、やれやれと(かぶり)を振るヘイゼル。

そんな三人を他所に、ライアンは食事コーナーに突っ込んで行った。

どうやら、今度は料理の毒味をしてみせるつもりらしい。


(まさかとは思うけど、あれ全部食べるの?)


 まだ八割ほど残っている料理を見やり、ルークは僅かに頬を引き攣らせる。

『軽く見積もっても、二十人前はあるんだけど……』と思案する彼の前で、ライアンは脳筋の本領発揮。

あっという間に全て平らげた。


「どうだ、これでもまだ認めないか!見ての通り、私はピンピンしているぞ!」


 腰に両手を当てて、ライアンは胸を反らす。

と同時に、赤髪の女性がハッと顔を上げた。


「わ、私は……!」


 ゆらゆらと瞳を揺らし、赤髪の女性は何か言い返そうとする。

そんなとき、どこからともなく『はぁ……』と深い溜め息が聞こえてきた。


「まだ足掻くつもりか?」


「さっさと認めてほしいものだな」


「いい加減、見苦しいわね」


「大体、治療より反論を優先した時点で自作自演なのは見え見えなのよ」


 ライアンのパフォーマンスが効いたのか、はたまたこの茶番に飽きたのか周囲の人々は冷ややかな目で赤髪の女性を見る。


「っ……」


 誰一人として味方の居ない状況に、赤髪の女性はもう何も言えなくなった。

ギュッとドレスのスカート部分を握り締めて俯く彼女を前に、ヘイゼルが内心肩を竦める。


「ところで、そろそろ本当に解毒剤を飲まないと命に別状はなくても後遺症は残るかもしれませんよ」


「!」


 弾かれたように倒れている男性の方を向き、赤髪の女性は胸元から小瓶を取り出した。

『そんなところに隠し持っていたのか』と驚く周囲の人々を他所に、彼女は小瓶の中身────解毒剤を倒れている男性に飲ませる。

これが、自作自演であることを認める最終的な決定打となった。


(さて、これでもう本命の作戦は使えなくなったけど、黒幕はどう出る?諦める?それとも────最後まで、もがくか?)


 最終手段という名の予備プランくらい用意している筈なので、ルークは気を抜かずに警戒する。

────と、ここで壁際に控えていた他家の騎士達が無駄に長いマントを外した。

かと思えば、姿を隠すように頭から羽織り、剣を抜く。

そのことに気づいているのは恐らく、黒幕を除けばルークとレクスだけ。

他の人達はまだ赤髪の女性に注目しているから。


「生け捕り。三秒」

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