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赤髪の女性

◇◆◇◆


 ────時は少し遡り、プリシラと別れたあとのこと。

ルークとレクスは予定通り警備の騎士達と合流し、会場内外に目を光らせていた。


(今のところ異常はなし、か。そろそろ、動きがあっても良さそうなのに)


 無人のバルコニーからそっと様子を窺うルークは、小首を傾げる。

その横で、レクスが『ふわぁ……』と欠伸をした。


「なあ、まだ掛かりそうか?なら、ちょっと走り込みに行きたいんだが(それで、プリシラの様子を見に行きたい!)」


「寝言は寝て言え、脳筋。その走り込みに行っている間に、ことが起きたらどうするつもりなの?」


 実にマイペースなレクスを軽く睨み、ルークは腕を組む。

────と、ここで会場内から悲鳴が上がった。

慌ててそちらに視線を向ければ、倒れている男性が目に入る。

その傍らには、ワインの零れたグラスが。


「毒……!毒よ、これは!」


 倒れている男性の隣で、声を張り上げるのは赤髪の女性だ。

恐らく、彼の妻だろう。


「おっ?出番か!」


「待って。ここは母上達に任せよう。僕達は引き続き、周辺の警戒だ」


 今にも飛び出していきそうなレクスを静止し、ルークは待機する。

毒関連は正直、力になれる気がしないので。

何より、人々の視線が一点に集中した今こそ危険なときだから。

そんな中、ヘイゼルとライアンが倒れている男性の元へ足を運ぶ。


「(この泡、この痙攣……毒を飲んだのは、事実のようね。症状からして、ラアルの一種みたい。命に別状はなさそうだわ)このような騒ぎを起こされては困りますわ、夫人。早く解毒剤を飲むなり、何なりしてください」


 この毒に効く何かを持っている前提で話すヘイゼルに、赤髪の女性は一瞬固まった。

が、直ぐに平静を取り戻して言い返す。


「何ですの、その言い草は!レーヴェン公爵家の主催するパーティーで毒殺事件が起きたのですよ!?それを……!」


「あなた方の自作自演(・・・・)まで、こちらの落ち度のように言われては困りますわ」


「!?」


 思わずといった様子で、目を見開く赤髪の女性。

その傍で、ライアンもクワッと目を見開く。


「そうだったのか!?」


「「「(いや、アンタは知らなかったのかい)」」」


 周囲の人々は堪らず心の中でツッコミを入れ、ライアンのことを横目で見た。

ちょっと呆れている様子の彼らを他所に、ルークは頭を捻る。


(まだ黒幕は動き出さないか。もしかして、この騒ぎが本命?厳重に警備された会場で派手に暴れるのはリスクが大きいから、怯んだか。それに毒関連のトラブルは色々と厄介だ、上手く行けばこちらにダメージを与えられる)


 あちらの自作自演だとしても、この場で(・・・・)嘘であることを証明出来なければ多かれ少なかれ名前に傷がつく。

何より、パーティーは中止……もとい、豊穣祭は失敗に終わるだろう。

さすがに『毒が混入されているかも?』という疑惑を持ったまま、続行は不可能なので。


(あとあと無実を証明出来ても、もう遅い。だからこそ、今どう動くかが重要になる。まあ、母上なら問題ないだろうけどね)


 あまり心配していないルークは、このまま警戒を続ける。

レクスもそれに倣う中、赤髪の女性が僅かに表情を硬くした。

いや、強ばらせたと言った方が正しいかもしれない。

ヘイゼルに対して、不安と困惑を抱いているようだから。


「な、何を根拠にそんな……!」


「自ら飲まない限り、毒の摂取なんてこの場では不可能だからです。私達は招待客の皆様の安全を考え、予防策を取っていますので」


「予防策?まさか、食器を銀製にしたとかそんなレベルのお話じゃありませんわよね!?」


「ええ、それも一つの方法として使っていますが、他にも手を打ってありますよ。例えば、そのグラス」


 床に転がったグラスを、扇の先端で示すヘイゼル。


「特殊な加工が施してあって、特定のワインと水以外の成分が触れると黒く変色します」


 どう見ても半透明なグラスを前に、ヘイゼルは『だから、毒は盛られていない』と主張した。

すると、赤髪の女性がすかさずこう切り返す。


「それって、もしかしてプリシラ嬢の作ったものですか?なら、いくらでも小細工が……」


「残念ながら、このグラスはプリシラの作ったものじゃありませんわ。ノーヴァ帝国の特産品ですよ」


 肩を竦めて答えるヘイゼルに、周囲の人々は『おお!』と感嘆の声を上げる。

ワインの産地で有名なノーヴァ帝国が、自国のワインと水以外受け付けないグラスを販売しているのは広く知られた話なので。

生産コストの関係上、販売個数が限定されていることもあって大変貴重。

ワイン好きの一部のマニアにとっては、喉から手が出るほど欲しいものだ。


「信じられないなら、納品書でもお見せしましょうか?」


「っ……」


「ちなみにグラスは今朝届いたばかりですので、改造なんて不可能ですよ。いくらプリシラでも、時間が足りませんわ」


 あちらが難癖つけてきそうな部分を、予め弁解しておくヘイゼル。

『このくらい、想定の範囲内よ』と余裕な彼女を前に、赤髪の女性は言葉に詰まった。

でも、ここで自作自演だと認めれば周りに白い目で見られるどころの話じゃないので何とか反論の糸口を探す。


「な、なら……食べ物!食べ物はどうなんですか!?」

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