豊穣祭
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────同時刻、プリシラの自室にて。
パチパチと何かが弾ける音と焦げたような臭いが空間を満たし、丸い玉が転がった。
その中央で、プリシラは頭を捻る。
「う〜ん……さすがにこの量は無理があったのかな?でも、出来れば妥協はしたくないし」
『なら、出来るまでやろー!』
『いくらでも、付き合うよー!』
『だから、諦めないでー!』
励ますように、プリシラの肩や頭をトントンと叩く精霊達。
その優しさに、プリシラは元気をもらった。
「うん、ありがとう、精霊さん達。私、頑張るね」
明るく笑って気を取り直し、プリシラは失敗作の丸い玉を横に捌ける。
その傍で、精霊達は満足そうな表情を浮かべ、室内の換気を行った。
さすがにちょっと我慢出来なかったらしい。
(一番の問題はやっぱり、量だよね。限界以上に詰め込んじゃって、暴発している感じ)
材料や器具が乱雑に置かれたテーブルを見つめ、プリシラは両手の指先同士を合わせる。
「器のサイズを大きくする?けど、今以上となると筒も作り直さなきゃいけないんだよね。それは発射スペース的に難しい」
チラリと壁際にある複数の筒を見て、プリシラは『これより大きくなったら、収まり切らない』と思案した。
「やっぱり、めちゃくちゃ圧縮するしかないね」
今の時点でかなり圧縮しているため、普通なら他の手立てを考えるところだが、プリシラは正面突破するつもりみたいだ。
案外、彼女も脳筋なのかもしれない。
(一先ず、これまでのように器へ火薬の粒と爆発薬を詰めて……)
作り置きしておいた火薬の粒が入った袋と爆発薬が入った袋を持ち上げ、プリシラは空の丸い玉(半分に割れた状態)を引き寄せる。
慣れた手つきで指定の場所に諸々配置し、彼女は表情を引き締めた。
「問題はここから」
見事に溢れている火薬の粒と爆発薬にそっと触れ、プリシラは手のひら全体から魔力を流し込む。
(まずは、素材に含まれる成分の中で不要なものを魔力で無理やり分解・空中に放出して……まあ、加工するときにそういうのは大分抜いているからほとんど意味ないけどね。でも、やらないよりはマシな筈)
この僅かな差で変わるかもしれないため、プリシラはきちんと全て行った。
(次は本題の圧縮。成分同士の間隔をもっと狭めて、空いたスペースの分だけ素材そのものをギュッと縮める)
魔力で成分を無理やり動かし、プリシラはひたすら圧縮。
限界を超えて、圧縮。
もはや別物なのでは?と思うくらい、圧縮。
その際、何度か失敗して作り直したものの────
「────成功」
しっかり丸い玉に収まった火薬の粒や爆発薬を見下ろし、プリシラはスッと目を細めた。
その瞬間、精霊達が拳を振り上げたりハイタッチしたりして喜ぶ。
『『『やったねー!』』』
「うん。精霊さん達が付き合ってくれたおかげだよ、ありがとう」
花が綻ぶような笑みを浮かべ、プリシラは丸い玉の側面を撫でた。
そして、最後にしっかり蓋を閉めて完成。
(あとは他の丸い玉にも同じように圧縮を施して、本番を待つのみだね)
別の演出に必要なものは既に制作済みのため、プリシラは『あともう一頑張りだ』と意気込んだ。
────それから、数週間後。ついに豊穣祭当日を迎える。
「筒よーし、丸い玉よーし」
発射スペースとして割り当てられた屋敷の裏手にて、プリシラは指差し確認を行った。
等間隔に置かれた筒や、それに入れられた丸い玉を見ながら。
「着火準備ー!」
『『『はーい!』』』
元気よく返事して、筒の真上に火種を作る一部の精霊達。
ちなみに『一部』なのは、全員でやると火力増し増しで大惨事になるからだ。
なので、事前に誰が着火を行うか決めていた。
「点火!」
『『『おー!』』』
手を振り下ろすような動作をして、一部の精霊達は筒の中に火種を投げ込む。
その刹那、筒から丸い玉が打ち上げられ、上空で弾けた。
すると、色とりどりの火花が空を彩る。
「うん、ちゃんと草花や蝶々の形になっているね!花火、大成功!」
『『『大成功ー!』』』
花火を見て大はしゃぎする精霊達は、クルクルと飛び回る。
プリシラも、目を輝かせて嬉しそうだ。
また、街や屋敷の方からも歓声が聞こえてくる。
この花火こそ、豊穣祭の始まりを知らせる合図だから。
もちろん、単純に綺麗で目を奪われたというのもあるだろうが。
「さあ、どんどん打ち上げていこう!」
────そこから三十分ほど連続で花火を打ち上げ、プリシラは次の演出に移る。
「パレード、行くよー!」
『『『分かったー!』』』
プリシラと精霊達は屋敷の玄関先まで引き返し、屋根なしの馬車に乗り込んだ。
いそいそと鞄の中からオルゴールを取り出す彼女の前で、ヘイゼル・ライアン・レクス・ルークも同乗してくる。
これで、レーヴェン公爵家大集結だ。
「プリシラ、準備はいい?出すわよ?」
「うん」
オルゴールのゼンマイを巻きつつ、プリシラは首を縦に振った。
ヘイゼルが、御者に『出して』と指示を出す。
間もなくして、レーヴェン公爵家の面々を乗せた馬車は走り出した。
「そろそろかな」
屋敷の敷地から出たことを確認し、プリシラはゼンマイから手を離す。
その瞬間────オルゴールを中心にして、どこからともなく花びらが降ってくる。
それに、軽快な音楽も鳴っている。
「「「領主様〜!」」」
予め整備された道に差し掛かったところ、領民達が笑顔で出迎えてくれた。
プリシラ達に手を振ったり、花びらをキャッチしたりしている。
「はははっ!ウチの民達は皆、元気だなぁ」
「思ったより、活気づいていて良かったわ」
「これも全てプリシラのおかげだな!」
「何で兄上が威張っているの」
「ダンジョンまで行った甲斐が、あったね」
ライアン・ヘイゼル・レクス・ルーク・プリシラは思い思いの言葉を述べつつ、領民達の歓声に応えた。
────程なくして広場に辿り着き、Uターン。
帰りも和やかな雰囲気で進み、パレードは無事に終了した。
「じゃあ、レクス達は休憩がてら身支度を整えていらっしゃい。ライアンは私と一緒に、パーティーの最終確認と招待客の相手よ」
帰宅早々、ヘイゼルの一声でこの場は解散。
プリシラ・レクス・ルークは自室に引き上げ、各々湯浴みやら着替えやらに取り掛かった。




