調査協力
◇◆◇◆
────ダンジョンの件から、一週間後。
ヘイゼルは皇城の応接室に足を運び、カルムと顔を合わせていた。
「手紙にも書きましたが、ちょっと面倒なことになりましたので皇室に調査協力をお願いしたいのです」
向かい側のソファに座るカルムを見据え、ヘイゼルは手に持つ扇をギュッと握り締める。
緑の瞳に隠し切れない怒りを滲ませる彼女の前で、カルムは内心苦笑を漏らした。
「(予想はしていたけど、相当頭に来ているようだね)分かったよ。力を貸そう」
プリシラ関連ということもあり、カルムは二つ返事で応じた。
緑の瞳を真っ直ぐ見つめ返す彼を前に、ヘイゼルは少し肩の力を抜く。
「ありがとうございます。では、早速なんですが────」
具体的に何をしてほしいのか話し、ヘイゼルはカルムの了承や妥協を引き出していった。
特に揉めることもなく今後の動きが決まり、休憩がてらティータイムを挟む。
そこで、カルムが一つ息を吐いた。
「それにしても、相手の狙いは一体なんだろうね。暗殺にしては、回りくどい気がするけど」
ダンジョンの一件がどうにも腑に落ちない様子のカルムに、ヘイゼルはこう答える。
「恐らくですが、最終的な目標は────我が家の豊穣祭を台無しにすることです」
「豊穣祭?」
全く関係なさそうな単語が飛び出てきて、カルムは堪らず首を傾げた。
すると、ヘイゼルは眉間あたりを解す。
「ええ、実は現在進行形でどこかから妨害を受けていまして。豊穣祭に必要な物資を調達出来ていない状況なんです」
「あぁ、なるほど」
察しのいいカルムは、その説明だけで納得した。
「プリシラ嬢の逞しさを警戒したのか」
────材料がない?なら、自分で採取すればいいじゃない。
という貴族令嬢にあるまじき思考回路を持つプリシラ。
現に今回も自らダンジョンに赴いている。
なので、黒幕はダンジョンに行けないような状況を作り出そうとしたのだ。
「それで適当に襲撃して脅すのではなく、魔物の複製具まで出してくるところに本気を感じるね」
「適当な襲撃では、こちらの意思次第でまたダンジョンに行く可能性がありますから万全を期したかったのでしょう」
「だからと言って、プリシラ嬢をスタンビートの首謀者に仕立て上げるのは無理があるけどね」
「あちらも本気で出来るとは思っていませんよ、きっと。ただ、波風を立てて『周りの目もあるし、しばらくはダンジョンに近づかない方がいいだろう』という空気にしたかったのかと」
魔物の複製具によるスタンビートの現場に、錬金術師であるプリシラが居たとなれば自然と疑いの目は行く。
やるかどうかはさておき、実行可能な人間ではあるから。
「全く……とんでもないことを考える輩も居たものだ(おかげで、こっちは大忙しだよ。果たして、今回は何人排除されるやら)」
小さく肩を竦め、カルムは天井を見上げた。
────間もなくして、この場はお開きとなる。
そこからは、怒涛の調査。調査。調査。
皇室とレーヴェン公爵家が総力を上げたため、比較的早く関係者の貴族達を洗い出せた。
(とはいえ、この者達も真の黒幕ではないでしょうね)
トカゲの尻尾切りという言葉を脳裏に思い浮かべ、ヘイゼルは報告書を眺める。
そこには、騎士爵や男爵など貴族の中だと立場の弱い者達しか書かれていない。
「魔物の複製具まで出てきたことを鑑みると、あまりにも小物」
トントンと指先で報告書を突き、ヘイゼルは椅子の背もたれに少し寄り掛かった。
(新情報もあまり期待出来なさそうだし、豊穣祭までに黒幕を叩くのは難しいかもしれないわね。ただ、手駒はかなり潰したからあちらも身動きを取りづらい筈。少なくとも、これ以上妨害工作をするなら────直接行動を起こすことになるでしょう)
もちろん、黒幕本人が手を下すという意味ではなく、指揮を執るなど矢面に立つことを指している。
「後手に回るのは癪だけど、こちらも暇じゃないから仕方ないわね。一先ず、豊穣祭の準備に専念しないと」
幸い、怪我の功名とでも言うべきか物資の調達は事情を知った皇室に仲介してもらって、何とかなった。
あとはひたすら頑張って、万全の体制で豊穣祭を迎えるのみである。
「ところで────プリシラはいつになったら、部屋から出てくるのかしら?」
材料採取を終えてからずっと自室に籠っているプリシラが気になり、ヘイゼルは顎に手を当てた。




