魔物の複製具
「はっ?それって、まさか禁制品の────魔物の複製具か!?」
動揺のあまり半ば怒鳴るように叫び、ルークは僅かに表情を強ばらせた。
と同時に、容疑者の三人がビクッと肩を揺らす。
『ま、不味い……!』と青ざめる彼らを前に、プリシラは横髪を耳に掛けた。
「多分?効果内容は同じみたいだし」
「っ〜……!!!」
感情が昂りすぎて言葉にならず、ルークは強く奥歯を噛み締める。
その瞬間、とてつもない轟音が鳴り響き、大きな雷を落とした。
「(よりによって、魔物の複製具とは……!あれはグレイテール帝国のみならず、周辺諸国でも作成・使用・所持が全面的に禁止されているほどの代物だぞ!)」
過去の戦争で甚大な被害を生み、一時は大陸全体が魔物で溢れ返るんじゃないか?と言われるほどだったため、かなりの危機感を抱くルーク。
怒りなのか恐怖なのか顔を歪める彼の前で、プリシラは水晶に開けた穴へ手を突っ込む。
「とりあえず、魔道具を止めてもいい?」
「止められるのか!(資料にあった魔物の複製具はいずれも一度発動したら、魔石が空になるまで止まらないと聞いたが……!)」
「うん、魔石を引っ張り出せばいいだけだから」
「それは……そうだな」
魔石が空になったら止まるのならば、魔石を引き離しても止まる筈。
要するにエネルギー源が断たれれば、いいのだから。
まあ、それを予期してかつて魔物の複製具を作った者達は相当硬い外殻を考案したのだが。
史上最高峰の錬金術師であるプリシラには、通用しなかったようだ。
しっかり穴が空いている水晶を前に、ルークは肩の力を抜く。
「やってくれ」
「はーい」
いつもの調子で返事し、プリシラは水晶の内部にある魔石を豪快に掴む。
そのまま力任せに装置から引き離し、外に出した。
「これで、止まったよ」
「なら、もう異常なスピードで増えることはないんだな?」
「うん」
「じゃあ、兄上と一緒に殲滅へ移れ」
牽制に甘んじるのは終わりだと告げるルークに対し、プリシラはこう述べる。
「いいけど、魔物の複製具はどうするの?」
「問題なければ、そっちで預かってほしい」
「分かった」
二つ返事で了承するプリシラは手袋やナイフと一緒に、水晶と魔石も鞄の中に仕舞う。
「お兄様ー!私も加勢するねー!早く全部倒して、お家に帰ろー!」
一人地上で戦っているレクスに声を掛け、プリシラは鞄からボトルサイズの円柱を取り出した。
その底面に指を掛ける彼女の前で、レクスが顔を上げる。
「おお!そうだな!あんまり遅くなると、母上が心配するだろうし!」
「「「(なんだ、この『門限前に帰らないといけない子供』みたいな反応は)」」」
この場に似つかわしくないほのぼのとした会話に、容疑者の三人は思わずツッコミを入れた。
────と、ここでプリシラが底面をグイッと押す。
すると、もう一方の底面が光った。
「ん?ランタンか何かか?」
「そんなところかな」
「俺の足元を照らすためか?プリシラは本当に気が利くなぁ!」
「ううん、それは違う」
レクスの勘違いをハッキリ否定し、プリシラは円柱の光を魔物に向けた。
「これはね────魔物だけ溶かす光線が出る魔道具なの」
その言葉を裏付けるように、光に当てられた大きな狐がジュワッと溶ける。
瞬く間に光の粒子と貸すソレを前に、プリシラは円柱の側面についたスライドレバーをいじった。
それに合わせて、一点集中だった光がフワッと広がる。
「これなら間違ってお兄様を傷つける心配もないし、攻撃範囲もそこそこあるから便利なの」
「そうか!それは凄いな!さすがは、俺の妹だ!」
『自分のためじゃなかった』というショックよりも純粋な感心が勝るようで、レクスは目を輝かせた。
良くも悪くも単純な彼を前に、プリシラは光線でどんどん大きな狐を屠っていく。
『『『僕達も手伝うよー!』』』
大きく手を上げて立候補し、精霊達は各々自然を操った。
風の刃や炎の海で一気に五十体くらい倒す彼らを前に、容疑者の三人はチラリとルークの方を見る。
もしや、あの攻撃は全て彼一人の魔法によるものなのか?と。
ヒクヒクと頬を引き攣らせる三人を他所に、レクスがゆるりと口角を上げた。
「俺も負けていられないな!」
氷剣とこの前もらった剣を構え直し、レクスはまとめて十体ほど大きな狐を切り伏せる。
また、その際に出た氷剣の冷気でついでに三体ほど仕留めた。
プリシラや精霊達にも負けないくらい無双する彼の前で、ルークはカチャリと眼鏡を押し上げる。
「(この調子なら、十分と経たずに終わりそうだ)」
もうほぼ勝ったようなものだと思案し、ルークは容疑者の三人に向き直った。
「見ての通り、この事態を切り抜ける目処は立った。これが何を意味するか、分かるか?」




