魔物の異常発生
「そこ、早くして」
そう言って、ルークはプリシラとレクスのことを指さした。
かと思えば、クイッと人差し指を上に向ける。
その動作に合わせて二人の体が浮き、ほぼ強制的に移動を始めた。
(おっと、落とす前に早く収納しよう)
黒い鹿のツノを、レクスが持っていた分まで鞄に仕舞うプリシラ。
そんな中、ルークは階段に辿り着く。
「さあ、次の階層に行くよ。気持ちを切り替えて」
────そこから先は、あっという間だった。
一切止まることなく各階層を突っ切り、目的の五十階層まで到着すると、そこの特殊部屋を攻略。
今は予備の材料を確保がてら、地上に引き返しているところだ。
「もうすぐ、二十階層か。なんか、行きより早い気がするな」
レクスはルークの風魔法に飛ばされるがまま、二十階層に繋がる階段を進む。
退屈そうに伸びをする彼の前で、ルークは『気が抜けているな』と溜め息を零した。
「行きで大量に魔物を討伐したから、帰りはその分戦闘が減って楽なんだよ────っと、二十階層に着いたね。集中して」
「ん(どうせ、俺の出る幕なんてないだろうけどな)」
二十五階層の特殊部屋を除き、魔物との戦闘はほぼ精霊達の独壇場。
いくら青騎士団の団長と言えど、入り込む隙はなかった。
『『『さあ、今回もやっちゃうよー!』』』
気合い十分の精霊達は、プリシラ達の前に躍り出る。
その刹那────どこからともなく、大きな狐が現れた。
しかも、数百体くらい。
「数がおかしい……あまりにも、多すぎる」
行きで大量に討伐した点を抜きにしても、一つの階層にこれほど魔物が出ることは滅多にない。
人の手が行き届いていないダンジョンなら、いざ知らず……ここはそういう訳でもないため。
「不味いな、このままだとスタンビートの可能性も……」
「全部狩れば、問題ない!」
ルークの不安を振り払うように、レクスは胸を張って宣言した。
「分裂する魔物のときと同じだ!だろ?」
ルークの肩に手を置き、レクスは明るく笑う。
こんな状況でもやっぱり脳筋な彼を前に、ルークはピクッと眉を動かした。
「いや、同じではないけど。特殊部屋のときとは違って空間が区切られてないから取り零しに注意しないといけないし、こうなった原因も調べないといけない」
「あっ……」
「(兄上のことだから、多分自分の見せ場が来たくらいにしか思っていないんだろうな。全く……でも、その脳筋っぷりのおかげで気が抜けて少し冷静になれた)」
僅かに肩の力を抜き、ルークは小さく深呼吸した。
かと思えば、ペイッとレクスの手を叩き落とす。
「とりあえず、僕は出入り口を塞いでくる。兄上はここに残って、プリシラの護衛と魔物の牽制をして」
「ああ、分かった!」
気を取り直したように大きく頷くレクス。
ルークはそんな彼を地面に下ろし、まず二十一階層に繋がる階段を結界で塞いだ。
「プリシラはここで兄上のサポートをしつつ、可能なら原因の調査をしてくれ」
そう言うが早いか、ルークは十九階層に繋がる階段の方へと飛んでいく。
瞬く間に小さくなる彼の背中を前に、プリシラは鞄の中を漁った。
「お兄様のサポートは、私がやるとして……調査の方は精霊さん達に任せてもいい?(ルークはここで活動するよう言っていたから、私はあちこち行けないんだよね。それに、精霊さん達に頼んだ方が絶対に早いもの)」
『『『いいよー!』』』
元気よく返事して、精霊達は散り散りになる。
もちろん、プリシラを守るために半数は残した上で。
(さて、私も自分の役目を……)
『『『ただいまー!』』』
相変わらず仕事の早い精霊達は、三十秒と待たずに戻ってきた。
『あのねー、僕達以外の人間が三人居てー!魔物に囲まれてたー!』
「あらら、それは大変。助けてあげられない?」
『うーん。出来るけど、あんまり気が進まないかもー!だって、あいつら怪しかったもーん!』
「怪しかった?それって、どんな風に?」
詳細を尋ねるプリシラに対し、精霊達は口々に話し出す。
『なんかねー、“話が違う”とか“魔物除けが効かない”とか言っていたー!』
『それにね、それにねー!あいつらの痕跡がある道に、変なものが置いてあったのー!』
『多分、魔道具だと思うー!』
「!」
少しばかり目を剥き、プリシラは精霊達のことを凝視した。
「それは確かに怪しいね」
納得したように頷き、プリシラはここからどう動くべきか悩む。
その間、鞄から取り出した魔道具でレクスのサポートをすることも忘れない。
「────何難しそうな顔しているの?」




