特殊部屋
「ここの特殊部屋の条件って、普通に魔物の殲滅でいいんだよな?」
レクスはどんどん近づいてくる観音開きの扉を見据え、問い掛けた。
プリシラはその質問に答える。
「うん、その筈だよ」
「よし!じゃあ、これまでみたいにノンストップで行けそうだな!」
「う〜ん……それはどうだろう?」
「どういう意味だ?」
すかさず、疑問を呈するのはルークだった。
慎重派の彼なので、何かイレギュラーな要素があるなら把握しておきたいのだろう。
「えっとね、私の記憶が正しければこの特殊部屋の魔物って倒すと分裂するんだよね」
「「はっ?」」
「もちろん、永遠に増えるって訳じゃないよ?」
終わりはあることを告げるプリシラに、ルークは眉を顰める。
「……一応聞くが、最終的にどのくらい増えるんだ?」
「確か、二百〜三百くらい。そこでようやく分裂しなくなって、残った魔物を殲滅したら条件達成って流れだった筈」
「はぁ……」
堪らず溜め息を零し、ルークは額に手を当てた。
「気が遠くなりそうだ……一体、どれだけの時間が掛かるんだか」
「大丈夫だ、ルーク!皆で力を合わせれば、直ぐに終わる!(精霊達に任せっぱなしで出番なかったし、ここらでいいところを見せられそうだ!)」
せっかくついてきたのにずっと見せ場0だったので、レクスは『今こそ、チャンス!』と意気込む。
────と、ここで特殊部屋の前に到着し、全員地面に降りた。
「そんなに上手くいかないと思うけど……やるしかないか」
レクスの脳筋発言に呆れながらも、ルークは腹を括る。
「さっさと扉を開けて、兄上」
「おう!(そう来なくっちゃな!)」
二つの取っ手を両手で掴み、レクスは勢いよく扉を開け放った。
「行くぞ!」
目の前に広がる森のような空間を前に、レクスは一歩踏み出す。
プリシラやルークも、そのあとに続いた。
────間もなくして、扉が独りでに閉まる。
「来たな、魔物!」
少し離れた丘の上に立つ黒い鹿を見上げ、レクスは氷剣とこの前もらった剣を抜いた。
と同時に、精霊達が炎の槍を放って黒い鹿を倒す。
そのまま光の粒子と化す黒い鹿の前で、レクスはガクッと肩を落とした。
「嗚呼、俺の出番が!」
『『『早い者勝ちー!』』』
キャハキャハと楽しげに笑い、精霊達はレクスの周りを飛び回る。
そんな中、光の粒子が二箇所に分かれて固まり────黒い鹿の姿を象った。
これこそ、プリシラの言っていた分裂である。
「今度こそ!」
『『『ざんねーん!』』』
全速力で駆け出すレクスを前に、精霊達は再び黒い鹿を攻撃。
あっという間に両方、倒してしまった。
そして、また分裂→精霊達で撃破という流れが何度も繰り返される。
結局、レクスが攻撃に加われたのは魔物の数が百を超えてからだった。
「本当にキリがないな」
ルークは空中に浮いて戦況を俯瞰しながら、頭を振る。
予め話は聞いていたものの、実際に目の当たりにすると色々違うようだ。
「攻略そのものは順調なんだから、そんな顔するな!」
氷剣とこの前もらった剣で黒い鹿を切り伏せ、レクスは辺りを見回す。
次の標的を探すように。
「精霊達の攻撃が早すぎて、魔物達はほぼ無抵抗でやられているし!(おかげで、俺の出番もあんまりないけど!)」
「それはそうだけど、やっぱり時間が……」
「大丈夫だ!きっと、何とかなる!────おっ、見っけ!」
近場に居る手付かずの魔物へ、駆け寄るレクス。
『倒される前に!』と素早く首を切り落とす彼の前で、ルークは前髪を掻き上げた。
「(『きっと、何とかなる』って……その自信はどこから、湧いてくるんだ。脳筋だから、特に深く考えず言っているだけか?)」
小さく肩を竦め、ルークはおもむろに腕を組む。
「(まあ、でも────精霊達と兄上が競い合っているからか、確かに討伐スピードは早い。仮にどこかで減速したとしても、僕とプリシラという余力があるから大幅なタイムロスはないだろう)」
どうにか前向きになり、ルークは引き続き戦況を見守った。
────やがて黒い鹿は二百ほどになり、ルークやプリシラも戦闘に加わる。
と言っても、隅っこに逃げた個体をちょちょいと消す程度だ。
「────やっと、終わりか」
分裂しなくなりあっという間に殲滅された黒い鹿を見やり、ルークは腰に片手を当てる。
「(掛かった時間はおおよそ、二十分。悪くないタイムだ。無論、普通の特殊部屋の方がずっと早く終わっていただろうけど)」
カチャリと眼鏡を押し上げ、ルークはふと奥の方を見た。
すると、崩れ落ちた一部の壁が目に入る。
その先には、次の階層に繋がる階段があった。
「二人とも、さっさと先に……」
「「おお〜!」」
黒い棒のようなものを手に取り、プリシラとレクスは子供のように目を輝かせる。
「黒い鹿のツノだ〜!初めて出た〜!大体、いつも爪なのに〜!」
「レア中のレアってことか!しかも、二本もあるぞ!」
特殊部屋のドロップアイテムはどれも希少なので爪でも嬉しいだろうが、より希少なものなら尚嬉しいというもの。
元々の材料リストにないものなので、今回は使わないが。
「そこ、早くして」




