自力で採取
正反対の反応を見せる二人を前に、プリシラは口元に手を当てた。
「なら、ルークは無理?」
「そうは言ってない。少しなら、時間が作れる(プリシラの気まぐれで誘っているなら無視するけど、母上からの要請となるとそうもいかない。何か不測の事態が起きている、ということだろうから)」
ヘイゼルの指示には理由があると考え、ルークは重い腰を上げる。
と同時に、プリシラが目を瞬かせた。
「(忙しいのに了承するなんて、珍しいな)いいの?」
「ああ。カルム皇帝陛下のおかげで皇城での仕事は免除されているから、その分多少余裕があるんだ」
カチャリと眼鏡を押し上げ、ルークは懐から紙とペンを取り出す。
「で、どのダンジョンに行きたいんだ?」
転移魔法を使用するつもりなのか、ルークはプリシラから行き先を聞くなりペンを動かした。
手馴れた様子で魔法陣を描き上げ、彼は全員を連れて転移する。
「ほら、行くよ」
ダンジョンの出入り口を見据え、ルークは先陣を切った。
すると、レクスやプリシラは急いでそのあとを追う。
その際、レクスはさりげなく先頭に躍り出た。
「プリシラ、今回は何階層まで行くんだ?」
「出来れば、五十階層まで行きたいかな」
「結構深いな」
「欲しい材料の一つが、五十階層じゃないと手に入らなくて」
材料リストを脳裏に思い浮かべて答えるプリシラに、レクスは小さく相槌を打つ。
「そうか(正直今日一日で行ける距離ではないが、ルークや精霊達も居るなら何とかなるか?)とりあえず、行けるところまで行ってみよう」
「うん」
視線を前に戻し、プリシラはダンジョンの中に足を踏み入れた。
その刹那、フワッと体が宙に浮く。
「じゃあ、浅いところは一気に駆け抜けるよ」
ルークは魔法で浮かせた自身の体とプリシラ達を見やり、一気に加速した。
一直線に次の階層へと向かう中、プリシラは魔物を見下ろす。
「ルーク、この階層にも採りたいものが……」
『『『僕達が採ってきてあげるー!』』』
そう言うが早いか、精霊達は炎の矢や風の刃で魔物を倒し、ドロップアイテムを拾ってきた。
いつも通りじゃんじゃんプリシラの鞄に入れていく彼らを前に、ルークとレクスは僅かに目を剥く。
「おお〜!楽でいいな〜!」
「これなら、立ち止まる必要なさそうだね」
『まあ、私達の手に掛かればこんなものよー!』
『まだまだ全然序の口だしー!』
『ほーれ、もういっちょ!』
この階層の魔物を根こそぎ狩る勢いで、精霊達は撃破と回収を続けた。
あっという間に必要分を確保して立ち去る一行を前に、周りの冒険者は
「「「(あぁ、プリシラ様が来たのか)」」」
と、直ぐに察する。
「相変わらず、嵐のような人だなぁ」
「今回は同行者が居るみたいだけど、誰だろ」
「……多分、青騎士団の団長と宮廷魔導師団の師団長。建国祭のパレードか何かで見た」
「「「はっ?」」」
思わぬ大物に驚き、周りの冒険者は目が点になる。
が、直ぐに持ち直した。
「ははは。そりゃあ、プリシラ様の同行者だもんな。只者な訳ないか」
「確か、レクス様とルーク様はプリシラ様の兄弟だしな。一緒に居ても、おかしくない」
「ただ、何故そのメンツでダンジョンに来た?って疑問は残るけど」
「グレイテール帝国の最大戦力だからな、ある意味……何か起きるんじゃないかって、ちょっと不安だわ」
冗談半分本気半分の発言に、周りの冒険者は顔を見合わせる。
『そういえば、凄く急いで移動していたよな』とか、『いつもより、荒っぽい狩りだったよな』とか口にしながら。
「やめろやめろ、そんなこと言うんじゃねぇ」
「ほら、口より手を動かしなさいな」
「今日分の稼ぎが、減るぞー」
「けど、今日のところは浅い階層で我慢しよう」
「「「賛成!」」」
なんだかんだ尻込みする冒険者達。
そんな彼らの中で、数名プリシラ達のあとを追い掛ける者が居た。
まあ、追いつける筈はないのだが。
何故なら、プリシラ達はもう────二十五階層まで到達しているから。
「あと、半分だな」
「本当に今日一日で、五十階層まで行けそうだね」
空中浮遊したまま、レクスとルークは腕や足を組む。
ちょっと気が抜けしている彼らを前に、プリシラは身を乗り出した。
「あっ、見えてきたよ────特殊部屋」
前方にある観音開きの扉を指さし、プリシラはレクスとルークの方を見る。
特殊部屋とは、ダンジョンの仕様の一つで強力かつ厄介な魔物が居る空間を指す。
そこに一度足を踏み入れると、指定の条件を達成するまで出られない。
大抵は魔物の殲滅だが、たまに『魔物に乗って、一キロ走れ』とか『魔物の好物を探し当て、懐柔しろ』とかの変わり種もある。
ちなみにどの階層に特殊部屋があるのか、どんな魔物が出てくるのか、どういった条件を課せられるのかはダンジョンによって異なるため注意が必要だ。
「ここの特殊部屋の条件って、普通に魔物の殲滅でいいんだよな?」




