気晴らしにでもなれば
◇◆◇◆
────フレンダの処刑が、執り行われた一週間後。
レーヴェン公爵家の一室に、一同集結する。
ヘイゼルより、呼び出しを受けたからだ。
「────今年の豊穣祭なのだけど、家を上げて盛大にやるわよ」
ヘイゼルは世間話もそこそこに本題を切り出し、ソファの上で紅茶を飲む。
「理由は主に二つよ。まず、今回が百回目の節目ということ。次に、領民へ安心感を与えること」
「「安心感?」」
案の定とでも言うべきか、脳筋のライアンとレクスは疑問を持った。
その傍で、ルークが眼鏡を押し上げる。
「先日の一件のことでしょ」
「ええ。あれで作物がダメになりかけたものだから、領民の一部は不安を抱いているの」
フレンダの魔道具による被害を思い浮かべ、ヘイゼルは小さく息を吐いた。
どこか疲れたような顔をする彼女の前で、プリシラは小首を傾げる。
「ちゃんと対処も原因解明もしたのに、不安なの?」
「こういうのは、理屈じゃないのよ。もちろん、何も出来ない・分からない状況よりはマシだけど、いきなり降って湧いた非日常を直ぐに割り切れる人は少ないわ」
「ふーん?そうなんだ」
いまいち理解出来ない感覚ではあるものの、プリシラは一応納得した。
ライアンやレクスも、『そういうものか』と相槌を打つ。
「正直たった一度のお祭りでどうにかなるなんて思ってないけど、それでもやる価値はあると思っているわ。頭の中を空っぽにした馬鹿騒ぎって、たまには必要でしょうから」
チラリと横目でライアンとレクスを見ながら、ヘイゼルは肩を竦めた。
「気晴らしにでもなれば、こちらとしては満足よ」
ふと窓の方を向いて、ヘイゼルは穏やかな笑みを浮かべる。
(気晴らし、か。うん、分かりやすくていいね)
豊穣祭のイメージが固まり、プリシラは僅かに頬を緩める。
「じゃあ、私のやることは演出かな?」
「ええ、魔道具などで豊穣祭を盛り上げてちょうだい」
「任せて」
大きく頷くプリシラに、ヘイゼルも頷き返す。
「レクスとルークは警備を頼むわね。武器と魔法、どちらで攻められても問題ないようにして」
「「了解」」
声を揃えて、返事するレクスとルーク。
「(大事な家族と領民の居る土地だ、絶対に守り切る!)」
「(もし、公爵領で悪さするやつが居るなら死ぬほど後悔させてやる。ついでに、新しい魔法の実験台になってもらおう)」
騎士道精神に溢れるレクスに反して、ルークは大変物騒な思考回路の持ち主だった。
だが、頼もしい。
なので、ヘイゼルはそのやる気……いや、殺る気に気づいていながらも『よろしくね』とスルーした。
極論、悪さするやつが悪いから。痛い目に遭いたくないなら、大人しくしていればいいのだ。
「ライアンは各所との調整や諸々の手配、スケジュールの管理……」
「う、うむ……」
「大丈夫よ、ちゃんと私がサポートするから」
「ヘイゼル!」
パァッと明るい表情になり、ライアンは『助かった!』と喜ぶ。
その横で、ヘイゼルはプリシラ達の方を見た。
「もちろん、貴方達のこともね」
全員のサポートに回ることを口にし、ヘイゼルはティーカップを置く。
「ただ、私もパーティーの準備があるから時間を取れないときもあるわ」
顎に手を当ててそう言うヘイゼルに対し、ライアンはピシッと固まった。
そんな中、ルークが口を開く。
「それは別にいいよ、僕達ももう子供じゃないし。それより、パーティーってやっぱり全員参加?」
豊穣祭に限らず、こういう大きな祭りではパレードなどを終えたら『貴族はパーティーで社交』というのが当たり前。
「そうね。百回目という節目でパーティーも盛大にやるつもりだから、ルーク達も最初に顔くらいは出すべきね(最低限の礼儀さえ守ってくれれば、あとは私とライアンの方で上手くやるわ)」
「分かった────プリシラ、聞いていたか?」
不意に話を振ってくるルークに、プリシラは『ん?』となりながらも一先ず首を縦に振る。
「うん」
「乾杯の挨拶したら、即行で下がれよ?いや、僕がパートナーになって引き摺っていくか(どうせ、僕も長居するつもりはないし)」
現在レーヴェン公爵家の子供達に婚約者や恋人は居ないため、社交関係のパートナーは大体兄弟だ。
この年齢で浮いた話一つないのは異例中の異例なのだが、仕方ない。
なんせ、一人は物作りヲタクでもう一人は魔法マニア。そして、最後の一人は────
「ちょっと待った!!!プリシラのパートナーは、俺がやる!!!いや、やらせてくれ!!!着飾ったプリシラを、隣でたっぷり愛でたい!!!」
────極度のシスコンだから。
「兄上……」
ルークは人じゃないものを見るような目を向け、少し顔を顰めた。
引いているのが一目で分かる彼を他所に、精霊達はレクスのことを指さす。
『『『ダダ漏れー、シスコーン』』』
やれやれと言わんばかりに、肩を竦める精霊達。
相変わらず自分達のことは棚に上げる彼らの前で、ヘイゼルが口を開く。
「一応聞くけど、厄介な人達に声を掛けられたら穏便にプリシラを連れ出せる?」
「ああ!そのときは相手を一瞬で絞め落として、即刻離脱する!」
「それは穏便と呼ばないんだよ、兄上」
「そうなのか?」
ルークからの指摘を受けて、レクスはパチパチと瞬きを繰り返す。
「騒がれる前に大人しくさせれば、概ね穏便だと聞いたんだが」
「誰に?」
「父上に」
「はぁ……」
額に手を当てて、項垂れるルーク。




