嫌い
「はははははっ!天才たる所以はそれか!いや、天才じゃないな、これは!価値があるのは精霊で、お前自身じゃないんだから!とんだ、詐欺師じゃないか!こんなのが史上最高峰の錬金術師だなんて、滑稽だな!」
精霊の協力などなくても、プリシラは紛うことなき天才だ。
フレンダも、それはちゃんと分かっている。
ただ、雲の上の存在だと思っていた者が実は山の頂きくらいの存在だと知って調子に乗っているだけ。それから────。
「そうですか。貴方がそう思うなら、それでいいです」
今日出会ったばかりの人間の評価など全く興味がないプリシラは、あっさり流した。
その途端、フレンダがヒクッと頬を引き攣らせる。
「はっ?お前には、プライドが……」
「私はちゃんと自分を持っているので。他人の言葉じゃ傷つきませんし、揺らぎません」
自分で自分をしっかり守れるプリシラに、フレンダは小さく息を呑んだ。
────『あわよくば、精神的ダメージを入れてやろう』なんて無理なんだ、と悟って。
「(強いな……腹が立つほどに。しかも、錬金術師としての能力じゃなくて人としての器の話というのが余計に気に食わない。嗚呼、本当に────)お前なんて、大嫌いだ」
今までの激情っぷりが嘘のようになりを潜め、フレンダは無表情で淡々と言い切った。
いつの間にか涙も止まっている彼女を前に、プリシラは肩を竦める。
「私も無関係な人をたくさん巻き込んで、暴れる貴方なんて嫌い」
不満を露わにしつつ、プリシラは例の霧吹きを再び取り出した。
かと思えば、フレンダに吹き掛けて眠らせる。
「そろそろ日も暮れるし、引き上げよう、ルーク」
その言葉を皮切りに、プリシラ達は撤収の準備をしてレーヴェン公爵家に戻った。
そこでヘイゼルとライアンに事情を話したり、魔道具の機能停止を行ったりする。
「お疲れ様。あとのことは私達に任せて、二人はもう休みなさい」
「本当に凄く助かった!さすがは、我々の自慢の子供達だな!」
労うように頭や肩を優しく叩くヘイゼルと、腰に手を当てて誇るライアン。
二人はプリシラとルークを部屋まで送り届けると、フレンダの情報収集やら再度の尋問やら行った。
その過程で、フレンダが魔道具関連の事件を引き起こすことによりプリシラを誘き寄せ、隙を見て消す算段だったことを知る。
正直、とても杜撰……というか大雑把だが、結果は大成功なので何とも言えない。
「とりあえず欲しい情報は全て手に入ったから、処刑しましょう」
ヘイゼルはライアンの執務室にて、静かに……でも、ハッキリと言った。
「いつまでも、プリシラの秘密を知る人間を生かしておけないわ」
「ああ、そうだな。それに、下手に生かしてまたプリシラや公爵領へ絡まれたら面倒だ」
直接フレンダの尋問を行っていたライアンは、彼女の不安定さとプリシラへの異常な執着を危険視していた。
あれは直ぐにでも消すべきだ、と。
「罪状的にも死刑で問題ないでしょうし、明日……いえ、今から執行しましょう。もちろん、公開ではなく内々でね」
広げていた扇をパンッと閉じ、ヘイゼルはソファから立ち上がる。
「被害を受けた領民達は納得しないかもしれないけど、処刑中プリシラの秘密を暴露されても困るから。あと、あんまり派手に立ち回ると外野に横槍を入れられそうなのよね」
元とはいえ、フレンダは宮廷魔道具師。
その才能を、実力を、作品を求める者は少なくない。
「分かった。私がやろう」
家族や領地のためなら、自分の手を汚すことも厭わないライアン。
そこにあるのは、フレンダへの怒りでも憎悪でもなく揺るぎない信念だけだった。




